上 下
8 / 67

4‐1 正木誠司、五千分の一になる(前編)

しおりを挟む
 
「あの、正木さん?」

 行き着いた答えに満足した俺が腕組みして頷いていると、伊勢さんから怪訝そうに声を掛けられた。

「どうされたんですか?」
「え? あ、あははは。いやいや、ごめん。なんでもない」

 俺は苦笑して軽く手を横に振りながら言う。君の突進がすごい理由がわかった、なんて正直に言うほどデリカシーに欠けてはいないつもりだ。
 ごまかしのとどめに、軽く咳払いしておく。

「あー、ところで、能力値を見せてもらうことってできる?」
「あ、はい。大丈夫です。ジェイスお願い」
【あいあーい】

 ジェイスが返事をするなり、透過型ディスプレイ状のホログラムがテーブルの上に出現する。

────────

ナツミ・イセ AGE 24
LV 1

HP 13/13
MP 8/8
ST 35/35
STR 6  VIT 7
DEX 7  AGI 5
MAG 4  

SP 0

SKILL

応急手当(MPを1消費し、手を当てた対象のHPを20%回復させる。※端数切捨て)
言語理解(あらゆる言語を話すことができるようになる。※脳にデータを移行する時間が必要。一つの言語につき、所要時間は約八時間。頭痛を伴う為、睡眠時に行うことを推奨)

────────

 一目見て、俺は首を傾げる。SPを全て振った割には能力値が低い。スキルを取得したからだろうか?
 そのことについて訊いてみたところ、伊勢さんは「よくわからないんです」と困ったように言った。

「すみません、ゲームとか、ほとんどしてこなかったので。ジェイスに教えてもらいながら、なんとなくやった感じで」

【なっちゃんはDEXが7で優秀だったんだけどな、STRが2のVITが3で壊滅的に低かったんだ。だからまずはDEXに合わせて均等に上げることを勧めたのさ】

「なるほど。初期値が人によって違うのか」

 ジェイスに確認したところ、能力値は人体改造とは無関係で、元の身体能力が基準となっているらしい。

【ちなみに今回召喚された日本人の初期最高値は8だ。トータルだと26が初期最高値だな】
「えっと、私は16でした。正木さんは?」
「俺はオール5で20だね」
「ふふっ、通知表みたいですね」
「ははは、確かに。学生時代に取れたらよかった」

 そしたらもっといい未来を過ごせてたかもなという言葉は寂しくなるので呑み込んだ。大人になってから気づいても遅い学生時代の勉強の大切さ。

 不思議なもんで、歳を重ねた方が知識欲が増したんだよな。
 今はそれを生かそう。

「エレス、悪いけどHPとMP、あとSTの上がる能力値を教えてくれ。いや、いっそ能力値詳細をこんな感じでディスプレイ化してほしい。できるか?」
【はい、可能です】

 カレーとパンの美味しさに夢中になっているジーナを見て微笑んでいたエレスがテーブルから飛び上がり、ジェイスの出したホログラムディスプレイを指差す。

【伊勢さん、これを消してもらえますか?】
「はい。ジェイスお願い」
【あいあーい】

 ジェイスのホログラムディスプレイが消え、代わりに能力値説明が記載されているエレスのホログラムディスプレイが展開される。
 記載情報が少ないと思い、つい癖でフリックしたら動いた。タッチパネルにもなってるよこれ。どうなってんだこの謎技術。

 ああ、いかんいかん。興奮して取り乱すところだった。
 誰も気づいた様子はないし、しれっとお勉強を続けよう。

「ふむ。STRとVITは共に1上げる毎にHPも1上がるのか。伸びの悪さから推測するに、数値1当たりの重要性が高そうだな。で、VITを1上げる毎にSTが5上がると。STの詳細は後にするとして、MPはMAGを1上げる毎に……んん?」

 MPについての記載情報の中に見てはいけないものを見た気がした。
 目を擦ってもう一度よく見てみる。

「うわ、見間違いじゃなかった。これはいかん」
「ど、どうしたんですか?」
「ここ、読んでみて」

 俺が指差したところを読み始めた伊勢さんが「えっ」という声を上げ、焦ったように俺に顔を向ける。

「あ、あの正木さん、ここに書いてあるMPが枯渇っていうのは、使い切って0になったらってことですよね?」

「そう。だから枯渇しないようにMP残量には気をつけないといけない。エレス、最初から0の場合はどうなんだ?」

【MAGにSPを割り振らない限りは、魔力適性なしという扱いになりますので、枯渇状態に陥ることはありません。ですのでMPを減らす攻撃を受けても問題ありません】

「MPを減らす攻撃って……そんなのあるんですか? どうしよう。失敗しちゃったかも……」

 伊勢さんが怯えるのも無理はない。記載されていたのは怖ろしい症状を引き起こす魔力枯渇症についての説明だった。
 MPを使い切ると睡魔に襲われ、三十秒後に意識を失い昏睡状態に陥る。その後はMPが最大値まで自然回復しない限りは目覚めなくなると書いてある。

 回復ではなく、飽くまで自然回復でなくてはならないというのが怖ろしいところ。
 MPの自然回復量は一時間につき10%だ。つまり魔力枯渇症になれば、十時間の昏睡状態が確定してしまうということ。

【なっちゃん、大丈夫だよ。MP攻撃してくる魔物なんて滅多に遭遇しやしないって。MPを使わなきゃいいだけさ】
【そうですよ。それに三十秒以内にMPを回復すれば問題ありません。そんなに気を落とさなくとも大丈夫ですよ】

 ジェイスとエレスが伊勢さんを気遣うように漂う。
 うるうるしている伊勢さんの側を妖精とハリネズミが飛んでいる光景は、不謹慎だが童話の一場面のようで可愛らしく見えた。
 斜向かいの席でジーナが口をぽかんと開けて「はわわ」と言いながら目を輝かせているから、俺の感性に間違いはない。

 それにしても口の周りがカレーまみれだなジーナ。一度拭いた方がよかろうて。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

セイジ第二部~異世界召喚されたおじさんが役立たずと蔑まれている少年の秘められた力を解放する為の旅をする~

月城 亜希人
ファンタジー
異世界ファンタジー。 セイジ第二部。『命知らず』のセイジがエルバレン商会に別れを告げ、惑星ジルオラに降り立ってからの物語。 最後のスキルを獲得し、新たな力を得たセイジが今度は『死にぞこない』に。 ※この作品は1ページ1500字~2000字程度に切ってあります。切りようがない場合は長くても2500字程度でまとめます。 【プロローグ冒頭紹介】  リュウエンは小さな角灯を手に駆けていた。  息を荒くし、何度も後ろを気にしながらダンジョンの奥へと進んでいく。  逃げないと。逃げないと殺される。 「ガキが手間かけさせやがってよお!」 「役立たずくーん、魔物に食べられちゃうよー」 「逃げても無駄ですよー。グズが面倒かけないでくださーい」  果たしてリュウエンの運命は──。 ──────── 【シリーズ作品説明】 『セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜』は別作品となっております。 第一部は序盤の説明が多く展開が遅いですが、中盤から徐々に生きてきます。 そちらもお読みいただけると嬉しいです。 ──────── 【本作品あらすじの一部】 宿場町の酒場で働く十二歳の少年リュウエンは『役立たず』と蔑まれていた。ある日、優しくしてくれた流れの冒険者シュウにパーティーの荷物持ちを頼まれダンジョンに向かうことになる。だが、そこで事件が起こりダンジョンに一人取り残されてしまう。  *** 異世界召喚された俺こと正木誠司(42)はメカニックのメリッサ(25)と相棒の小型四脚偵察機改ポチ、そして神に与えられたウェアラブルデバイス(神器)に宿るサポートAI(神の御使い)のエレスと共に新たな旅路に出た。 目的は召喚された五千人の中にいるかもしれない両親の捜索だったのだが、初めて立ち寄った宿場町でオットーという冒険者から『ダンジョンで仲間とはぐれた』という話を聞かされる。 更には荷物持ちに雇った子供も一緒に行方がわからなくなったという。 詳しく話を訊いたところその子供の名前はリュウエンといい奴隷のように扱われていることがわかった。 子供を見殺しにするのは寝覚めが悪かったので、それだけでも捜索しようと思っていたが、なんと行方不明になったシュウという男が日本人だということまで判明してしまう。 『同胞の捜索に手を貸していただけませんか?』 オットーに頼まれるまでもなく、俺は二人の捜索を引き受け、シュウのパーティーメンバーであるオットー、リンシャオ、エイゲンらと共にダンジョンに突入するのだが──。 ──── 応援、お気に入り登録していただけると励みになります。 2024/9/15 執筆開始 2024/9/20 投稿開始

処理中です...