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7‐2 正木誠司、準備完了(後編)
しおりを挟む考察をしながら、エレスのしてくれた指示に従い、タブレット型の透過型ディスプレイを使ってウェアラブルデバイスの液状化と浸透同化を済ませる。
その途端、何してんだこいつらという顔で傍観していたヨハンが目を剥く。
ずっとほったらかしにしてごめんな。
エレスが説明してくれてるみたいだけども理解が及ばないよな。
液状化した時点では四脚偵察機の上にやや粘度のある水たまりができたような感じだったが、浸透同化は中々に不思議な光景だった。
四脚偵察機の全体が水で覆われて一瞬で浸透した。
ヨハンが四脚偵察機をためつすがめつしながらぺたぺたと手で触っている。
気持ちがすごくわかる。なにが起きたのかさっぱりわからない現象だよな。
だって、金属板に水が浸透したんだもんな。びっくりだわ。
「なんだか、スライムが金属製の獲物を吞み込もうとして、逆に獲物に内側から吞み込まれたみたいだったな。興味深いものが見れた。ほい、ドール化を承認っと」
【ありがとうございます、マスター。早速入ってもいいですか?】
「いや、その前に、名前を付けてやったらどうだ? 呼び名がないと不便だし」
【私が命名してもいいんですか?】
「構わんよ。公序良俗に反するようなものだったら全力で止めるが」
エレスが口元に人差し指を当て、首を傾げてやや上を向く。
まさか生きている間にこんな間近で妖精の思考ポーズを拝むことができるとは思いませなんだじゃ。ありがたや、ありがたや。
俺が頭の中で年老いた村長を想像するふざけた遊びをしている途中でエレスが微笑んだ。
【では、ポチにします】
「ポチか。なんだろう。犬かよって思ったけど、妙にしっくりくるところがあるな。不思議と愛着も湧いてくるし、いいんじゃないか? うん、四脚偵察機って呼ぶよりは断然いい」
【嬉しいです。ではポチに入ってもいいですか?】
「おう、構わんよ」
エレスがポチと一体化する。本当に入るって感じだ。するっと浸透した。直後、ポチの前面にある小さなライトが点灯し、シャカシャカと蜘蛛のように動き出す。
ヨハンがギョッとして仰け反っていた。
今の俺は感覚をいじっているのでそうならなかっただけなのだろうと思う。
いじってなければ、多分二人で仰け反っていただろう。
【マスター、ウェアラブルデバイス化してもよろしいですか?】
「ウェアラブルデバイス化? どうするつもりだ?」
【ポチの形状であれば、背面装甲になれるはずです】
「なるほど。わかった許可する。やってみせてくれ」
【かしこまりました】
エレスが操縦しているポチが浮上し、俺の肩に前脚二本をかける。それからすぐに背中に軽い衝撃が走り、後脚二本が腰をホールドした。
背嚢に見えると思ったら、本当に背負うことになった。胴体部が薄い長方形の箱型だから亀のようには見えていないはず。意外と悪くないかもしれない。目視確認したいな。
【バックパック型ウェアラブルデバイスドール。ポチ装着完了です】
思ったより重くなく、俺が担ぐことで動力の節約になり、ウェアラブルデバイスとしての機能を持った上で背面装甲として背中を守る。それでいて偵察機として空も飛ぶ。
ポチ、優秀。
ただ、やはり行動を阻害されている感はある。
肩と腰をホールドする脚に改良の余地がある。隙間ができているので動く度にポチがぐらつくし、ツナギの擦れも気になる。
「ポチに武装は可能か?」
【可能だそうです。ヨハンと相談しても構いませんか?】
「ああ、もちろんだ。改良についても相談してくれ。俺が説明しなくても、どこが良くないか体感したエレスならなんとなくわかるだろ?」
【はい。私もマスターに提案しようとしていたところです。すぐに取り掛かります】
新たな仲間、ポチを得た。
それはいいんだが、もうかなり時間が過ぎている気がする。ジーナはまた泣いていないだろうか。早くレベリングと検証を済ませて戻ってあげたいんだが。
そんな俺の心の内には気づいた様子のない二人。ポチから抜け出たエレスとヨハンが真剣な表情で話し込む姿を、俺は深々と溜め息を吐いて見つめていた。
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