上 下
48 / 67

18‐2 正木誠司、居住区へ(後編)

しおりを挟む
 
 開いた門扉か。ヨハンから聞いてたが、実際に目にするとうんざりするな。

 両通路共に詰め所らしき部屋がある。普段はそこで従業員の居住区への出入りを記録しているらしい。いずれも事故防止の為に一方通行になっているのだとか。
 門扉が大きいのは車を通す為。乗客同士のトラブルへの対処と居住区にある施設への物品補充の両方に対応できるので、小型輸送車が使われているそうだ。

 そして機密保持と安全管理の為に乗客は非常時以外は居住区から出ることを許されていない。だから門扉は破壊されないよう頑丈に作られているそうなのだが……。

 ヨハンの読みは当たりだな。

 頑丈で破壊できなければ、開いた状態で制御盤を破壊すればいい。そうすれば開きっぱなしになる。おそらく、それを行った魔物は元が従業員だとヨハンは言っていた。

 十字路にある制御盤の破壊は偶然そうなったと捉えることもできるが、ここは流石に魔物になる前の知識がないと説明できないもんな。明らかに意図的な破壊だ。

 魔物たちは通路の奥に見える居住区から出てきている。
 ゴブリンが主でオウガは数体。ハイオウガの姿はない。

 ただ──。

「多くないか?」

 中央通路の魔物が一向に減らなかった理由が四箇所からの合流にあったからだと納得した矢先にこの疑問。かなり減っていたから、もう殲滅は近いと思っていたんだが。

 それに何かおかしい。俺が確認してから急にぞろぞろ出てきた。偶然そうなった可能性もあるが、少しばかり作為を感じるタイミングだ。

 まぁ、行くしかないんだが。どっちが少ないかな。よし、エレスに訊こう。

「エレス、どっちの通路から入るべきだ?」
【待って下さいマスター。偵察を行うことを進言します】
「偵察? 俺にここで戦ってろってか?」
【聞いていた情報との乖離があります。仮に全ての乗客が魔物に変化していたとしても、明らかに魔物の数の方が上回っています。中で繁殖している可能性があります】
「繁殖だと!」

 その発想はなかった。魔物ってそんなに早く増えるのか? 鼠でも妊娠期間は二十日くらいあるんだぞ。まさか卵生か? それにしたって四日は早すぎだろう。

 一体居住区で何が起きてるんだよ。

【飽くまで可能性があるというだけです。不可解な点とだけ受け取って下さい。状況把握の助けとする為に、偵察と踏破マッピングスキルの使用を推奨します】
「踏破マッピング? ハッ──そうか!」

 踏破マッピングは俺が踏破した場所が地図として記録されると思っていた。だが違った。ウェアラブルデバイスが踏破した場所だったんだ。
 ウェアラブルデバイスを取り外せなければ意味は同じだが、外してドール化できる俺には偵察踏破マッピングって離れ業が可能ってことかよ。

 しかも操縦は優秀なサポートAIって。そりゃ使わないと損だろ。

「わかった。先行して映像を送信してくれ! 地図作成と状況の報告も頼む!」
【はい、かしこまりました。聞き入れてくださってありがとうございます】
「無茶はするなよ!」
【はい。危険を察知したら即座に帰還します。では行って参ります】

 ポチが左側の通路に向かい、素早く居住区へと入り姿を消す。天井付近を飛んでいる為、魔物の大半が顔を上に向け目で追うことしかできていない。
 中には骨らしきものの投擲を行おうとする者もいたが、ポチの速度についていけず見失っていた。それより、骨を手にしている個体は珍しい。ほとんどが素手なのに。

 知恵がついてるのがいるのか?

 これまでも投擲を行おうとする魔物はいた。しかし、拾って投げはするものの、持ったまま武器として扱おうとする個体はいなかった。初めて見る武器持ちだ。

 だが、俺だからな。うっかり見落としていただけの可能性もある。
 これまで何度もヘマをやらかしてきているから自分が信用ならん。

 殲滅戦なんて魔物に何もさせなかったからな。武器を持ってようがバッカン降ってきたりカプサイシンダストなんて食らえば驚いて手放すよな。

 あんまり深く考えるのやめよ。

 骨を持っていようが所詮はゴブリン。大したことはない。

 ホログラムカードに送信されてくる映像を気にしながら殲滅戦に切り替える。しかし、ここにきてまた失敗が浮き彫りに。画面が赤くて見辛い。色味が濃い。

 明らかな濃度調節ミスだわ。色が変わるのは縁取りだけにしとけばよかった……。

 落胆しながら手近にいる魔物を蹴散らしていると、音声通信が入った。エレスだ。

【マスター、聞こえますか?】
「ああ、聞こえる。そっちは?」
【はい。問題ありません。つい先程、出入口側から街の中心部までの地図作成を終えました。それと、魔物の出現箇所を発見しました。映像を確認していただけますか?】
「わかった」

 俺は付近の魔物を十体ほど手早く仕留め、空いたスペースの中で見辛いホログラムカードを操作し、もたつきながらもどうにか戦闘状態の可視化設定をオフにする。

「おおお、焦ったあ!」

 安堵の息に声が乗る。魔法の予備動作に入ってるゴブリンがいた。
 撃たれても多分躱せるが、全方向から魔物に近寄られているタイミングだった。全く被害なしという訳にはいかなかっただろう。仕留めることができてよかった。

 しかし、仲間も巻き込もうとする個体は初めて見たな。
 仲間? 仲間というより同種族として認識しているだけか。共食いするからな。それに、人でも味方ごと攻撃する奴はいるし。ゴブリンにもいても不思議ではないか。

 ホログラムカードの色が薄い青に戻り、上階に続く昇降機から魔物が降りてくる様子がよく見えるようになる。側にある階段からも出てきているようだ。

「確認した。階段はわかるが、昇降機を使う魔物って不自然過ぎないか?」
【知識を有しているとしか言えません。ヨハンの情報通り元が従業員であると考えるのが妥当ですが、もしかすると上階に統率する個体がいるのかもしれません】
「こいつらは命令に従ってるってことか? 追い立てられているのではなく?」
【いずれも推測でしかありません。その可能性も否めませんし、両方ということも十分に有り得ます。現在、事実として確認できているのは、昇降機を使う魔物がいることと、上の階から魔物がやってきているということだけです。それ以外は何一つ判然としていません。この階の調査も始めたばかりですし、まだ情報は増えると思われます】

 ややこしくなってきたな。整理したいのに周りの魔物が増えてきた。あんまり増えると道がなくなって、にっちもさっちもいかなくなるぞこりゃ。

「エレス、今はそんな複雑な話は聞いとれん。足元が死体だらけになってきた。とにかく合流しよう。居住区に入るから一休みできそうな場所に案内してくれ」
【かしこまりました。防衛地点側から見て左側の出入口に向かいます】
「様子を見てちょっと手伝ってくれると助かる」

 俺は左側の通路に体を向けて一度バックステップし、助走をつけて魔物の群れに突っ込んだ。こんなことになるんなら、ポチを偵察に向かわせる前に光弾突撃銃を受け取っておくべきだったと悔やみながら。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ソードオブマジック 異世界無双の高校生

@UnderDog
ファンタジー
高校生が始める異世界転生。 人生をつまらなく生きる少年黄金黒(こがねくろ)が異世界へ転生してしまいます。 親友のともはると彼女の雪とともにする異世界生活。 大事な人を守る為に強くなるストーリーです! 是非読んでみてください!

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...