なぜだかそこに猫がいた:短編集

春泥

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第三十五話 世の中がろくでもないからずっと猫の動画を見ている

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 仕事が終わって家に帰ると、もう何もやる気が起きない。コンビニで買ってきた弁当を食べ、かろうじてシャワーを浴び、ベッドに倒れ込んだあとは、ひたすらかわいい猫の動画を見る。

 動物とは縁のない人生だった。

 幼いころ、祖父の家には犬がいて、夏休みに遊びに行くと散歩に連れて行くのが楽しみだったが、その犬が死んでしまうと、二度と犬を飼うことはなかった。
 実家はマンションで動物が禁止だった。そして今、一人暮らししているワンルームマンションも。

 だから投稿動画を見ている。黒猫かわいい。三毛かわいい。野良かわいい。毛足が長いのはやや苦手だが、それでもかわいい。潰れた顔がかわいい。しゅっとした顔がかわいい。丸顔も。短いしっぽ、長いしっぽ、どちらもかわいい。子猫、子猫、子猫、子猫……いいなあ。自分もペット可のマンションに移ろうかな。

 どうせ結婚も子を持つのも無理なんだし。

 だったらせめて、猫を伴侶に生きることぐらい許されてもいいだろう。お金がないから、ペットショップの高い子は無理。保護猫がいい。保護猫を救い、保護猫に救われる。ウィンウィン。

 気分が高揚してきた。
 自分で撮った動画を見始める。あちこち貧乏一人旅した際に撮った、地元の猫が塀の上を歩いたり、狭い道の真ん中で丸まって寝ていたりする動画。人懐っこく向こうからすり寄って来てくれる場合もあるので、そういう時は片手でスマホを構え、もう片方の手で頭や背中を撫でた。その時の毛皮の感触、小さい頭、グルグル鳴る喉、太い尻尾の感触などが蘇ってくる。

 ふふ、カメラ目線。

 ニャーと鳴いてもっとなでろと要求してくる。この子にまた会いたいなあ。

 しかし次の動画は、まったく楽しくないものだった。頭から血を流し、ガラス玉みたいな瞳には蠅が停まっているが、動かない男。

 ああ、そうだった、忘れてた。

 いつ発覚するかとびくびくしながら、猫なんて飼えない。途中放棄になったら、かわいそうだもの。
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