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9‐2 正木誠司、怪我の功名(中編)

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 伊勢さんが部屋の端に置いてあるスツールを取って来て座った。ジーナは俺のベッドによじ登って座り、その付近をジェイスがふわふわと漂う。

「なんだか難しい話をしてますね」
「ややこしいことは確かだね。慣れるまでだろうけど」

 エレスに連絡して確認を取ろうかと考えたが、今は間違いなく忙しい。
 あまり他人様のサポートAIに頼るのもどうかと思うが、ジェイスの優しさに甘えて確認をとったところ、戦闘状態への移行が行われるのは異世界召喚された日本人のみであることがわかった。

【この世界の人たちは、召喚された日本人とはちょっとばかり仕様が違うんだ。LVがあるのは同じだけど、HPは怪我をすれば減るし0になると死んじゃうよ。だから、この世界の人になら、怪我の治療になっちゃんの応急手当を使えるね】

 俺たちとは違い、HPと体の状態が直結してる訳だ。
 でもそっちの方が意味がわからんところもあるよな。頭を潰されたり首を切り落とされたりすれば流石に即死判定になるみたいだが、心臓を貫かれてもクリティカルヒットになるだけでHPが残ってれば死なないってどうなんだよ。

 思えばハイオウガもそうだった。執拗な胴体への銃撃で重要臓器がズタボロになっていたはずだ。それでも立っていた。
 HPが残ってさえいれば死なないというのは、ああいうことなんだろう。

 とんでもなく痛いんだろうな。
 よかった。この世界の生まれじゃなくて。

 その他の違いについてもジェイスは惜しみなく教えてくれた。
 この世界の人にもSPはあるが、任意の振り分けはできず、スキルの任意取得も不可能。魔法は生まれつき使えるが、スキルではない為、当人たちの努力がなければ成長しない。

 これは生まれ持った力と、後付けされた力の差らしい。
 俺と伊勢さんはウェアラブルデバイスという名の神器のお陰で能力値の可視化が可能だが、この世界の人々はそれができない。
 当然だ。魂とリンクした映像出力装置など、どれだけ技術が発展したとしても作れる訳がない。それこそ、フェリルアトスのような神でもない限りは不可能だろう。

 ゆえに、この世界の人たちは、鍛錬や仕事での経験値取得とLVの上昇、無意識下でのSPの振り分けを行い、ゆっくりじっくり成長していくのだとか。
 魔法の使い勝手が俺たちよりも良いのも、生まれつき魔力を持っているからで、自分の中にある魔力を感じ取って操作を身につけていくからだという。

 だから魔法でバリケードを補修できたりする訳だ。

 対して、生まれつき魔力を持たない俺たちは、MGにSPを振り分けることでお手軽な魔力とMPの増加が行えてしまう。

 本来持ち得ないものを後付けし、努力と鍛錬という前提条件も必要とせずに魔力を伸ばしていくことができる。
 これはチート以外のなにものでもないが、そこに落とし穴がある。

 召喚された日本人には、体内の魔力を感じ取る機能がないのだ。

 早い話が、どれだけMPがあろうが魔力が高かろうが、魔法を使うことができないということだ。喜んで上げたところで放出できないMPタンクにしかならない。
 とはいえ流石にそれは気の毒だろうということで、フェリルアトスがスキルとして現象が固定された魔法もどきを用意してくれたらしかった。

【『折角の異世界なんだから魔法がないと楽しみが減るでしょ』って言ってたよ】

「MAG上げなくてよかった。やっぱり罠だったわ」

【酷い言い草だな。おいらはそうは思わないよ。魔法抵抗値だって上がるし】

「それは魔力枯渇症を抱えるデメリットを帳消しにできるほどのものか?」
 
 ジェイスが小さな前脚を広げて肩を竦めたように見せる。

【ケースバイケースだね。この世界の人たちは魔力を操作できるから、色んな魔法を使えるんだよ。たとえば、状態異常系の魔法だね。MAGに1でも振ってれば抵抗値が付くから受ける可能性は相手の成功確率次第になる。でも抵抗値がない場合は確実に受けてしまう】

「AGI上げれば回避可能では?」

【ウシャスに噴射された生物兵器みたいな魔法だったらどうするんだ?】

 確かにそれは厳しい。少し考えるが、打開策が思いつかない。
 
 
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