なぜだかそこに猫がいた:短編集

春泥

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第三十八話 スーパーヒーロー

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 ある日神様が現れて、
「お前、ヒーローになりたくないか」
 と言う。
「いえ、タイツは嫌いなので」
 と断ると
「まあそう言わずに。今ならこの超かっこいいソードもつけるよ」
 と僕の腕を掴む。
「あの……今時ソード・ファイトって。僕、サムライだのニンジャだの興味ないですし。まだ超能力とか科学兵器とかの方が、手っ取り早くていいんじゃないですか」
「男の子はみんな刀を振り回すのが好きなんだけどなあ」
 神様は頭をかきながら
「では、このいかしたボディスーツをあげよう。最先端の科学技術を駆使した地球上で最強の金属で君の体は完璧に守られる上に、マシンガンや長距離ミサイルなど破壊力の高い武器を搭載。ジェットエンジンで空を飛ぶこともできるよ。これで思う存分悪人をぼこぼこにしたまえ」
「いやあの……僕、そもそも暴力が苦手で」
「まいったな、君には平和のために戦おうっていう使命感や意気込みはないの?」
「一応ありますけど、たちまち相手の戦意を喪失させる、におい爆弾とかないんですか」
「あるよ、あるけど、鼻がもげそうなくらい臭いよ? 着ている物に臭いが染みつくから、お母さん、激怒すると思うけどいいの?」
「いいですよ、それで世界平和が保たれるなら、我慢します」
「それじゃあ、悪人の戦意を喪失させた後に首をはねるための日本刀もつけてあげようか」
「日本刀も結構ですってば。戦意を失った人の首を、なんではねるんですか」
「だって、男の子はみんな刀が好きじゃない。戦いたいじゃない、愛する人のために」
「僕は好きじゃありません。戦意を失った人の首をはねるって、そっちの方がよっぽど悪党でしょう」
「死闘の末にやっと倒した、と思ったら『くっくっくっ、そいつは我らの中では最弱』とか言われてみたくない?」
「面倒くさいし、くどいですよ。死闘の末に倒したら、それで終わりがいいです。ていうか、僕は死闘なんてしたくないので、相手の戦意を失わせるにおい爆弾だけください」

 最近の若い者は、とブツブツ言う神様を無視し、僕はその日から正義の味方になった。だけど、皆さんが僕の活躍について耳にすることはないだろう。僕、目立つのは好きじゃないんで。

 ちなみに、におい爆弾の威力は確かにすさまじくて、他の衣類と分けて最低三回は洗濯しないと服に染みついた臭いが落ちないんだけど、うちはいわゆる母子家庭ってやつで、お母さんは朝早くから遅くまで仕事仕事仕事、洗濯は僕の役目なんだ。だから、世界の平和も家庭の平和も保たれているから安心してね。
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