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8‐2 正木誠司、初戦闘(中編)
しおりを挟む俺の隣では、ヨハンが神妙な面持ちでポチのいる方向を見つめていた。ポチに武装を取り付けてくれたのはヨハンだ。やはり結果が気になるのだろう。
ポチに取り付けられた武装は最小型の光弾拳銃。取り付けるというか、テープで巻いて固定してあるだけだが、それでも短時間の間によく対応してもらえたと思う。
エレスの急な要望を叶えてくれたヨハンに感謝だな。
光弾拳銃は最小型というだけあって重量も最小。重量制限のあるポチの動きに影響の出ない武装はこれだけだった。
ちなみに威力も最小らしいが、ゴブリン程度であれば急所への一撃で殺せるそうだ。
トリガーは俺が形状変化でポチから生やしたアホ毛状の触手をエレスが操作して引く。問題は形状変化の設定が手動で面倒だったのと俺が不器用だから作り込みが甘いこと。だが、そんな不出来なものでもエレスは【十分です】と言ってくれた。
いや、【可愛いのでこれがいいです】が後に続いたな。
確かに可愛さは増したが、それで良いのかは疑問が残るところ。
まだまだポチは改良の余地ありだ。テープでぐるぐる巻きだしな。
そのぐるぐる巻きの光弾拳銃はトリガーの握り込みで三連射まで可能。ただ、発射される弾の大きさは光弾突撃銃と比べて半分以下と小さい上、グリップに押し込むマガジン型の魔力バッテリーもまた小さいので、十五発で打ち止めになるという難点がある。
だからだろうか?
エレスが中々発砲しない。
適当に撃っても当たるくらいには数が多いように思うのだが。
そんなことを考えながら覗いていると、にわかに周囲が騒がしくなった。
眉根を寄せたヨハンが俺の肩を叩き、手のひらを床に向けて上げ下げする。伏せるようにというジェスチャーだ。
ちらりともう一度魔物に目をやると、前方にいる十体くらいのゴブリンがおかしな動きをとっていた。体の前で横にした両手の平を向かい合わせている。
ああ、あれが魔法の予備動作とかいうやつか。
落ち着いて観察していると、ポチが銃撃し始めた。空中浮揚と瞬間的な移動を繰り返しながら、予備動作を行うゴブリンの頭を撃ち抜いていく。
まるでトンボのような動きで、非常に機敏だ。その華麗な動きに目を奪われているうちに、予備動作を行っていた全てのゴブリンたちが床に倒れ伏していた。
「無駄撃ちなしか。すげぇなエレス」
ポチが前方のゴブリン五体に素早く残弾を撃ち込む。それが済むと、一目散に天井すれすれを飛んで戻って来た。
従業員たちが、わっと歓声を上げる。
まるで英雄の帰還だ。俺も自分が褒められたように気分が良かった。後でたっぷりポチごとエレスを撫でてやろうと思う。
人目のないとこでな。
すぐさま攻勢に転じる笑顔の従業員たちから魔物の群れに視線を戻すと、倒れた十五体のゴブリンが消えていた。
喧嘩のような唸り声や奇声、飛び散る血肉片、波打ちのような上下運動が群れの一部で起こっている。
察したくない自然の摂理。
それが四五十メートル先で繰り広げられていた。
「早速共食いかよ。えげつねぇな」
エアダクトが働いているので臭気が薄いのが救い。それでも鉄錆のような臭いや饐えた臭いが気になるくらいには強くなる。
精神構造を変えても不快感はあるもんだ。いや、不快感はいじってないから当然か。嫌悪感との違いがいまいちわからん。
ややこしすぎるぞ精神。どうにかならんか精神。
【補給に戻りました。戦果は上々です】
「上々どころか大活躍だ。すごいぞエレス」
【うふふ、ありがとうございます。マスター】
「俺も負けてられんな。いっちょやってみるか」
エレスがヨハンと会話を始めるのを尻目に、俺は光弾突撃銃の銃身をバリケードの覗き穴に突っ込む。英語にするとライトバレットアサルトライフルってとこか。
いや、レイショットアサルトライフルの方が言いやすいか。アサルト抜いたらもっと楽だな。レイショットライフル。どうでもいいか。
見た目は艶のない黒色のほぼ四角い筒。地球で有名なカラシニコフやM16なんかとは似ても似つかない。単純形状の理由は大半が光弾変換器だかららしい。
極限まで無駄を省いてあるというより発展しなかった感が否めない。俺は銃なんて撃ったことはないが、こうだったらもっと良いのにという思いが湧く。
最初に見たときからわかってたことだが、もし反動が強かったら当ててる部分痛いぞこれ。ボディーアーマー着込んでるから大丈夫だろうけど、ツナギにダメージあるだろ絶対。
それはさておき、とりあえず撃てば当たるくらいには数がいるのでトリガーを引いてみる。
「うおっ」
狙いは前方のゴブリンの頭だったが、思いの外反動が強くて後ろのオウガの胸に当たった。直撃したが血が噴き出しているだけで致命傷には至っていないようだ。
今度はそのオウガを狙って撃つ。トドメの一撃になるかと思いきや、手前のゴブリンの頭を半分を吹き飛ばした。
うん、違う。そうじゃない。順序が逆だ。
【マスターお見事です】
「いや、あれだけいれば当たるよそりゃ。チャージは終了か?」
【はい。もう一度向かいます】
「中々撃たないと思ったら予備動作狙いだったんだな」
【ヨハンがそうしてくれと。ものすごく褒められました】
「そりゃよかった」
会話しながら数回撃つ。だが、まだ俺は最初に当たったオウガにトドメを刺せずにいた。一発も命中しない。何度撃ってもその周囲にいるゴブリンに当たってしまう。
もっとも、そのゴブリンは一撃で確殺できているんだが。
しかもヘッドショットで。
狙ってないのにどういうことだよまったく。
段々と悔しくなってきた。精神が安定しているゆえに心乱されることはないが、狙い通りにいかないのはもどかしい。
次こそはと思い狙いを定めていると、肩に手を置かれた感触があった。顔を向けるとヨハンがにこやかにサムズアップしてきた。
うわ腹立つ。
集中していたので気づかなかったが、側にはポチがいた。
どうやら二度目のチャージに戻っていたようだ。
【マスター、ヨハンが『やるじゃないか』と言っています】
「気安く触らないでくれって伝えてくれるか?」
【うふふ、かしこまりました】
ちょっとムカッときたし、やられたらやり返しとかないとな。構造をいじっている俺の精神をいとも容易く貫通してくるとはすごい奴だなヨハン。
あんまり俺とは相性がよくないのかもしれないな。
通訳終了後のヨハンのリアクションは気にせず狙いを定める。
トリガーを引くとドフッという音と反動。銃身から光弾が射出された瞬間、オウガの手前にいるゴブリンの頭が半分吹き飛んでいる。
光弾は一瞬だが目視できる。目視できるだけ、実弾を使う銃よりは弾丸の射出速度が遅いということだ。どうやら、それがオウガに当たらない理由のようだ。
よくよく見れば、オウガはゴブリンを上手く盾にしていた。多分、あのオウガは飛んでくる光弾が見えている。のみならず、狙っている俺のことにも気づいている。
いや、狙われているということにだけ気づいていたのか。
「賢いな」
オウガは明らかに俺を見ている。これまではそういったそぶりは見せなかった。おそらく、俺と同じで今気づきがあったのだろう。
どうやらその推測に間違いはなかったようだ。オウガが肩を怒らせ、お前か! と顔で言っていた。だが、その怒りが隙を生んだ。
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