【完結】セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
22 / 67

10‐1 正木誠司、新たな力を得る(前編)

しおりを挟む
 
 
 ジーナを肩車し、伊勢さんと連れ立ってマリーチ内を散歩していると、従業員たちから声を掛けられたり肩を叩かれたりした。
 多分、俺がハイオウガを倒したところを見た連中だろう。

 言葉がわからないのに、セイジ、セイジとやかましい。

 これは間違いなくヨハンが名前を教えたな。

 煩わしいが後で礼を言っておこう。ジーナが真似して俺のことを「セージ」と呼んでくれるようになったからな。最高だよこの野郎。

「セージー」
「おう、どうしたジーナ?」
「えへへぇ。セージ、セージ」

 なんだこの多幸感は。何度でも呼んでいいぞ。

「正木さん、大人気ですね」
「え、ああまぁ、ちょっと無茶したから」
【だから『命知らず』って呼ばれてるのか】
「なに、俺ってそんな風に呼ばれてるの?」
「色々と呼ばれてますけど、一番は『救世主』ですね」

 大袈裟が過ぎる。

「おいおい、世界は救ってないぞ」

【窮地を救ってくれた人って意味だよ。言語を翻訳するのって大変なんだぞ。なっちゃんの揚げ足取りはしちゃ駄目だ正木さん】

「あ、そうか。伊勢さん、申し訳ない」

「いえ」

 伊勢さんは俯き気味になる。なにか思うところがあるようだ。
 自室にいたとき、俺とジェイスが話している内容を真剣な表情で聞いていたことから、意識に変化があったのかもしれない。

「私も、戦えるでしょうか?」
「え?」

 咄嗟のことで言葉に詰まる。いつかは訊かれると思っていたが、俺が気持ちを推し量った矢先のことになるとは思わなかった。

「役に立ちたいんです」
「うーん、気持ちはわかるんだけどもなぁ」

 俺の場合は機能拡張の効果で設定画面から精神構造の調整が行える。それがなければあんなに大胆な行動は取れなかった。
 エレスが言っていたように、俺は異常なのだと思う。エレスは順応力の高さを指して言っただけのようだったが、今の俺はそれだけではなかったのだと自覚している。

 召喚される前に観ていた護身術や武器の扱いを紹介する動画のお陰で、トレンチナイフの扱い方を知っている。銃に関しても、見様見真似でそれなりに構えを取れた。
 体が衰えないように、適度に筋トレと有酸素運動をしていたことで自分がどれだけ動けるのかを把握している。

 人体改造されていても、体の動かし方がわからなければ、あれほど機敏に動くことはできなかったはずだ。素早くバリケードをよじ登って、飛び掛かりからトレンチナイフの振り抜き。着地と同時に前回り受け身ってスタントマンか俺は。

 あとは、ゲームをした経験があるから能力値に対しての疑問も出せる。なにがわからないのかもわからなければ質問すらできない。
 工場勤めだったことから機械に対しての理解もそれなりにできるし、SF艦隊ものや、未開拓惑星に降り立ち、現地民の為に戦う戦士の映画を観た経験もある。

 俺はたまたま、下準備ができていた。そしてたまたま、五千分の一の力を得た。だから現状のように認められている訳で。

「伊勢さんは徐々に慣れていく方がいいと思う」
「でも、正木さんは、今朝起きたばかりなのに、もうこんなに」
【なっちゃん、正木さんは異常だから比べても仕方ないよ】
「認める。現状サイコパスだしな。お、そうだ。ソウルメイト登録をしよう」

 忘れていた。ジェイスに声を掛けて、伊勢さんに許可を取る。

「ソウルメイト、ですか?」

「その辺りの説明はジェイスにしてもらうといい。確か、自分のウェアラブルデバイスでも俺の能力値を見ることができるようになるはずだ。だよな、ジェイス?」

【正木さんが閲覧許可すれば可能だよ。なっちゃん、正木さんにソウルメイト申請していい?】

「うん、お願い」

【あいあーい】

 俺がホログラムカードで能力値を見せることもできるが、伊勢さんがウェアラブルデバイスの操作に慣れるのも大事なことだ。
 なにもかもジェイスに頼り切りでは、多分いつか後悔することになる。

 現に俺は手動操作を行うことが頻繁に起きている。
 それになんとなく手動操作を行うスキルの方が有用な気がするし、気持ちに嘘がないのなら、この程度の努力はしないと駄目だよな。

「OK、申請承認。えーっと、これか」

 ホログラムカードでNEWのタブを確認。そこをタップして画面を切り替えると、ソウルメイト登録した伊勢さんの名前が表示される。
 能力値画面に出ているものと同じ姓名逆のカタカナだ。

「ジェイス、ソウルメイト画面を──」

「伊勢さん、ストップ。そこは一人でやってみよう」

「え?」

「俺と伊勢さんの違いの一つは、ウェアラブルデバイスの操作を自力で行えるかどうか。できるようになっておいた方がいい」

「わ、わかりました」

 伊勢さんがウェアラブルデバイスの操作を始める。この手間取り方を見ると、やはりジェイスに頼り切りにしていたらしい。
 ハリネズミ型への設定変更も、なにもかも音声認識で済ませたんだろうな。人は楽をしたがる生き物だから。仕方ないよな。

 とりあえず、ホログラムカードで能力値画面を開いて振り分けを済ませる。

────────

セイジ・マサキ AGE 42
LV 28

HP 30/30
MP 0/0
ST 125/125
STR 5  VIT 25
DEX 5  AGI 25
MAG 0 

SP 31

LIMITED SECRET SKILL
機能拡張(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)
機能拡張Ⅱ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)

────────

 レベルが一気に上がってて驚いたが、ハイオウガはそれだけ強敵ってことなんだろうな。ほとんど俺が一人で倒したようなもんだったし。経験値総取りだったんだろう。

 早速SP10を消費して機能拡張Ⅱを取得。新機能はストレージ。ポチと合流しないと実行できないみたいだが、これはとんでもないことだぞ。
 確認したところマスが百もある。一マスにつき同じ物を千まで保管可能。しかもストレージに収納している間は時間が停止するときた。

 ますます背嚢じみてきたなポチ。

 VITとAGIだけをがっつり上げたのは、生存率に直結するから。やはり回避が可能な速度と、HPという名のプロテクターを厚くしておくことが重要と判断した。
 戦闘状態でないと確認が取れないし、そのときにどの程度の動きができるかを検証していかないと、自分に振り回されて窮地に陥る気がする。

 たとえば、思った以上の速度に対応できず、壁に衝突してしまうとか。そのときにVITが低いとまずいので、二つの能力値を均等にした訳だ。
 素早く動けるようになった分STの消耗が激しくなる可能性も考慮しての振り分け。保険にSPも残してあるし、大丈夫だろう。

「あ、正木さん、見れました!」
「お、伊勢さん、一つ成長したね」
【なっちゃん、頑張ったね】
「見れ、ましたけど……」

 伊勢さんはしばらく黙り込んだ。
 目元が薄ら青いホログラムゴーグルに隠れているのでよく見えないが、口の端が明らかに引き攣っていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ロイザリン・ハート「転生したら本気出すって言ったじゃん!」 〜若返りの秘薬を飲んだ冒険者〜

三月べに
ファンタジー
 転生したら本気出すって言ったのに、それを思い出したのは三十路!?  異世界転生したからには本気を出さねばっ……!  若返りの秘薬を見つけ出して、最強の冒険者を目指す!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監
ファンタジー
一つは幼い子供が時空の迷子になって数奇な運命に導かれながら育む恋と冒険の異世界での物語、今一つは宇宙船で出会った男女の異世界での物語。 地球では無いそれぞれ異なる二つの世界での物語の主人公たちがいずれ出あうことになる。 チートはあるけれど神様から与えられたものではありません。 *月曜日と木曜日の0時に投稿したいと考えています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

処理中です...