16 / 67
8‐1 正木誠司、初戦闘(前編)
しおりを挟むウシャスの格納庫に出た俺は呆然とした。
全体が青みがかった機械的なグレーの庫内には、分解中のパワードスーツらしきものの残骸や武器など様々な物が乱雑に置かれている。
それはいいのだが……。
付近にテントが乱立しているのは一体どういうことなのか。
側には顔や姿勢に疲労感が滲み出ている従業員たちの姿。
母艦内なのに野営での見張り状態。そして漂う生活臭。
俺の中にある宇宙船内部のイメージが音をたてて崩れていく。
なんというか、洗練された美しさがまったくない。
たとえるなら泥臭い戦いをする兵士たちの雰囲気。いや、汚れたツナギ姿だから、疲れ切った整備士たちか囚人が集う室内キャンプ場だ。
こんなスペースオペラは見たことがない。とはいえ俺のイメージは飽くまで架空作品から得たのものでしかないのだが。
現実だとこうなるってことか。
艦内で数日防衛戦やってんだもんな。
命がかかってるんだから、なりふり構っていられないということだろう。
ただ、整理整頓と掃除くらいはした方がいいと思う。
このままだと、いつか誰かが転んで怪我をしそうだ。
【マスター、この先だそうです】
エレスが小声でそう伝えてくれた。従業員たちを驚かさないように、今は俺が背負っているポチの中にいる。
ヨハンいわく、エレスも魔物に見えてしまう可能性があるとのこと。実際、妖精は魔物扱いだそうだ。
「妖精が実在すると聞いても驚きの一つも起きなくなってきたな」
【マスターは順応力に優れていますから。実のところ私も驚かされています。伊勢さんは数日を要していたようですよ】
「そうなのか?」
【はい。それでも早い方でしょう。現在も環境に馴染む努力をしています。ですが、マスターはそれを数時間でこなし、既に伊勢さん以上の行動を起こしています。ジェイスがマスターは異常だと言っていました。誠に失礼ながら私もそのように思います」
「褒めるにしても表現に問題があると思うんだが」
ヨハンが先行し、側に立っている従業員に声をかけ格納庫の扉を開かせる。すると、遠くから戦闘音らしきものが聞こえてきた。怒鳴り声と爆発音が主で、銃声は聞こえない。
「思ったよりうるさくないな」
【実弾兵器を使用していないそうですから】
会話をしながら通路を進むに伴い、徐々に戦闘音が近づいてくる。
ヨハンについて道を折れると、従業員が慌しく動いているのが見えた。
その途端、ヨハンが何かを言った。
【本当に訓練は必要なかったのかと訊いています】
「してもLVが上がらないなら時間の無駄だからな」
【では必要ないと伝えます】
「ああ、頼む」
通訳が済むと、ヨハンは呆れたように軽く肩を竦めて歩き出した。
俺は装備品のチェックをしながらその後に続く。
背中にポチ。手には光弾突撃銃。太腿にトレンチナイフが収められた鞘。
鞘はポケットではなくホルダーにしっかりと固定してある。ベルトではなく、ツナギ自体にそういう機能が付いているのでかなり便利だ。
ベルトしてたらトイレが大変だからな。
ただ、事故防止の為か、結構な力を入れないとトレンチナイフが鞘から抜けない仕様になっているのはいただけない。
戦闘時は事前に抜いてナックルに指を通しておいた方がよさそうだ。
とはいえ、文句があるのはその一点だけ。
刺突、斬撃だけでなく、ナックルダスター状のガードもあるから拳を痛めずに打撃も可能。トレンチナイフってのはお得感があるよな。
持った状態で銃のトリガーも引けるし、言う事なしだ。
しかし、まさか趣味で観ていた武器紹介や武術の動画がこんなところで役に立つことになるとは。人生なにが起こるかも役立つことになるかもわからんもんだよ本当に。
間もなく、通路を塞ぐバリケードの前に出た。
バリケードはセメントで雑に固められたように凸凹している。赤土や粘土、石も所々に見えて、テーブルやら椅子やらゴチャゴチャといろんな物が埋め込まれていた。
「急ごしらえ感がはんぱじゃないな」
【実際、そのようです。マスター、早速ポチを試してみましょう】
「お、そうだな」
俺はポチを下ろし、バリケードの側に歩み寄る。
するとポチが俺のやや後ろをシャカシャカと四つの脚を動かしながらついてきた。これが可愛く見えてくるから不思議なもんだ。
戦闘中で慌しくしている従業員たちが怪訝な顔を向けてくるが、精神構造を変化させているので気にもならない。ただ、ちょっと緊張していた。
緊張感もいじっておけばよかったかな……。
【では、行きます】
「無理するなよ。危なくなったらすぐ戻るんだぞ」
【はい、マスター】
ポチが行ってきますと挨拶をするように片側の前脚を上げる。
それからすぐに空気を噴出させる音を発して浮かび上がり、四つ脚の関節を折り込んで畳みながらバリケードを越える。
実際に目にすると、思った以上にすげぇな。
ポチを見送った俺は、即座に隣のヨハンを押し退け、バリケードの隙間から向こう側を覗いた。そこには、伊勢さんから聞いていた特徴通りの魔物たちが溢れていた。
「うわー、ひしめいてんなー」
ゴブリンが最も多く、頭三つ分ほど大きなオウガがちらほら。
どうやらハイオウガはいないようだ。
通路は決して狭くない。自動車が二台通れるくらいはあるだろう。
それでも詰まって見える。
魔物同士が押し合いへし合いして進行速度を落としている感じだ。
貫通力の高い武器とか爆薬とか使えば一掃できそうなもんだけどな。
まぁ、俺が思いつくくらいだからもう試してるか。
もしかすると下手に隙間を作って魔物の進行速度を上げないようにしてるのかもしれない。あるいは、使えない理由があるのか。やっぱり酸素かな。
考察しながらポチが魔物に近づいていくのを見つめる。天井に近い位置を飛んでいるので、フレンドリーファイアを食らう心配はなさそうだ。
正直それが一番心配だからな。
2
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる