なぜだかそこに猫がいた:短編集

春泥

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第四十一話 猫の曰く

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 生後一ヶ月の赤ちゃん、居間の座布団の上にあおむけに寝かされている。あうあうと元気におしゃべりしながら、通りかかった猫の尻尾を、思い切りぐい、とひっぱる。

 猫、驚いて、「ミャウ」と一声、逃げていく。

 生後三ヶ月の赤ちゃん、マットからはみ出して寝ている。えいえいえいと、元気よくじたばたすると、どんどん上にずれていくのだ。
 猫が通りかかり、寝返りを打った赤ちゃん、ふかふかの背中をむんずとつかみ、毛皮を思い切り引っ張る。

 猫、驚いて「ミャウ」と一声、逃げていく。

 あうあうあーあーと赤ちゃん。ごきげん。

 生後六ヶ月の赤ちゃん、あぐらをかいて座っている。両手に持ったおもちゃを投げつけて、猫に命中。

 猫、驚いて、かかかかかっ! と毛玉を吐くような音を発し、逃げていく。

 近く一歳の誕生日を迎える赤ちゃん、がしがしハイハイをする。どしんどしんと手足を動かし、背筋をピンと立てて座っている猫に迫る。

「アーーー!」

 尻尾でばしばし顔を叩かれてもごきげん赤ちゃん、肉付きのよい手でむんずと尻尾を掴み、まっすぐ口に。

 猫驚いて、「シャー―!」と一声、逃げようとするが、赤ちゃん、なかなかに力が強く、尻尾を握りしめたまま離さない。

 猫、必殺のパンチを繰り出す。だがそれは、普段の何分の一かの力に手加減された、へろっへろの猫パンチだ。

 額にやわな一撃をくらった赤ちゃん、驚いて、尻尾を離し、けたたましい声で泣き始める。

 全部見ていたお母さん、「あらあら、悪いネコチャンねえ」と優しく赤ちゃんに言う。赤ちゃん、泣きながらお母さんに両手を差し出すが、抱き上げられた時にはもう涙は止まっている。


 猫、お母さんの脛の辺りに頭突きをくらわせ、体をすり寄せて曰く

「ニャー」

 お母さん、目をしばしばし始めた赤ちゃんに子守唄を口ずさみながら、猫のお尻をぽんぽんする。
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