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20‐1 正木誠司、商会長と脱出(前編)
しおりを挟むジョニーはオウガのような男だった。髪と瞳の色はジーナと同じだが、他は似ても似つかない。ヨハンが筋肉馬鹿と言うのも頷けると失礼なことを思ってしまった。
合流したのはホテルのエントランス。酷い有様になっていたが、元は高級感のある内装だったのだろうとジョニーが気の毒になった。これ直すのに幾らかかるんだ。
「商会長のジョニーだ。エレスから話は聞いた。うちの連中が随分と世話になったようだ。俺の捜索までしてくれて感謝してもしきれん。助かった」
「こちらこそ。ジョニーさんに拾ってもらわなかったらどうなってたか。あと、まだ助かってないので気を抜かずにお願いします」
「わかった。それと、ジョニーで構わん。俺もセイジと呼ぶ。敬語も使わないでくれ」
「そりゃ助かる。堅苦しいのは苦手なもんでね」
最初の自己紹介のときからしたままでいた握手を解く。ごつい手してたな。元傭兵ってのは本当らしい。というか現役でも通用するだろこれは。
「それじゃ、行くか。ソルワイアームが寝てるうちに」
「ソルワイアーム? セイジの世界だとそう呼ぶのか?」
「俺の世界というか……まぁ、そうなるのか。こっちは違うのか?」
「ああ、ありゃオルトロスワームだ。ヒュドラの一種だな」
当たり前の話だが、名称が違ったらしい。俺はホログラムカードを操作し、アナリシスで得たソルワイアームの情報画面にオルトロスワームと入力しておく。
名前と特記事項は変更可能だ。図鑑作成みたいで少し楽しい。みたいというかそのものだな。内臓されてるレクタスの魔物データを見て学ぶのもいいかもな。
「ジョニー、オルトロスワームの弱点とかわかるか?」
【マスター、それは後にして移動を開始しましょう】
「お、そうだったな。悪いなジョニー」
「構わん。移動しながら教えてやるよ」
ジョニーは俺より頭一つでかい。体格もいいので恐怖感をオフにしてなければ確実に人怖じしていた。日本に居た頃だったら絶対に関わってなかったな。
こそこそとホテルから出て、居住区の商店前を進む。オルトロスワームがいるのは一階なので、まずは上の階に移動し見つからないように進む。
物音を消す必要がある為、戦闘状態移行時を知らせる警報も切ってある。ついでに可視化の方も縁取りだけが赤くなるよう変更しておいた。暇だったし。
商店の中や隘路、瓦礫の物陰に潜みながら、ゆっくりと足を進めていく。ポチが上から監視し、エレスがホログラムカードを通して指示をくれるから助かる。
オルトロスワームを起こしたくないという思いは同じなのか、魔物は静かにしていた。もっとも、俺たちを見つけると唸るので騒がしくなる前に仕留める。
トレンチナイフを構えて後ろから素早く忍び寄り、ゴブリンの首をスパーンと刎ねる。隣のゴブリンと振り返ったゴブリンも声を上げる前に始末する。
驚きに目を見開いたゴブリンの生首が床に落ちる。体がバタバタと音をたてて倒れる前に、ポチが接近してストレージに回収。それが済むとすぐに浮上する。
「たまげたぜ。見事なもんだな」
「今のところはな。俺もまだ使いこなせてる訳じゃないんだよ。昨日今日、運よく身に着いただけの力だからな。知らないことの方が多い」
「そうなのか? ああ、そういや、昨日起きたばかりなんだったな。だが、こんだけやるってことは、元の世界でも相当な腕前だったんじゃないのか?」
「いや、小虫を見て卒倒するような男だったよ。殺すことに抵抗がなくなったのはこっちに来てからだ。それまではただの情けない中年でしかなかった」
「本当かよ。そっちの方がたまげるぜ」
俺はお前がジーナの父親だってことにたまげるけどな。父親に似たとこが髪と目の色だけで良かったなジーナ。もし他も似てたら嫁の貰い手に困るとこだ。
そんな馬鹿なことを考えて肩の力を抜く。が、気が逸る。絶対に成功させないといけないという思いに駆られているからか、いまいち緊張感が解けない。
落ち着く為に、手近な店のすぐ側に隠れて足を止める。
ホログラムカードで能力値を確認する。精神の疲弊が影響するのか、STの減りが速い。なんだか体力を奪われているような気がする。そんなに動いてないぞ。
【マスター、なにか変です】
「ああ、俺も思った。変にSTの消耗が速いし体がだるい」
【STドレインを受けている可能性があります。こちらでは攻撃を受けている様子は確認できません。周囲を確認して原因を突き止めて下さい】
「いや、こっちも──」
振り返ると、ジョニーが膝を着いていた。顔には脂汗。苦しげに息をしている。
ジョニーの肩には真っ白な手が載っていた。
その手は店の中から伸びていた。こちらを覗くように、ぬるっと生白い顔が出てきた。長い黒髪の女だった。眼窩が闇に染まった顔は表情がない。
おわかりいただけただろうか。そんな声と共にリプレイ映像が出そうな突然のホラー展開。しかし、生憎と俺は恐怖感がオフ。そして今は忙しい。
お前が原因か!
怒りに任せてナックルダスターで顔面をぶん殴る。女は「へぶぅっ」という声を上げ、口から血を吹き出して倒れた。が、同時に大きな音が鳴ってしまった。
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「逃げても無駄ですよー。グズが面倒かけないでくださーい」
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