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9‐3 正木誠司、怪我の功名(後編)

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「なるほど、ジェイスの言う通りケースバイケースだな。そういった魔法を使う相手と敵対さえしなければ必要ないってことか」

「ああ、何かに似てるって思ったら災害の備えみたいな感じですね」

【なっちゃん正解だ。おいらが言いたかったのはそういうことだよ】

「難しいよな。MP攻撃する奴と遭遇すれば仇になるし。検討はするけど、魔法抵抗に関しては他の方法を模索する方が先だな。それでジェイス、次は戦闘状態について詳しく知っておきたい。伊勢さんにも理解してもらった方がいいだろうし」

【うん、おいらもそう思う】

 戦闘状態。そもそも、それがどういったものかと一言で言えばRPGのエンカウントに当たる。
 敵と遭遇しました。戦闘を開始してください、という命令入力待機状態だ。この命令入力待機の部分が能力値適用に変わった感じだ。

 何故こんなものが俺たち日本からの召喚者に設定されたかというと、肉体の制御が利かなくなるからだそうだ。
 これは先の魔法の話とも繋がるが、この世界の人々は鍛錬で自然と自分の力を把握し制御することができるようになっていく。一方、俺たちにはそれができない。

 LVを上げて、STRに極振りしたとして、それが日常生活に反映されると、感覚の齟齬で事故が多発することになる。
 たとえば、握手した人の手を握り潰してしまったり、グラスを掴もうとして割ってしまったり。軽く肩を叩いたつもりが殺してしまったりする可能性もある。

 これを防ぐ為に、安全装置として設けられたのが戦闘状態という訳だ。つまり非戦闘状態である普段は、能力値が肉体に反映されていないということだ。

 ただ、例外としてSTだけは反映されているらしい。これは反映させないと逆にこちらの世界の人との生活が難しくなるだろうとの配慮からそうなっているとのこと。

 ジェイスが【主に夜】と言い出したときは思わず「黙れ」と言ってしまった。STは反映したとしても事故を起こす可能性がないから認められただけだろう。

 そういうことにしておこう。ジーナに言葉が通じなくてよかった。

 戦闘状態への移行条件は(明確な攻撃意思を向けていることを覚られる。または、同様の意思を相手から向けられていることを覚る)というものだ。

 これを踏まえると、非戦闘状態が俺たちの明確な弱点であることがわかる。

 たとえば、不意打ちで死角から矢を放たれたとする。
 この世界の人であれば常に能力値が反映されている為、放たれた矢に気づくことができるだけの能力があれば対処が可能となる。

 対して、俺たちの場合は気づくことが可能な能力値まで上げても戦闘状態でしか気づけない。ゆえに死角から放たれた場合、ほぼ確実に体に矢が刺さってしまう。
 こんな感じで、どれだけLVを上げて能力値を高くしても、普段は反映されていないので不意打ちで死んでしまう可能性がものすごく高いのだ。

 つまるところ、俺たち召喚された日本人がその弱点を克服する為には、明確な攻撃意思を逸早く察知し、素早く戦闘状態へ移行する必要があるということだ。
 考えてみれば、ずっと急所を剥き出しにして生活してるようなもんだからな。そのバランスを取る為に、フェリルアトスはHPの仕様を変えたのかもしれない。

 下限と上限の幅が広いな。戦闘状態に入ってしまえば、こっちの方が圧倒的に有利な気がするし。
 戦闘状態に移行したかどうかを体感できないというのが厄介なところではあるが、これもエレスと相談してどうにかできないかを試行錯誤するつもりでいる。

「お? どうした? 退屈になったか?」 

 ベッドの端に腰かけ足をぷらぷらしていたジーナが抱き着いてきた。
 邪魔をしないよう我慢していたのかもしれない。
 頭を撫でるが、胸ぐりぐりが止まらない。
 これは甘えん坊状態に入っている気がする。
 
 心配して怒ってますよってアピールしかしてなかったしな。
 気まずくなったか。それともまだ怒り足りないか。

「散歩でもしてくるかね」
「え、足、大丈夫なんですか?」
「異世界の医薬品ってすごいみたいだよ」

 俺がジーナを抱き上げて立ち上がって見せると、伊勢さんは目を丸くした。
 
 
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