【完結】セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜

月城 亜希人

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16‐1 正木誠司、捜索準備(前編)

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 アイスコーヒーを飲み終えた俺は、伊勢さんが洗い物を始めたタイミングで食堂をそそくさと逃げ出し、捜索準備を済ませる為に武器庫へと向かった。

 ストーキング対策。成功。

 こっそりついてきていたジェイスの姿は見当たらない。どうやら撒けたようだ。

 だが油断はできない。

 早いうちにウシャスの格納庫に出ないと伊勢さんが追ってきそうだ。
 流石に防衛地点までは、来ないよな……?

「お、もう来たのか」

 武器庫に入ると、意外そうな顔でヨハンに言われた。俺は「こっちの台詞だ」と答えながらロッカーの前に移動し扉を開く。なんでお前が先にいるんだよ。
 どうやらヨハンはまた前線で指揮を執るつもりのようだ。慣れた様子でボディーアーマーを着る姿はまさに兵のそれ。とてもエルバレン商会の副会長とは思えない。

「食事は?」
「済ませた。伊勢さんがカレーを作って待っててくれたよ」
「ああ、あれか。美味いよな。高いけど」
「あれ? そういやお前は食わなかったのか?」
「カレーをか? 食べてないな。僕は食堂で食べたから」

 俺は装備を進める手を止め首を傾げる。
 食堂には俺と伊勢さんとジーナしかいなかったが、もしかして。

「なぁ、おい。伊勢さんが料理を作ってる場所って食堂じゃないのか?」
「あそこも食堂だが、客用のものだな。従業員用の食堂は別にある」
「ああ、道理で」

 調理担当者を一度も見たことがないのは不自然だと思い始めていたが、そういう事実が隠されていた訳か。ジーナが案内しなかった理由も俺が客だからだな。

「考えてみりゃそうだよな。客と従業員で分けておかないと危ないもんな。勝手に厨房に入り込んで、変な物を鍋に入れる奴とかいるかもしれないし」
「それもあるが、一番は衛生管理上の問題だ。艦の中で食中毒が起こると大変なことになる。うちみたいな、人も物資も運ぶ輸送艦は特にな」
「食中毒菌なんて持ち込まれるのか? 検疫通すだろ?」
「持ち込まなくても管理が悪ければ発生する。不衛生な生活をする客もいるからな。それと、検疫には抜け道がある。稀に今回みたいな事故もあるし」

 俺は思わず顔を顰めた。サルベージ後の事故か。

 宇宙空間を漂っている回収品にだって得体の知れない病原菌が付着している可能性はある。それが感染力と毒性の強いものであった場合、パンデミックを発生させるのは想像に難くない。疾病対策をしていても、おそらく免れることはできないだろう。

 今回は病原菌ではなく生物兵器だったが、艦内に蔓延したという点は同じ。その怖ろしさは、この艦にいる者全てが身をもって知っている。

 それに、ヨハンの返答には『抜け道』という物騒な言葉もあった。
 俺はうんざりしながら頭を掻く。

「検疫の抜け道、ね。色々と想像しちまったわ」
「たとえば?」
「単純な見落とし、ライバル企業の嫌がらせ、従業員の浅慮とか」
「最後のやつは特に注意してるが、なくならないな」
「これだけ規模が大きいとしょうがないだろ」

 ヨハンが「まぁな」と苦笑してロッカーの扉を閉じ背もたれにする。装備を終えたのに出て行く気配がない。俺が装備を終えるのを待つようだ。

「本当に行くのかセイジ? ジョニーを捜しに」
「ああ。なるべく早く向かいたい。嫌な予感がしてな」
「嫌な予感?」

 俺はヨハンに居住区を縄張りにしている強力な魔物がいるという推測を話した。それが原因で通路に魔物が押し寄せていたのではないか、と。
 するとヨハンは「僕は馬鹿か。どうして気づかなかったんだ」と呟き天井を見上げて溜め息を吐いた。が、すぐに振り返り、またロッカーの扉を開けた。

「セイジ、これを着けろ。ツナギの上からでいい」

 そう言って、ヨハンがバッグを差し出す。受け取って中を確認してみると、黒いアームガードとレッグガード、あとは薄手の黒いグローブが入っていた。

「僕の予備だ。新品だぞ。体格も似通ってるから問題ないだろう」
「おお、ありがとな。それで、なんでお前も身に着けてるんだ?」
「セイジが居住区に入って戦闘したとき、その魔物が通路に逃げ込むかもしれないだろ。もしくは、逃げたセイジを追ってくるとか」
「うわ、そうか。確かに有り得るな。マジかよ」
「考えたくないが、もしそうなったら僕たちが対応しなきゃいけなくなる。隔壁を破壊するような魔物でないことを祈るしかない」

 これまでのことで、俺は調子に乗っていたようだ。魔物に逃げられるとか、自分が逃げるとかを考えていなかった。その先のこともだ。
 そもそも、推測でしかない。居住区に強力な魔物がいるかどうかも判然としていないし、おそらくいたとしても俺なら大丈夫だろうとしか思っていなかった。

 つまり、俺が危惧していたのはジョニーの安否だけということ。早く捜しに行かないとまずいという焦燥感に駆られて、他はすっかり頭から抜け落ちていた。
 
 
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