怪奇幻想恐怖短編集

春泥

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赤い実

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 日傘の下、残暑にあえぎながら歩いていると、歩道に何か落ちている。
 照り返しに目を細めながら見る。アスファルトの上に横たわるそれは、赤色が鮮やかで、街路樹から落下した木の実か何かに見えた。
 しかし、こんな実をつける木をみたことがない。この道はカフェに行く途中でよく通るのだ。

 それは細長かった。

 小さなつぶつぶが縦に並んでいるから、乱暴に割られたザクロの欠片かと思いながら近づいていく。
 いや、ザクロにしては赤い実のつぶが大きすぎるようで。しかし宝石のような光沢ある質感がやはり似ている。
 形状的にトウモなんかも彷彿とさせる。もっと大きな全体から一部だけ乱暴に毟り取られたみたいな痛々しい外観で、酷暑のなかじりじりと焼かれている。

 外国産の果物だろうか。

 そんなことを考えながら、通り過ぎようとしたとき、突然それの正体がわかった。ソケットに一列に並ぶ宝石のような赤い実は、すべて人間の臼歯だった。
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