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21‐3 正木誠司、制御不能(後編)
しおりを挟む「エレス、ジョニーの援護を頼むぞ!」
【はい。お任せ下さい】
突破口を開けた魔物の群れに向けて、銃撃を行いながら駆ける。川を遡上するように、前方にいる魔物だけを仕留め続けて道をこじ開けていく。
回収できる死体は全てストレージに入れる。後ろにいるジョニーが少しでも楽をできるように、少ないながらも足の踏み場を用意して進む。
まずい! ハイオウガが二体!
「エレス! ライトだ!」
前方に見えたハイオウガを閃光が襲う。エレスに声が届いたようだ。
ハイオウガが叫び声を上げて目を覆っている隙に頭を狙って銃撃する。
一、二、三、四発撃ってやっと頭が飛んだ。
硬すぎだろハイオウガ。石頭にもほどがある。
もう一体は俺の後ろから飛んでいった光弾が仕留めた。ジョニーの銃撃だ。
俺より後に撃ち始めたのに仕留めるタイミングが同じ。おいおい納得いかないぞ。一体どうなってんだよジョニー。などと思っているうちに群れが途切れた。
ふぅ、ようやく魔物のいないスペースに到着したな。
門までは残り百メートルもない。
「セイジありがとよ! エレスのライトに救われたぜ! それで、どうする!」
追いついたジョニーが、俺の横に並んで訊いてきた。
まだ門前で暴れているオルトロスワームのことを言っているのだろう。とりあえず息苦しいのでガスマスクを外す。ジョニーも外した。
「どうするって、そんなもん俺が知りたいわ」
「はぁ、だよなぁ。流石に隠れてやり過ごすしかないか」
「隠れたところで、オルトロスワームが寝ると思うか? 暴れ狂ってるぞ」
「ああなったらしばらくは眠らねぇな。一日二日は覚悟しねぇと駄目だ」
そんなに時間をかける訳にはいかない。物資に限りがある。ウシャスを魔物から解放する為には一刻も早くエルバレン商会の皆と合流する必要がある。
それに、オルトロスワームが中央通路に出て行く可能性もある。今はまだなんとか縄張り意識が保たれているが、いつ気まぐれを起こすかわからない。
まぁ、俺がそうさせた張本人なんだけどな。
均衡を崩した自覚がないほど馬鹿じゃない。
それがこういう事態を招く要因にもなっているのだから困ったもんだ。
とにかく、ジョニーと一緒に中央通路に出るには、オルトロスワームの前を通過しなければならない。どう考えてもそこが一番の難関だ。
おそらく、俺は抜けられるだろう。だがジョニーは危ない。
道中、二回もやらかしやがったからな。あっさり死んでしまいそうだ。
そうなると、やっぱこれしかないか……。
やりたくない。やりたくないが、腹をくくるしかない。
ストレージからマグボトルとブロッククッキーを取り出しジョニーに渡す。俺は既に包みを剥がして食べ始めている。時間が惜しいからな。
「軽く補給しとくぞ。作戦を伝える」
「おう、どうすんだ?」
俺に続いて補給を開始したジョニーがもぐもぐしながら訊いた。緊張感がないが俺も人のことは言えないな。ああ水が美味い。
「俺が囮になる。ジョニーはポチとエレスに護衛させる」
【マスター! 賛成できません!】
初めてエレスの取り乱した声を聞いた。一蓮托生だからな。俺が命をかけるようなことを言えばそうなるだろう。だが、主導権は俺にある。
「賛成できなくてもやってもらう。俺が囮になっている間にジョニーには防衛地点で商会の皆と合流してもらう。その後は再編成して居住区まで来てほしい」
手早く説明を終えると、ジョニーが項に手を当てて神妙な顔をした。
「そうか。ここを押さえちまうってんだな」
「ああ、防衛前線にする。編成部隊と俺でオルトロスワームを討伐してな」
【私はマスターと離れたくありません。ライトを使うことを進言します。オルトロスワームの目をライトで眩ませている間に全員で脱出する方が無難です】
「そうしたいのは山々だが、ゴブリンやオウガなんかとは規模が違う。混乱して余計に暴れられても困るんだ。不運な事故で死にそうでな」
俺が昔はまってたモンスターを狩るゲームではそういう憂き目に何度もあった。マップ変更した瞬間にやられたりとかな。不運で片づけるしかなかった。
ゲームなら笑えるが現実で起きたら笑い事では済まない。ここでジョニーに死なれちゃ俺は一生引きずるだろう。死体で見つけるのとは訳が違うからな。
「俺はもう、ジョニーを生きて返す責任を負ってんだ。だからエレス、全力で援護して無事に送り届けてくれ。それと、ポチの修理も頼むな」
【マスター……わかりました】
「ありがとう。それじゃ、ドールと一体化してくれ。ジョニー、残った弾倉を全て渡しとくぞ。さっさと戻ってきてくれよ」
「なぁセイジよ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「どうだろうな。はっきりとはわからん。だがやるしかない」
「そうか。恩に着る」
拳を出されたので、苦笑して軽く打ち合わせる。それから軽く頷き合い、門のすぐ側まで身を潜めて進む。オルトロスワームに気づかれた気配はない。
さて、それじゃ精神構造をいじらせてもらおうかね。
ホログラムカードで感覚制御の画面を開く。いじるのは『存在感』『第六感』『鋭感』の三つ。久しぶりにいじったが『感』がついてないと駄目らしい。
そういう縛りがあるのかよと窮地に陥ってから気づかされるという。でも欲しい『感』があってよかったよ。まさか『存在感』があるとは思わなかったけどな。
ストレージから大剣を取り出して床に突き立て、ジョニーと二人でオルトロスワームを銃撃する。俺の銃に残った全ての弾を二つの顔面にぶち込んでやった。
「ジョニー、もういいぞ!」
唐突に痛みを感じたことに驚いたのか、オルトロスワームは身を仰け反らせて空気を擦るような声を上げる。その隙に俺はポチを背から下ろす。
ポチがジョニーの背に乗り背面装甲化するのを横目に俺は「行け!」と叫ぶ。
「セイジ、死ぬなよ!」
【マスター、どうかご無事で!】
「任せとけ!」
ウェアラブルデバイスの権限が外れ、感覚制御が行えなくなる。これで存在感100%は切り替え不可能。地獄の鬼ごっこの始まりだ。
オルトロスワームの二つの頭が周囲を見回し、間もなく俺に視線を止めた。割れた舌をチロチロと出しながら、お前だな、と言っているように俺を睨みつける。
「そうだよ、俺だよ」
大剣を抜いて手招きすると、ずうんという音と共に目の前に二つの頭が迫って来ていた。巨大なので少し動いて鎌首をもたげるだけで距離が詰まるらしい。
「こ、こりゃちょっと予想外だな」
呟きを終えた途端、凄まじい速度で向かって右の頭が突っ込んできた。『鋭感』と『第六感』の働きを感じる。捉えられない速度ではない。
後ろに飛び退きつつ大剣を振り上げ、着地と同時に振り下ろす。俺の一撃は右の頭の鼻先をバキバキと音を立てて圧し潰し、鱗を弾けさせ切り傷を負わせた。
左の頭が目を見開く。まさか反撃されるとは思わなかったようだ。硬直している間に、右の頭の首を狙える位置に素早く移動し大剣を振り上げる。
「う、おおおおおあああああああああ!」
ゴッという音と共に鱗が爆ぜ、首が軽く潰れて骨の割れる音を鳴らす。硬さに大剣が弾かれたが、その勢いを次の振り上げに利用して撃ち下ろしを繰り返す。
もう一撃、もう一撃、もう一撃と繰り返しているうちに爆ぜて飛んだ鱗の隙間に刃が入った。大木を斬る斧のように何度も何度も同じ傷を狙う。
隙があるうちにダメージを稼ぐ!
「フシュルルルルルル!」
我に返ったのか、左の頭が突っ込んできた。咄嗟に横に飛び退きながら大剣で防御する。が、凄まじい衝撃で後ろに吹っ飛ばされた。
回廊の床に大剣を突き立てガリガリと勢いを殺す。ホログラムカードで能力値を確認すると、HPが8減っていた。結構痺れる。STはもう半分以下だ。
まだデバフが効いてるのか、それとも連撃を繰り返し過ぎたのか。
しかし、僥倖。相手の侮りを利用して、右の頭の首を半分断てた。ぐらりと力なく垂れ下がった右の頭の口からは下がチロチロ出ている。
まだ生きている。憎々しげに睨みつけてくる。とんでもない生命力だ。だが、これで俺という存在を印象付けられたはずだ。オルトロスワームも警戒するだろう。
仇敵として認めながら、厄介な相手とも思わせる。そうすれば迂闊に手を出してこない。最初からそういう構図が理想だった。どうにか狙い通りにできたようだ。
これなら、もたせることができそうだ。
そうほくそ笑みながら、俺はまた大剣を構えた。
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