なぜだかそこに猫がいた:短編集

春泥

文字の大きさ
上 下
21 / 41

第二十二話 雪だるま注意報

しおりを挟む
 それでは、天気予報です。

 本日は西高東低の気圧配置で強い寒気が流れ込み、日中は曇りですが、夕方から雪になり、時々雪だるまが降りそうです。特に花の宮エリアでは、突発的な集中豪だるまが予想されます。ご注意ください。

* * * * * *

「いやねえ、まったく。これも気候変動のせいかしら」とマユミはキッチンの窓から外を覗いた。冬の日は短く、既に夜の気配が漂っている。

 狭い庭には、三日前に降った雪だるまが潰れひしゃげて積みあげてあった。夫と息子による「だるますかし」の重労働の跡がまだ融けずに残っているのに、今度は集中豪だるまだという。

 息子には夕方から天候が崩れるらしいから早く帰るように言ってあった。今日は部活もないし、もうじき帰ってくるはずだ。問題は夫だが――

 スマホがぶーんと震え、メッセージが届いたことを知らせた。夫からだった。

「今日は夕方から豪だるまだそうだから、会社の近くのホテルに泊まります。そっちは大丈夫?」

「シゲルはじきに帰ってくるはず。今日はもう外には出ません。あなたも気をつけて」

 メッセージを返信して、マユミは時計を見た。十六時に近い。外が暗くなるにつれ、気温がぐんぐん下がり、灰色の空から雪が舞い始めていた。夕飯の支度を始めるためにエプロンの紐を後ろ手で縛りながら、もう少し待って帰って来なかったらシゲルに電話をかけようと思った。

 過保護だ、と夫に笑われるかもしれないが、実際に空から降って来た雪だるまに押し潰されて人が亡くなる不幸な事故は、毎年必ず起きる。つい最近も、雪が降ってきたことに興奮して自宅から走り出た幼い子供が雪だるまの直撃を受けて……という痛ましいニュースがあった。用心するに越したことはないのだ。

 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。そういえば、近頃は色々物騒なので玄関に鍵をかけていたことを思いだし、マユミは玄関へ急いだ。

「心配してたのよ、シゲル。一体何を」

 ロックとチェーンを外し、ドアを開けたマユミは、短い悲鳴を上げた。

「おい、声を出すな。命が惜しかったらな」

 腕の代わりにシャベルや箒を生やし、赤や青のバケツを頭に被った雪だるま達が、無表情な黒い目をマユミに向けて立っていた。

 集中豪だるまならぬ、ゲリラだるまだった。


************************
【だるますかし】車路や歩道などに降り積もり、人々の日常生活を脅かす雪だるまを除去すること。豪だるま地帯では、屋根に積もった大量の雪だるまを除去する「だるま落とし」も必須である。そのまま放置していると、だるまの重みで家が潰れることがある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

小説練習帖 七月

犬束
現代文学
 ぐるぐる考えたけれども、具体的な物語が思いつかないので、焦っております。  人物造形もあやふややし。  だけど、始めなければ、『否応なしに』。

処理中です...