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4‐1 正木誠司、五千分の一になる(前編)
しおりを挟む「あの、正木さん?」
行き着いた答えに満足した俺が腕組みして頷いていると、伊勢さんから怪訝そうに声を掛けられた。
「どうされたんですか?」
「え? あ、あははは。いやいや、ごめん。なんでもない」
俺は苦笑して軽く手を横に振りながら言う。君の突進がすごい理由がわかった、なんて正直に言うほどデリカシーに欠けてはいないつもりだ。
ごまかしのとどめに、軽く咳払いしておく。
「あー、ところで、能力値を見せてもらうことってできる?」
「あ、はい。大丈夫です。ジェイスお願い」
【あいあーい】
ジェイスが返事をするなり、透過型ディスプレイ状のホログラムがテーブルの上に出現する。
────────
ナツミ・イセ AGE 24
LV 1
HP 13/13
MP 8/8
ST 35/35
STR 6 VIT 7
DEX 7 AGI 5
MAG 4
SP 0
SKILL
応急手当(MPを1消費し、手を当てた対象のHPを20%回復させる。※端数切捨て)
言語理解(あらゆる言語を話すことができるようになる。※脳にデータを移行する時間が必要。一つの言語につき、所要時間は約八時間。頭痛を伴う為、睡眠時に行うことを推奨)
────────
一目見て、俺は首を傾げる。SPを全て振った割には能力値が低い。スキルを取得したからだろうか?
そのことについて訊いてみたところ、伊勢さんは「よくわからないんです」と困ったように言った。
「すみません、ゲームとか、ほとんどしてこなかったので。ジェイスに教えてもらいながら、なんとなくやった感じで」
【なっちゃんはDEXが7で優秀だったんだけどな、STRが2のVITが3で壊滅的に低かったんだ。だからまずはDEXに合わせて均等に上げることを勧めたのさ】
「なるほど。初期値が人によって違うのか」
ジェイスに確認したところ、能力値は人体改造とは無関係で、元の身体能力が基準となっているらしい。
【ちなみに今回召喚された日本人の初期最高値は8だ。トータルだと26が初期最高値だな】
「えっと、私は16でした。正木さんは?」
「俺はオール5で20だね」
「ふふっ、通知表みたいですね」
「ははは、確かに。学生時代に取れたらよかった」
そしたらもっといい未来を過ごせてたかもなという言葉は寂しくなるので呑み込んだ。大人になってから気づいても遅い学生時代の勉強の大切さ。
不思議なもんで、歳を重ねた方が知識欲が増したんだよな。
今はそれを生かそう。
「エレス、悪いけどHPとMP、あとSTの上がる能力値を教えてくれ。いや、いっそ能力値詳細をこんな感じでディスプレイ化してほしい。できるか?」
【はい、可能です】
カレーとパンの美味しさに夢中になっているジーナを見て微笑んでいたエレスがテーブルから飛び上がり、ジェイスの出したホログラムディスプレイを指差す。
【伊勢さん、これを消してもらえますか?】
「はい。ジェイスお願い」
【あいあーい】
ジェイスのホログラムディスプレイが消え、代わりに能力値説明が記載されているエレスのホログラムディスプレイが展開される。
記載情報が少ないと思い、つい癖でフリックしたら動いた。タッチパネルにもなってるよこれ。どうなってんだこの謎技術。
ああ、いかんいかん。興奮して取り乱すところだった。
誰も気づいた様子はないし、しれっとお勉強を続けよう。
「ふむ。STRとVITは共に1上げる毎にHPも1上がるのか。伸びの悪さから推測するに、数値1当たりの重要性が高そうだな。で、VITを1上げる毎にSTが5上がると。STの詳細は後にするとして、MPはMAGを1上げる毎に……んん?」
MPについての記載情報の中に見てはいけないものを見た気がした。
目を擦ってもう一度よく見てみる。
「うわ、見間違いじゃなかった。これはいかん」
「ど、どうしたんですか?」
「ここ、読んでみて」
俺が指差したところを読み始めた伊勢さんが「えっ」という声を上げ、焦ったように俺に顔を向ける。
「あ、あの正木さん、ここに書いてあるMPが枯渇っていうのは、使い切って0になったらってことですよね?」
「そう。だから枯渇しないようにMP残量には気をつけないといけない。エレス、最初から0の場合はどうなんだ?」
【MAGにSPを割り振らない限りは、魔力適性なしという扱いになりますので、枯渇状態に陥ることはありません。ですのでMPを減らす攻撃を受けても問題ありません】
「MPを減らす攻撃って……そんなのあるんですか? どうしよう。失敗しちゃったかも……」
伊勢さんが怯えるのも無理はない。記載されていたのは怖ろしい症状を引き起こす魔力枯渇症についての説明だった。
MPを使い切ると睡魔に襲われ、三十秒後に意識を失い昏睡状態に陥る。その後はMPが最大値まで自然回復しない限りは目覚めなくなると書いてある。
回復ではなく、飽くまで自然回復でなくてはならないというのが怖ろしいところ。
MPの自然回復量は一時間につき10%だ。つまり魔力枯渇症になれば、十時間の昏睡状態が確定してしまうということ。
【なっちゃん、大丈夫だよ。MP攻撃してくる魔物なんて滅多に遭遇しやしないって。MPを使わなきゃいいだけさ】
【そうですよ。それに三十秒以内にMPを回復すれば問題ありません。そんなに気を落とさなくとも大丈夫ですよ】
ジェイスとエレスが伊勢さんを気遣うように漂う。
うるうるしている伊勢さんの側を妖精とハリネズミが飛んでいる光景は、不謹慎だが童話の一場面のようで可愛らしく見えた。
斜向かいの席でジーナが口をぽかんと開けて「はわわ」と言いながら目を輝かせているから、俺の感性に間違いはない。
それにしても口の周りがカレーまみれだなジーナ。一度拭いた方がよかろうて。
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