なぜだかそこに猫がいた：短編集

第十一話 モンスターの側の人間

　その映画はとても悲しかったので、カオルは沈んだ顔をして映画館を出た。

　頭のおかしい博士が死体のパーツを寄せ集めて造ったモンスター。醜くて力が強いため、馬鹿にされ忌み嫌われる化物。カオルはモンスター映画を見ると、必ずモンスターの孤独に共感し、同情してしまう。カオルもどちらかといえば醜い部類に属し、人から笑われたり悪口を言われたりするからだ。

　私もあのモンスターと同じ。

　それがカオルを一層悲しい気持ちにさせる。今日の映画でとても残念だったのは、最前列に陣取っていた若い子達――多分中学生――が、モンスターが村人からいわれのない迫害を受けるシーンでゲラゲラ笑っていたことだ。

　あの子達は、私を笑いものにする意地悪な人達と同じ。

　カオルはそう思って泣きたくなった。世の中の人間を「モンスターの側」と「モンスターを苛める側」に分けると、自分は必ず「モンスターの側」に属する。それがカオルには悲しかった。

　バスが来たので乗り込んでお金を払うと、初老の運転手がアクリルガラス越しに

「大丈夫？」

　と訊いてきた。今にも泣き出しそうな情けない顔をしていたことをカオルは知る。運転手は首を傾げて心配そうにカオルを見ている。
　大丈夫です、ありがとう。と口の中で呟いて、慌てて笑顔を作り、空いている座席に向かった。座って窓の外を眺めた時には、まだ笑顔が顔に貼りついていた。