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19‐1 正木誠司、一階捜索(前編)
しおりを挟む居住区は幅が約百メートル、奥行きが約六百メートル。床から天井までが約五十メートルの空間で、街というより三階建てのショッピングモールといった印象を受けた。
中央が吹き抜けで、道の両側には商店が並び、一定距離毎に昇降機や階段、トイレがある。それを示す看板がちらほらあるのもまたそう思わせる所以となっている。
天井には空が映し出されていて開放感があり、なんだか既視感があると思ったら、昔行ったことのある屋外アウトレットパークに似ていた。
まぁ、見る影もないくらい荒れてるし、魔物もいるがな。
とはいえ、門扉付近に比べると魔物は少ない。
あれはもはやバーゲンセールのときに目玉商品に密集するおばちゃんたちのような状態だった。ポチの援護射撃がなければ足止めを食っていただろう。
「さて、次の店舗を確認するとしますかね」
【わかっていたことですが、時間がかかりますね】
「こればっかりはな」
魔物の群れをどうにか突破して居住区に入った俺は生存者の捜索を行っていた。方法は建物を一軒ずつ確認して回るというプリミティブなもの。時間は食うが確実だ。
なんせ、俺はこれまで数々の見落としをしてきたからな。要救助者の見落としなんてしたら目も当てられないだろう。それで罪悪感がないんだから困ったもんだ。
「ほんじゃ、行ってくる」
【はい。お待ちしております】
俺は割れたガラスをじゃりじゃり鳴らしながら店内に足を踏み入れる。多分、元は服飾店と思われる。捜索するのは俺だけで、エレスとポチは見張りをお願いしてある。もっとも、共食い作戦を行っているので魔物が襲ってくる可能性は低いのだが。
というか、そもそも見張りの目的はそこにはない。見張るのは異変だ。
俺が目を離している間に何かが起きても困るので、外の様子をホログラムカードに送信してもらっている訳だ。逸早く異変を察知できるからな。
「やっぱ誰もいないか」
二階建ての店の中を隈なく探索。倒れたハンガーラックや、床で乱雑に積み上がっている衣類をどかして確認するが、人の姿は見当たらなかった。
「はぁ、先は長い。これじゃ明日の朝になっても終わらんな」
【マスター、拡声器で呼び掛けてみればどうでしょう?】
通話状態の維持されているホログラムカードから、そう提案するエレスの声が聞こえた。それは俺も考えたことだった。だが、大きな欠点がある。
「呼びかけは意識がない相手には意味がないだろう」
【おっしゃる通りですが、私たちだけでは時間がかかりすぎます。まずは呼び掛けを行い、意識のある方を救助する方向に切り替えた方が効率的です】
「それはわかるんだが、一斉に出てこられると困るし」
【仮にそうなったとしてもマスターに責任はありません。なにもかもを一人で行える訳がありません。優先すべきは商会長であるジョニーの救出です】
俺は頭を掻く。その通り過ぎてぐうの音も出ない。
「わかった。じゃあ、進めてくれ」
【はい、かしこまりましたマスター。提案を聞き入れて下さって嬉しく思います。では、拡声機能を使って呼び掛けて参りますので、それまでお休みください】
「ああ、小腹が空いたからブロッククッキーと水をくれるか?」
【かしこまりました】
エレスがそう答えるなり、ポチが二階の窓の向こうに姿を現す。そして割れた窓から中に入り俺の側に来ると、床にブロッククッキーとマグボトルを出した。
【失礼だとは思いますが、嫌な予感がしますので。では行って参ります】
そう言うなり、ポチはさっさと窓から飛び出して行った。
「珍しく雑だな。でも気持ちはわかる」
俺は苦笑してブロッククッキーを拾い上げて床に座る。包みを剥がして齧ると、コンビニで買ったチョコ味のプロテインバーを思い出した。
いや、こっちの方が美味いな。多分、コフチェが入ってるなこれ。ポリポリして食感がいいし甘すぎない。でも食べ過ぎるとカフェイン中毒になりそうだな。
水の入ったマグボトルの蓋を開ける。これも日本で見たのと似てるな。こういうものは、性能が変わっても見た目が大きく変わるってことはないんだろうな。
もぐもぐごっくんしている間にも、エレスが拡声器で呼び掛ける声が聞こえてきていた。反応があればホログラムカードに連絡があるだろう。
しかし、反応がなかったらどうすりゃいいんだろうな。
そう思った直後──ズガァンという凄まじい破壊音がして店が揺れた。天井からぱらぱらと細かな塵埃が降ってくる中、ホログラムカードからエレスの声が流れた。
【マスター、ソルワイアームの近似種が出現しました】
「ソルワイアーム? なんだそれ?」
【双頭の蛇の魔物です。店舗に潜んでいました。かなり巨大です】
よくわからないままに二階の窓から顔を出すと、十五メートル以上はありそうな、二つの頭を持った蛇が見えた。百メートルくらい先でゴブリンを貪り食っている。
魔物たちは慌てふためきながら門扉の方向へと逃げていく。ソルワイアームは素早くとぐろを巻いて体をブルブル震わすと、一気に回転して尻尾を振るった。
間もなく、スパァンという音を発して鞭のように振るわれた尻尾が大量の魔物を吹き飛ばした。目算ではあるが、少なくとも二十体はその一撃で宙を舞った。
壁に打ちつけられたものも含めれば更に数は増える。尻尾の一振りだけで、あっという間に悲惨な餌場が完成してしまった。辺りは新鮮な血の海だ。
グチャッ、グチャッという咀嚼音が僅かに四回。そのあとはゴグッという嚥下音。そしてまた咀嚼音が始まる。血みどろの中で、ほぼ丸呑みの食事が続いている。
予想外にも程がある。まさかここまでとんでもないのが出てくるなんて思ってなかった。あんなもん一人でどうにかできるのかよ。こっちは銃とナイフしかないんだぞ。
そう思いながらも、おかしなことに体が震える。恐怖感はオフになっている。嫌悪感もだ。じゃあこの震えはなにかと言えば、武者震いだ。
口角が引き攣ったように上がるのを感じた。おそらく正義感100%が発揮されてるんだろう。あれを生かしておいてはならないという強い思いが湧きあがる。
【マスター申し訳ありません。おそらく拡声器の音で、寝ていたところを起こしてしまったのだと思われます。浅はかな真似をしてしまいました】
「そんなことは気にしなくていい。どうやって倒すかを考えないと」
【単独での戦闘は推奨しません。応援を呼ぶべきかと】
正論だが、もしあれが追ってきたら顰蹙を買うどころの騒ぎじゃない。出来たばっかりの防衛地点をぶち壊される未来しか見えない。やはり、ここに留めておくべきだ。
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