38 / 67
14‐1 正木誠司、殲滅戦(前編)
しおりを挟む武器庫で装備を整えた俺は、ヨハンとエレスの操縦するポチと共に防衛地点に訪れた。昨夜から作業が続けられていたのか、三十メートルは前線を上げていた。
バリケードの位置も変わっている。相変わらず酷い出来だが、巧遅は拙速に如かず。こんな場所でじっくり丁寧なバリケードを用意してもなんの意味もないからな。
「セイジが魔物を殲滅したら、従業員の夜を徹した作業の苦労が水の泡だな」
「ならやめるか?」
「従業員の苦労なんて軽いものを、魔物の殲滅と天秤にかける訳がないだろう」
「爽やかな顔して酷いこと言うな、お前」
ヨハンはよく喋る奴だ。軽口に付き合う俺もどうかと思うが、戦闘直前に行う最後の装備品のチェックをしながらなので暇つぶしにはなる。
何回も同じことを繰り返すのって飽きるからな。大事なことだとわかっていても、ほんの数分前にダブルチェックしたことをまたやるってのは流石にな。
とはいえ、こんな念入りにやるのは初めてだが。
それはそうとして、殲滅戦に向けての装備品はガスマスク、ボディーアーマー、光弾突撃銃と予備弾倉を五つ。あとはトレンチナイフ。
救助者発見時の為にストレージにブロッククッキーと水、回復薬入りのカプセル瓶、再生促進液の入った瓶や包帯などの医療品が大量に収納してある。
装備は昨日とほぼ変わりはないが、俺がこれまで使ってきたものは性能が落ちていた為、メンテナンスに出された。なので今身に着けているのは全てが新品だ。
そしてこれから行う作戦の為に、武器庫からは大量のガスマスクをストレージに入れて持って来てある。現在はエレスが従業員たちに配っているところだ。
作戦に参加するのは俺とヨハン含め十人だけで、あとは後方待機だがな。
念の為だ、念の為。
「しかし、銃はともかくトレンチナイフの劣化は酷かったな」
バリケードの覗き穴から魔物を見つめていると、隣にいるヨハンがそんなことを言った。半分呆れたような顔をして「あそこまでのは初めて見たぞ」と続ける。
「まぁ、昨日はほとんどナイフで戦ったからな」
「有り難い話だ。セイジがいなかったらこうはなってなかった」
「金がかからなくていいだろ?」
「茶化すなよ。でも、その通りだな。今はまだ魔物との戦いで余裕がないが、解決と同時に生存している乗員乗客と照らし合わせて犠牲者名簿を作らなきゃならない。それからは裁判だ。その費用も含め、賠償金やら何やらで怖ろしいほど金が飛ぶからな」
ヨハンが忌々しげに魔物の群れを睨む。
「アナザエル帝国がやったという確たる証拠があれば……」
「難しいだろうな。俺と伊勢さんが証言したところでしらを切るに決まってるからな。証拠品の生物兵器も宇宙空間に排出済みなんだろう?」
「ウシャスの積荷倉庫に残っている物があれば回収可能だが」
「やめとけやめとけ。取り扱いを間違えば惨事の繰り返しになるだけだ」
「まぁ、そうだな。関与を否定されたらそこまでだろう。第三者機関の調査が入ったところで、脅しや賄賂で丸め込まれるのが目に見えてるしな」
そこまで考えているなら、最初の言葉はなんだったんだと思いつつ俺は肩を竦める。
「というか、確たる証拠を突きつけたところで、アナザエル帝国が賠償請求に応じるとは思えないんだが?」
「それでも、裁判で帝国に責任があると認めさせれば、エルバレン商会が負う賠償責任が減る。それもとんでもなくな」
「それはそれでアナザエル帝国から目の敵にされるんじゃないか?」
「その通りだ。それに結局のところ、損をするのは遺族になる。俺たちが勝訴した場合でも、アナザエルは賠償金を支払わないだろうからな。俺たちに非がなくとも、遺族の為におとなしく支払うのが正解なんだろうな。歯痒いが」
世の中の不条理を絵に描いたような話が終わったところでポチが戻って来た。
【マスター、ガスマスクの配付を終了しました】
「配付? あれ? 支給品じゃないのか?」
「使う頻度が低いから個人の所有物にはせず使い回してるんだ。洗浄とフィルターの交換は行ってるから、支給品と変わらんよ」
「なんだよ。よっぽど金がないのかと思った」
「金はこれからなくなるんだよ」
俺とヨハンは軽く笑ってガスマスクを装着した。
1
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?
レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。
異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。
隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。
だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。
おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!?
セイジ第二部~異世界召喚されたおじさんが役立たずと蔑まれている少年の秘められた力を解放する為の旅をする~
月城 亜希人
ファンタジー
異世界ファンタジー。
セイジ第二部。『命知らず』のセイジがエルバレン商会に別れを告げ、惑星ジルオラに降り立ってからの物語。
最後のスキルを獲得し、新たな力を得たセイジが今度は『死にぞこない』に。
※この作品は1ページ1500字~2000字程度に切ってあります。切りようがない場合は長くても2500字程度でまとめます。
【プロローグ冒頭紹介】
リュウエンは小さな角灯を手に駆けていた。
息を荒くし、何度も後ろを気にしながらダンジョンの奥へと進んでいく。
逃げないと。逃げないと殺される。
「ガキが手間かけさせやがってよお!」
「役立たずくーん、魔物に食べられちゃうよー」
「逃げても無駄ですよー。グズが面倒かけないでくださーい」
果たしてリュウエンの運命は──。
────────
【シリーズ作品説明】
『セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜』は別作品となっております。
第一部は序盤の説明が多く展開が遅いですが、中盤から徐々に生きてきます。
そちらもお読みいただけると嬉しいです。
────────
【本作品あらすじの一部】
宿場町の酒場で働く十二歳の少年リュウエンは『役立たず』と蔑まれていた。ある日、優しくしてくれた流れの冒険者シュウにパーティーの荷物持ちを頼まれダンジョンに向かうことになる。だが、そこで事件が起こりダンジョンに一人取り残されてしまう。
***
異世界召喚された俺こと正木誠司(42)はメカニックのメリッサ(25)と相棒の小型四脚偵察機改ポチ、そして神に与えられたウェアラブルデバイス(神器)に宿るサポートAI(神の御使い)のエレスと共に新たな旅路に出た。
目的は召喚された五千人の中にいるかもしれない両親の捜索だったのだが、初めて立ち寄った宿場町でオットーという冒険者から『ダンジョンで仲間とはぐれた』という話を聞かされる。
更には荷物持ちに雇った子供も一緒に行方がわからなくなったという。
詳しく話を訊いたところその子供の名前はリュウエンといい奴隷のように扱われていることがわかった。
子供を見殺しにするのは寝覚めが悪かったので、それだけでも捜索しようと思っていたが、なんと行方不明になったシュウという男が日本人だということまで判明してしまう。
『同胞の捜索に手を貸していただけませんか?』
オットーに頼まれるまでもなく、俺は二人の捜索を引き受け、シュウのパーティーメンバーであるオットー、リンシャオ、エイゲンらと共にダンジョンに突入するのだが──。
────
応援、お気に入り登録していただけると励みになります。
2024/9/15 執筆開始
2024/9/20 投稿開始
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる