探偵は思い出のなかに

春泥

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新米探偵の初仕事

4 捜索を開始する

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 捜索に必要な聞き込みを済ませたあと、二階の寝室へと案内された。
 ベッドに横たわる女性は、どこかあどけなさの残る大きな瞳で虚空を見つめていた。腕からは点滴のチューブがのびている。痩せて口の周りに深い皺が刻まれていたが、写真の女性であることはすぐにわかった。失踪人こと、ヤマネユキエさん。子どもたちの母親だ。

「ツトムの葬式を終えてからも、ずっとふさぎこんでいました。しばらくしてから、ベッドからなかなか起き上がれないようになり、今ではもうずっとこんな感じです。呼びかけても反応がない。医者の話では、いずれ自発呼吸さえしなくなり、衰弱してそのまま……」

 声を詰まらせた父親は「ユキエのことをよろしくお願いします」と肩を震わせながら深々と頭を下げると部屋を出て行った。
 閉ざされたドアに向かって一礼してから、ぼくはベッドの女性に向き直った。捕獲網を両手で掲げ、女性の頭上で振りまわすために最適なポーズがとれるよう、細かく足の開き具合、腕の高さ、網のヘッドの位置などを調節した。
 そして目を閉じて、深く息を吸い込んだ。

 * * *

 失踪者は、それほど自由自在に自らの記憶の中を移動できるわけではない。だから、ユキエさんを見つける一番手っ取り早い方法は、子供を失った時点の一歩手前、そこで待つことだ。

 だがぼくは彼女を知りたいと思う。どういう人間で、どうやって生きてきたのか。

 十分に訓練を積んだキャッチャーならば、それほど時間はかからない。超高速の早送りで、彼女が生まれてからの日々を追っていく。
 幼稚園、小学校、中学、高校、大学、就職、結婚、一人目の出産、二人目、三人目、幸福な生活が続いていた。それを揺るがせた――いや、粉々に破壊したのが、半年前の、あの日。
 そこに到達すると、彼女自身も粉々になってに戻るのだろう。折り返し地点だ。
 そうして何度も、何度も繰り返すのだ。ふりだしがどこなのかは、ぼくにはわからない。それは多分、それほど重要ではない。夫と初めて出会ったところかもしれないし、末っ子が生まれたところからなのかも。ふりだしに戻った彼女は、またあの日に向かっていく。末の子を失ったあの日に。彼女は自分の思い出のなかに、自ら望んで囚われている。
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