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母を訪ねて
4 ハダ探偵といっしょ
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目が暗闇に慣れる前にハダはうすら寒さを感じ身震いした。ここはタイチの母親の記憶の中だ。寒くも暑くもないはずだった。
だが――
ハダは頭上に高々と掲げていた網を下ろした。見渡す限り広がるのは、荒廃。一歩踏み出すと、足元でじゃりっと音がした。ガラスの破片が、比較的大きな欠片から小さな破片までが砂利のように敷き詰められていた。
ハダは眉間にしわを寄せた。なんとも嫌な感じだった。
「これは記憶じゃない」
「えっ、どういうこと?」
ひとり言に返事があって驚いたハダが振り向くと、タイチが立っていた。不安げにきょろきょろしている。
「だって、おじさんは、記憶の中に入りこんで人を捜す探偵でしょう? 場所を間違えたの?」
「お前、どうやってここに」
「えっ。さあ、どうやったんだろう? おじさんが動かなくなってから、心配になって、体にちょっと触ってみたんだ。そしたら」
通常、他者の記憶のなかに侵入するためには、まず道具。虫取り網状のものが多いが、特にこの形でなければならないわけではない。この特殊な捕獲道具と、厳しい訓練を要する。誰でも道具さえ手にすれば記憶探偵になれるわけではない。
「驚いたな」
追い返すわけにもいかないと判断したハダは、タイチに言う。
「何が起きてもおれから離れるな。それから、言っておくが、これから目にするものはお前にとって」
最後まで言い終えることができなかった。足もとが揺れて、ガラスの破片がざらざらぱりぱりと音を立てた。
「いたっ」
タイチが悲鳴を上げた。見ると、半ズボンから伸びた左足首の外側がざっくり切れて血が流れていた。
「惑わされるな。ここはお前のお母さんの頭のなか、今俺たちが見ているのは、いわば彼女の脳が見せている映像だ。俺達は歓迎されざる侵入者だが、異物を傷つけるような力は脳にはない」
タイチが恐る恐る痛みを感じた部位を見下ろすと、そこには傷も血の跡もなかった。硝子の破片のなかでざくざく音を立てながら足踏みをしてもかすり傷ひとつつかないし、ぜんぜん痛くないことを確かめたタイチは
「そうだ、お母さんを捜さなきゃ」
とにわかに活気づいた。
だが――
ハダは頭上に高々と掲げていた網を下ろした。見渡す限り広がるのは、荒廃。一歩踏み出すと、足元でじゃりっと音がした。ガラスの破片が、比較的大きな欠片から小さな破片までが砂利のように敷き詰められていた。
ハダは眉間にしわを寄せた。なんとも嫌な感じだった。
「これは記憶じゃない」
「えっ、どういうこと?」
ひとり言に返事があって驚いたハダが振り向くと、タイチが立っていた。不安げにきょろきょろしている。
「だって、おじさんは、記憶の中に入りこんで人を捜す探偵でしょう? 場所を間違えたの?」
「お前、どうやってここに」
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通常、他者の記憶のなかに侵入するためには、まず道具。虫取り網状のものが多いが、特にこの形でなければならないわけではない。この特殊な捕獲道具と、厳しい訓練を要する。誰でも道具さえ手にすれば記憶探偵になれるわけではない。
「驚いたな」
追い返すわけにもいかないと判断したハダは、タイチに言う。
「何が起きてもおれから離れるな。それから、言っておくが、これから目にするものはお前にとって」
最後まで言い終えることができなかった。足もとが揺れて、ガラスの破片がざらざらぱりぱりと音を立てた。
「いたっ」
タイチが悲鳴を上げた。見ると、半ズボンから伸びた左足首の外側がざっくり切れて血が流れていた。
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タイチが恐る恐る痛みを感じた部位を見下ろすと、そこには傷も血の跡もなかった。硝子の破片のなかでざくざく音を立てながら足踏みをしてもかすり傷ひとつつかないし、ぜんぜん痛くないことを確かめたタイチは
「そうだ、お母さんを捜さなきゃ」
とにわかに活気づいた。
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