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18‐2 正木誠司、居住区へ(後編)

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 開いた門扉か。ヨハンから聞いてたが、実際に目にするとうんざりするな。

 両通路共に詰め所らしき部屋がある。普段はそこで従業員の居住区への出入りを記録しているらしい。いずれも事故防止の為に一方通行になっているのだとか。
 門扉が大きいのは車を通す為。乗客同士のトラブルへの対処と居住区にある施設への物品補充の両方に対応できるので、小型輸送車が使われているそうだ。

 そして機密保持と安全管理の為に乗客は非常時以外は居住区から出ることを許されていない。だから門扉は破壊されないよう頑丈に作られているそうなのだが……。

 ヨハンの読みは当たりだな。

 頑丈で破壊できなければ、開いた状態で制御盤を破壊すればいい。そうすれば開きっぱなしになる。おそらく、それを行った魔物は元が従業員だとヨハンは言っていた。

 十字路にある制御盤の破壊は偶然そうなったと捉えることもできるが、ここは流石に魔物になる前の知識がないと説明できないもんな。明らかに意図的な破壊だ。

 魔物たちは通路の奥に見える居住区から出てきている。
 ゴブリンが主でオウガは数体。ハイオウガの姿はない。

 ただ──。

「多くないか?」

 中央通路の魔物が一向に減らなかった理由が四箇所からの合流にあったからだと納得した矢先にこの疑問。かなり減っていたから、もう殲滅は近いと思っていたんだが。

 それに何かおかしい。俺が確認してから急にぞろぞろ出てきた。偶然そうなった可能性もあるが、少しばかり作為を感じるタイミングだ。

 まぁ、行くしかないんだが。どっちが少ないかな。よし、エレスに訊こう。

「エレス、どっちの通路から入るべきだ?」
【待って下さいマスター。偵察を行うことを進言します】
「偵察? 俺にここで戦ってろってか?」
【聞いていた情報との乖離があります。仮に全ての乗客が魔物に変化していたとしても、明らかに魔物の数の方が上回っています。中で繁殖している可能性があります】
「繁殖だと!」

 その発想はなかった。魔物ってそんなに早く増えるのか? 鼠でも妊娠期間は二十日くらいあるんだぞ。まさか卵生か? それにしたって四日は早すぎだろう。

 一体居住区で何が起きてるんだよ。

【飽くまで可能性があるというだけです。不可解な点とだけ受け取って下さい。状況把握の助けとする為に、偵察と踏破マッピングスキルの使用を推奨します】
「踏破マッピング? ハッ──そうか!」

 踏破マッピングは俺が踏破した場所が地図として記録されると思っていた。だが違った。ウェアラブルデバイスが踏破した場所だったんだ。
 ウェアラブルデバイスを取り外せなければ意味は同じだが、外してドール化できる俺には偵察踏破マッピングって離れ業が可能ってことかよ。

 しかも操縦は優秀なサポートAIって。そりゃ使わないと損だろ。

「わかった。先行して映像を送信してくれ! 地図作成と状況の報告も頼む!」
【はい、かしこまりました。聞き入れてくださってありがとうございます】
「無茶はするなよ!」
【はい。危険を察知したら即座に帰還します。では行って参ります】

 ポチが左側の通路に向かい、素早く居住区へと入り姿を消す。天井付近を飛んでいる為、魔物の大半が顔を上に向け目で追うことしかできていない。
 中には骨らしきものの投擲を行おうとする者もいたが、ポチの速度についていけず見失っていた。それより、骨を手にしている個体は珍しい。ほとんどが素手なのに。

 知恵がついてるのがいるのか?

 これまでも投擲を行おうとする魔物はいた。しかし、拾って投げはするものの、持ったまま武器として扱おうとする個体はいなかった。初めて見る武器持ちだ。

 だが、俺だからな。うっかり見落としていただけの可能性もある。
 これまで何度もヘマをやらかしてきているから自分が信用ならん。

 殲滅戦なんて魔物に何もさせなかったからな。武器を持ってようがバッカン降ってきたりカプサイシンダストなんて食らえば驚いて手放すよな。

 あんまり深く考えるのやめよ。

 骨を持っていようが所詮はゴブリン。大したことはない。

 ホログラムカードに送信されてくる映像を気にしながら殲滅戦に切り替える。しかし、ここにきてまた失敗が浮き彫りに。画面が赤くて見辛い。色味が濃い。

 明らかな濃度調節ミスだわ。色が変わるのは縁取りだけにしとけばよかった……。

 落胆しながら手近にいる魔物を蹴散らしていると、音声通信が入った。エレスだ。

【マスター、聞こえますか?】
「ああ、聞こえる。そっちは?」
【はい。問題ありません。つい先程、出入口側から街の中心部までの地図作成を終えました。それと、魔物の出現箇所を発見しました。映像を確認していただけますか?】
「わかった」

 俺は付近の魔物を十体ほど手早く仕留め、空いたスペースの中で見辛いホログラムカードを操作し、もたつきながらもどうにか戦闘状態の可視化設定をオフにする。

「おおお、焦ったあ!」

 安堵の息に声が乗る。魔法の予備動作に入ってるゴブリンがいた。
 撃たれても多分躱せるが、全方向から魔物に近寄られているタイミングだった。全く被害なしという訳にはいかなかっただろう。仕留めることができてよかった。

 しかし、仲間も巻き込もうとする個体は初めて見たな。
 仲間? 仲間というより同種族として認識しているだけか。共食いするからな。それに、人でも味方ごと攻撃する奴はいるし。ゴブリンにもいても不思議ではないか。

 ホログラムカードの色が薄い青に戻り、上階に続く昇降機から魔物が降りてくる様子がよく見えるようになる。側にある階段からも出てきているようだ。

「確認した。階段はわかるが、昇降機を使う魔物って不自然過ぎないか?」
【知識を有しているとしか言えません。ヨハンの情報通り元が従業員であると考えるのが妥当ですが、もしかすると上階に統率する個体がいるのかもしれません】
「こいつらは命令に従ってるってことか? 追い立てられているのではなく?」
【いずれも推測でしかありません。その可能性も否めませんし、両方ということも十分に有り得ます。現在、事実として確認できているのは、昇降機を使う魔物がいることと、上の階から魔物がやってきているということだけです。それ以外は何一つ判然としていません。この階の調査も始めたばかりですし、まだ情報は増えると思われます】

 ややこしくなってきたな。整理したいのに周りの魔物が増えてきた。あんまり増えると道がなくなって、にっちもさっちもいかなくなるぞこりゃ。

「エレス、今はそんな複雑な話は聞いとれん。足元が死体だらけになってきた。とにかく合流しよう。居住区に入るから一休みできそうな場所に案内してくれ」
【かしこまりました。防衛地点側から見て左側の出入口に向かいます】
「様子を見てちょっと手伝ってくれると助かる」

 俺は左側の通路に体を向けて一度バックステップし、助走をつけて魔物の群れに突っ込んだ。こんなことになるんなら、ポチを偵察に向かわせる前に光弾突撃銃を受け取っておくべきだったと悔やみながら。
 
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