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第二十一話 猫の有効活用法①
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目の前に怒鳴り散らしている上司/クレイマー/伴侶/恋人/親 etc. がいる。醜く歪んだ顔、大きな声、汚い言葉、もう耐えられない。そんな時にイメージしましょう。
イメージ:
薄く開いた扉から、ひょっこり顔を覗かせたのは、子猫である。おぼつかない足取りでよちよち中に入って来たと思ったら、もう一匹、こちらは飛び跳ねるようにして、駆け寄って来る。
さらにもう一匹、また一匹、白黒抹茶小豆コーヒー……そんな感じで、色とりどりの子猫が、次々と部屋に入って来る。
最初の一匹があなたに到達する。もはや、怒鳴られている内容は頭に少しも入って来ない。スーツのズボンに爪をたて(子猫といってもなかなかどうして、痛い)、えっちらおっちらと登って来る。
にゃー
あらあらあら。
「おい、聞いてるのか」
聞いてませんよ、そんなこと。だって猫が。つぶらなおめめの子猫が、わしわしがしがし、どしどしよじ登って来るのだ。小さな爪でもかなり痛いのだが、あなたの心は多幸感で満たされる。
今や先頭の猫はあなたの白いシャツにまで達し、爪を立て穴をあけているし、あとからあとから登って来る子猫たちでズボンは鈴なりだ。
にゃー
みゃー
にぃー
きしゃー
あなたはそっと、みぞおちの辺りに爪を立てている茶虎を片手で包み込む。ふわふわの毛皮越しに体温がしっとり伝わって来て、あなたは思わず「ああ」と吐息をもらす。指をがじがじと噛まれ手の甲にも爪を立てられているので、苦痛と快楽がないまぜになったような感じに、悩ましく。
目の前の醜い顔の人物はまだ怒鳴っているのだが、音は聞こえず、金魚のように口をパクパクさせているだけだ。見ていて楽しいものではないので、あなたは下に、子猫たちの方へ目を向ける。下半身はもう子猫でびっしり埋まっており、スーツの柄すら見えない状態。それでもまだ、向こうのドアから子猫が次から次へとやってきて、あなたにしがみつき、登る。
「あっ」
背中側から這い上がって首まで達した子猫が、首筋に噛みついたようだ。あなたは鋭い痛みに驚きの声をあげるが、全身に鈴なりになった子猫たちに爪を立てられているので、すぐに気にならなくなる。
耳、頭、そして唇や鼻にも、容赦なく爪を立てられ、齧られる。ぬるぬるとした感触が全身を伝うが、あなたの目は既に子猫たちによって塞がれている。にーにーきゃーきゃーと大変な騒ぎだが、それは決して耳障りな音ではない。
信じられないほどの子猫たちにぶら下がられたあなたは、さしずめ子猫タワーといったところ。今や子猫は幾重にも重なりあい、押し合いへし合いしながら、登って来る。あなたは重さによろめいて、叫び声をあげる。それは自分の心配というより、倒れた己の体が子猫を下敷きにしやしないかという懸念から、彼等に対して発した警告であった。
しかし、それは杞憂だった。
大きく開いた口の中にも子猫が入り込み、それだけはちょっとなあと口の中がもさもさになる感触に顔をしかめながら倒れた体が床に到達したときには、あなたという物体は、子猫たちに齧られて、ほとんど消失していたからだ。
子猫の塔が崩れて皆散り散りに逃げて行ったあとに残るは、僅かながらの白い骨。
醜い顔で怒鳴り続ける人物は、そんなささいなことは全く意に介さないといった様子で、まだ怒り続けている。
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薄く開いた扉から、ひょっこり顔を覗かせたのは、子猫である。おぼつかない足取りでよちよち中に入って来たと思ったら、もう一匹、こちらは飛び跳ねるようにして、駆け寄って来る。
さらにもう一匹、また一匹、白黒抹茶小豆コーヒー……そんな感じで、色とりどりの子猫が、次々と部屋に入って来る。
最初の一匹があなたに到達する。もはや、怒鳴られている内容は頭に少しも入って来ない。スーツのズボンに爪をたて(子猫といってもなかなかどうして、痛い)、えっちらおっちらと登って来る。
にゃー
あらあらあら。
「おい、聞いてるのか」
聞いてませんよ、そんなこと。だって猫が。つぶらなおめめの子猫が、わしわしがしがし、どしどしよじ登って来るのだ。小さな爪でもかなり痛いのだが、あなたの心は多幸感で満たされる。
今や先頭の猫はあなたの白いシャツにまで達し、爪を立て穴をあけているし、あとからあとから登って来る子猫たちでズボンは鈴なりだ。
にゃー
みゃー
にぃー
きしゃー
あなたはそっと、みぞおちの辺りに爪を立てている茶虎を片手で包み込む。ふわふわの毛皮越しに体温がしっとり伝わって来て、あなたは思わず「ああ」と吐息をもらす。指をがじがじと噛まれ手の甲にも爪を立てられているので、苦痛と快楽がないまぜになったような感じに、悩ましく。
目の前の醜い顔の人物はまだ怒鳴っているのだが、音は聞こえず、金魚のように口をパクパクさせているだけだ。見ていて楽しいものではないので、あなたは下に、子猫たちの方へ目を向ける。下半身はもう子猫でびっしり埋まっており、スーツの柄すら見えない状態。それでもまだ、向こうのドアから子猫が次から次へとやってきて、あなたにしがみつき、登る。
「あっ」
背中側から這い上がって首まで達した子猫が、首筋に噛みついたようだ。あなたは鋭い痛みに驚きの声をあげるが、全身に鈴なりになった子猫たちに爪を立てられているので、すぐに気にならなくなる。
耳、頭、そして唇や鼻にも、容赦なく爪を立てられ、齧られる。ぬるぬるとした感触が全身を伝うが、あなたの目は既に子猫たちによって塞がれている。にーにーきゃーきゃーと大変な騒ぎだが、それは決して耳障りな音ではない。
信じられないほどの子猫たちにぶら下がられたあなたは、さしずめ子猫タワーといったところ。今や子猫は幾重にも重なりあい、押し合いへし合いしながら、登って来る。あなたは重さによろめいて、叫び声をあげる。それは自分の心配というより、倒れた己の体が子猫を下敷きにしやしないかという懸念から、彼等に対して発した警告であった。
しかし、それは杞憂だった。
大きく開いた口の中にも子猫が入り込み、それだけはちょっとなあと口の中がもさもさになる感触に顔をしかめながら倒れた体が床に到達したときには、あなたという物体は、子猫たちに齧られて、ほとんど消失していたからだ。
子猫の塔が崩れて皆散り散りに逃げて行ったあとに残るは、僅かながらの白い骨。
醜い顔で怒鳴り続ける人物は、そんなささいなことは全く意に介さないといった様子で、まだ怒り続けている。
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