上 下
9 / 12
第一章 異変

六話 偽りの心

しおりを挟む
  拠点を後にし、教室に戻ったが特にやることがなかったから少し校内を回ることにした。
  なんだかんだでここにきてまだほとんど時間がたっていないから校内のマップはほとんど頭に入っていない。
  ……そういえば、この学校の中に奴らはいないのだろうか。所々赤い血らしきものは目に入るが、姿はない。
  誰かが全員殺したのか…?
  そんなことができる人と言ったら鈴桜と瑠々ぐらいだ。

 ────ふと思う。もしここがゲームの世界なら彼女達は一体何だ? もし仮にNPCだとしてもそれにしては出来すぎている。それにちゃんとした心や感情を持っているのはひと目でわかる。
  だったら一体……

「俺と同じ…なのか?」

  だがそんなはずあるわけない。しかし───
  蓮の中で様々な思考がごちゃ混ぜになっている間に、屋上に到着したみたいだ。鍵は掛かってなかったからとりあえず入ってみることにした。

  屋上には庭園があったが、特別な施設があるわけではなかった。だがなかなか広い。
  それに風当たりもよかったので少し風にあたることにした。

────ここが本当にゲームの中の世界なら彼女達は一体…?

  やはり一度思い浮かんでしまった疑問はなかなか消えてはくれず、もやもやと頭の中に残る。
  そもそも鈴桜と瑠々、そしてあの双子は本当にこの世界で生まれたのか? 本当は別の場所で…

───ガチャ…

  ドアの開く音がしたので、そっちを見てみると瑠々がいた。瑠々はこっちを見るなり、伝言を伝えにきたのかまっすぐこっちに向かって来た。
「蓮…鈴桜が呼んでる……次の任務って………」
「あぁ、わかった。すぐ行くよ」
  双子との話は終わったみたいで、どうやらまた新しい任務が始まるようだ。
  とりあえず拠点に戻ることにした。  

  拠点には鈴桜、瑠々、双子がいた。
「…で、次の任務は何だ?」
「次の任務は────」
「校内リフォーム大作戦! だよ!」
  鈴桜が話そうとしていたところに割り込んで、天華が元気にそう言った。
「ちょっ……任務名を言うのは私が担当だ! 割り込むなんてずるいではないか!」
「ふっふーん。はやく言わないりっちゃんが悪いんだよーう」
  何だか鈴桜がいつもより子供っぽい。というかりっちゃんって何だ。いつの間にこの二人は仲良くなっていたんだ。ついでに瑠々が羨ましそうに二人を眺めている。

「…まぁいいが、校内リフォームと言うと…?」
「リフォームというより掃除だな。蓮も見かけただろうが校内には血がついてたりまだまだ散らかっているからね」
  確かに綺麗とは言えない状況だったが……
「あ、そういえば言い忘れていた。話の途中だが天華、天茉共に桜組の仲間になった。よろしく頼むぞ」
  そういえばって…また忘れてたのか。鈴桜は意外と忘れっぽい性格なのか?
「ご紹介に預かりましたぁ! 天華だよ!」
「弟の天茉です。宜しくお願いします」
  双子だから顔こそ似てるが、性格は真逆と言ったところだ。というか本当に天茉は男の娘…
「ま、細かいことは時期にわかるだろう。というわけで仲間も増えたし…任務だな」
「……了解…」
「今回ばかりは桜組以外の人もわずかながらいるからな。一応挨拶ぐらいはしておけ。まぁ意味ないとは思うが」
「意味ない…というと?」
「実際に話しかけてみな。よくわかる」
  そのぐらい教えてくれてもいいではないか。────とりあえず、会ったら話かけてみることにする。

「天華と天茉は三階を。蓮は二階、私と瑠々は一階だな。連は一人になっちゃうが私がたまに手伝いに行くよ」
「あぁ、わかった」
「……鈴桜…」
「わかってるよ、瑠々」
  瑠々と目を合わせただけなのに意思疎通ができる程の仲なのかと少しばかり感心していた。
「三階は大丈夫だが、二階と一階では必ずしも奴らがいないというわけではない。もし遭遇してしまったらここに音を立てずに逃げろ。戦闘は危険だ」
「奴らって…ゾンビのことですか……?」
「天茉は心配する必要はないだろう。油断は禁物だがな」
「大丈夫! もしもの時はあたしが守るよ!」
  なんか心配だが大丈夫そうだろう。
「まぁ奴らがいる確率は本当に低いからあまり気にしすぎるな」
「わかりました、鈴桜さん」
  それぞれ各階にて任務が始まっ……た?
  
────三階にて
「むうー。少しばかり汚れが目立ちますなぁ」
  目立つほどではなかったが、やはりまったく綺麗というわけではなかった。
  ……やっぱり、ここでも人が────
「お姉ちゃんは雑巾で吹いててください。水をくんできます」
「了解だよー。いってらっしゃーい」
  相変わらずの笑顔で天茉を見送った。
  
  ────だが天茉が教室から出た瞬間に天華の笑顔が消える。それはおそらく誰も見たことがないほどに、まったくの無表情だった。
  だが表情とは裏腹に、天華の心の中では様々な想いが入り狂う。

  ───天茉を守らなくては。
  ───天茉をもう二度と失わないように。
  ───双子の姉として、ずっと傍に……
  悲しみ、怒り、そしてあの時への後悔。絶対に忘れないこの想い……
  ────あの時、あの日の事。あたしは絶対に弟を殺した罪なるあの男を許さない。

「お姉ちゃん、ただいま」
「お…おかえりぃ。重そうなバケツだねぇ」
「いっぱいお水が入ってますから」
  天茉が水の入ったバケツを持って教室に戻ってきた。
「さっさと終わらせちゃおーうっ!」
「はい、そうですね」
  雑巾を水で濡らし、しっかり絞ってから拭き掃除を始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...