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第1話「出会い」

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『僕たち18歳の「童貞少年ズ。バイトで美人バツイチのペットをやっています。』

第1話「出会い」

 門真駅近くのショットバー「パラオ」は、ダイビング好きの店長がダイバー憧れの聖地のひとつであるパラオ共和国にちなんでつけた名前で、壁に張られた美しい海底のサンゴ礁や色とりどりの南洋魚のパネル写真に、海の底をイメージした青基調の「揺らぎ照明」が店内の雰囲気をくゆらし、世界各地のダイビングのDVDが常時かかっているため、ダイバーやサーファー等、マリンスポーツ好きな顧客が多い店である。

 金曜日、午前2時、「パラオ」のカウンターの中に立つアルバイトの拓海たくみは、そんな海にあこがれる地元門真工科高校の3年生。父親はサーファー、母親はダイバーという海好きのふたりの間に生まれた、拓海は当たり前のように、名前に「海」の字を入れられたという。
 拓海が生まれた2005年の男子の名前ランキングでは、5位の入りシェアは0.43%とというので、小学校のころから、学年に必ず一人は同じ名前の同級生がいた。名前に負けないように、2歳から地元のキッズスポーツのスイミングクラブに通い、中学生の時には、市の大会では、入賞の常連だった。

 個人メドレーもこなす拓海の身体は、「バタフライ」で鍛え上げられた、いわゆる「逆三角形」の上半身に、血管が浮き出るほど絞り込まれた腕に脚、夏場の高校での水泳部での練習で、しっかりと小麦色に日焼けしている。
 身長182センチ、体重54キロの恵まれた肉体フィジカルに、よく「沖縄出身?」と聞かれるほど顔の彫りが深く、すっと通った鼻すじに大き目な二重の瞳に長いまつげは、街で何度もタレントやホストのスカウトに遭う、いわゆる「イケメン」である。

 「拓海君、その顔にその体やったら、よおモテるやろ!「アレ」はもう「経験済み」か?いや拓海君くらいイケメンやったら、「しまくり」か?」と店の客からよく冷やかされるが、門真工科高校は女子が15人程度しか在籍しないうえ、そのほとんどが、人気のあるサッカー部やバスケ部に彼氏がいるために彼女ができたことは無い。
 水泳部は、「男の園」と化し、女子マネージャーすらいない環境で、高校生活を過ごしている。

 「いやー、女の子に縁がなくって、バリバリの童貞ですよ。中学までは、「水泳命」のアスリート志向だったですし、最近は、色気づいてきたのに高校はほとんど女の子いないですからねぇ…。しっかりバイトして、今年こそは、PADIのCカード(ダイビングの免許)をAOWまでは取って、海でかわいい女の子との出会いを狙ってるんですけど…、まだ、免許代もたまってない状況なんで、先は遠いですわ!」
と自虐的に笑った。

 午前4時を過ぎ、店内はカウンターに突っ伏して眠りこける女性客を残し、店長は常連客と別の店に飲みに行くことになったようで、
「拓海、最後の客、頼むわな。めちゃくちゃ飲んでたから、すぐには起きへんやろ。悪戯したりしたらあかんぞ。あと、初顔の客やから会計はしっかりとっとけよ。戸締りした後の、鍵はいつものところに置いといてくれたらええからな。じゃあ、もう戻れへんから5時まで頼むわな。」
と言い、店に拓海と女を残して出て行った。

 「あー、あと小一時間か…。先に洗いもの済ませておくか…?確か、この客、3時くらいに寝始めたと思うから、90分も寝たら、起こせるやろ。」
と、シンクに立ち、店内でかかっているDVDのサンゴ礁に憧れながら、洗い物を済ませ、空き瓶を数え明日の発注票に記入した。(さあ、4時半や。そろそろ起こさなあかんな。いきなり肩ゆすったりしたら、「セクハラや」って言われる可能性があるから、徐々に音が大きくなるスマホのアラームで起こすんやったよな…。)寝ぼけて、カウンターから払い落とされないように、寝ている女性の頭の1メートル半横にスマホを置いた。女性の寝顔を覗き込んで、(すげえ、美人や…。なんかあったら…、いや、あるはずないわな。はいはい。)とアラームを鳴らし始めた。

 「ピピピピピピ」と徐々にアラーム音が上がっていく。
「んっ…、んんん、んにゃ?あれ、ここどこや…?あー、飲んでそのまま寝てしもたんか…?」
女がゆっくりと目を覚ました。顔を上げると、頬に分厚いコースターの跡がついている。(すごい美人やのに、あれはないよな。)
「ぷぷっ!」
思わず拓海が噴き出すと、女は不機嫌な顔で
「イケメン君、何、笑ってんねん!寝起きの女に対する優しさが足りへんぞ!笑う前に、「水」やろ!」
と呟き、 バッグから、スマホを出し、セルフモードで顔を確認すると「ぷぷっ!」と自分でも噴出した。
「ごめん、確かに笑えるわ!とりあえず、お水ちょうだい。」



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