【完結】セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
3 / 67

1‐2 正木誠司、目覚める(後編)

しおりを挟む
 
 
 幼女は驚きで硬直している俺を見て一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔になり何かを言った。だが、俺には幼女が何を言ったのかわからなかった。

 日本語どころか、英語などのメジャーな言語とも違う気がする。
 何度聞いても耳馴染みがない言葉だ。

「ごめんな。おじさんは日本語しか話せないんだ」

 俺が苦笑してそう言うと、幼女がトテトテと歩み寄ってきて、いそいそとポケットから楕円型の黒いケースを取り出した。

「ん」という声と共に、幼女がケースを握った手を突き出す。
「ええと、受け取れってことか?」
「ん、ん」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」

 幼女がぐいぐい押し付けてくるのは、おそらくスマホなどで使うワイヤレスイヤホンのケースだ。なんだってこんなものを。

 あ、そういやスマホ。

 辺りを見回すが、見当たらなかった。

「なぁ、お嬢ちゃん、おじさんのスマホを知らないか?」

 俺は幼女にそう手振りで伝えたが、幼女は一瞬きょとんとして首を傾げた後で、思い出したようにまたケースを渡そうとしてくる。

「あー、わかった、わかったから」

 俺は仕方なくケースを受け取りスイッチに触れた。すると、ケースから美しい電子音の旋律が流れ、蓋に緑色のラインが走った。

「わぁー」と幼女が感嘆の声を上げて目を輝かせる。

 な、何が起きるんだ? ただのイヤホンケースじゃないのか?

 ケースの蓋がひとりでにゆっくりと開いていく。
 その光景を、俺は幼女と一緒に固唾を呑んで見守る。

 やがて──何事もなく蓋が開き切った。

 これ作った奴ぶっ飛ばしてやろうかな。

 中に入っていたのは、普通の黒い耳掛け型ワイヤレスイヤホン。

 思わせぶりな音と光を放つケースと案の定の中身に俺はかなり頭にきた。

 期待して損したという思いを感じさせる為に存在しているようなケースだ。

 もう二度と触るまい。

 怒りを通り越して呆れつつ、ケースから幼女に視線を移す。
 幼女は翡翠色の瞳でこちらを見ていた。俺と目が合うなりに、何かを期待しているような表情で、俺の耳とイヤホンを交互に指差し始める。

「ん、ん」
「これを、つけろって? スマホもないのに?」

 手振りを交えてそう訊くと、幼女がこくこくと頷いた。
 早くつけろと急かすように何度も耳とイヤホンを指差す幼女に気圧され、俺は慌ててケースからイヤホンを取り出し装着する。

「なんだってんだよ」

 そう呟いてすぐ、イヤホンを付けている感触が変化した。
 まるで体の一部になったかのような不思議な感覚に襲われているうちに、短い電子音が鳴り目の前が薄い青色に染まった。

 慌てて手で振り払うが、すり抜けるだけで全く消える気配がない。

「お、おいおい。なんだよこりゃ?」

 中央にLSというロゴらしきものが表示される。
 それを見てハッとした。これは多分、VRゴーグルだ。

 幼女の姿が透けて見えているということは、透過型ディスプレイ。いや、触れることができないってことは、映像出力可能な透過型ホログラムゴーグルか。

「すっごいなこれ。とんでもねぇ技術だ」

 イヤホンから出力されているのだろうが意味がわからない。

 どこのメーカーの製品なのかと、二度と触るまいと誓ったケースを手に取ろうとしたところで画面からLSというロゴが消え去った。
 その直後、ロゴと入れ替わるようにしてスーツを着た東洋系の美女が画面に映り、やや機械的な女の声がイヤホンから流れてきた。

【はじめましてマスター。私はエレスと申します。このイヤホン型ウェアラブルデバイスに搭載されたサポートAIです。お困りのことがあれば、いつでもお声がけください。それでは、マスターの固有能力を説明する為に能力値参照画面に移行します】

 穏やかそうな日本人の有能秘書といった印象のエレスが小窓表示になり画面右下に移動して会釈する。それとほぼ同時に、ゲームでよく見るステータス画面が表示された。

────────

No,5000 AGE 42
LV 1

HP 10/10
MP 0/0
ST 25/25
STR 5  VIT 5
DEX 5  AGI 5
MAG 0 

SP 15

────────

【こちらが、マスターの現在の能力値となります。戦闘で経験を積むことでLVを上げることができ、LVを上げることでSPを得ることができます。SPを任意の──】

「ちょっと待った」

 俺はエレスの説明を止め、目を閉じ額を押さえた。
 情報過多で頭痛が起こりそうになる。どこから手をつければ良いのかも判断がつかない。あまりにわからないことが多過ぎる。

 ただ、そんな俺にもわかっていることはあった。
 それは、どれだけ現実離れしていたとしても目の前で起きた以上は現実で、その現実を受け入れなければ話が一向に進まないということだ。

 俺は自分でも気づかないうちに頭を掻いていた。

【頭が痒いのですか? マスター?】

「いや、痒くない。単なる癖だから気にしなくていい。さて、どうすっかな……。とりあえず、能力値の説明は飛ばしていい。多分、なんとなくわかると思う。わからんことがあったらその都度訊くから、対応してくれると助かる」

【かしこまりました。それでは】

「あ、ストップ。待ってくれ。早速わからんことがあった。この、一番上にあるNo,5000ってのはなんだ?」

【そちらは、アナザエル帝国帝都にて召喚された日本人五千人に与えられた番号です。マスターの名前として登録されています】

 俺は頭を抱えたくなった。質問する度に現実味が損なわれる上、新たな疑問が増える。辟易しながら質問を続けようとしたとき、幼女が声を掛けてきた。

「今度はなんだ? 困ったな。わからないんだって」
【マスターの未習得言語ですね。ストレージに言語データが存在します。私の音声を外部出力し、通訳を行えます。使用しますか?】
「そんな機能まで付いてんのか? すごすぎだろ」
【うふふ、光栄です。それで、どうないさます?】
「ぜひ頼むよ」
【かしこまりました。音声と映像の外部出力を開始します】

 映像の外部出力?

 耳を疑う俺の目に、画面の小窓から飛び出すエレスの姿が映る。

「なっ──」

 エレスは背中に四枚の翅を生やした小さな人になっていた。
 突然現れた艶やかな長い黒髪の妖精に、「きゃあー」と幼女が飛び上がって喜んでいる。久しぶりに友達と会ったような反応だ。

 小さい子ってすごいな。あっという間に順応してるよ。

 俺が呆気にとられている間にエレスが幼女と会話を始め、話している内容を俺に伝え始める。それによると、幼女はジーナという名で『今乗っている小型艦の案内をする』と言っているらしかった。

「小型艦? 今は海の上にいるってことか?」
【いいえ、現在我々は宇宙を航行中とのことです】
「宇宙……」

 俺は遠いところを見て立ち尽くした。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ロイザリン・ハート「転生したら本気出すって言ったじゃん!」 〜若返りの秘薬を飲んだ冒険者〜

三月べに
ファンタジー
 転生したら本気出すって言ったのに、それを思い出したのは三十路!?  異世界転生したからには本気を出さねばっ……!  若返りの秘薬を見つけ出して、最強の冒険者を目指す!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監
ファンタジー
一つは幼い子供が時空の迷子になって数奇な運命に導かれながら育む恋と冒険の異世界での物語、今一つは宇宙船で出会った男女の異世界での物語。 地球では無いそれぞれ異なる二つの世界での物語の主人公たちがいずれ出あうことになる。 チートはあるけれど神様から与えられたものではありません。 *月曜日と木曜日の0時に投稿したいと考えています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...