ガチ恋オタクの厄介ちゃん

阿良々木与太

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誘われない

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 違和感に気付いたのは、通話に誘われなくなってから1週間ほど経ったときだった。夏休み中何度か誘われない日はあったけれど、これほど期間が空いたことはない。

 配信はいつも通り毎日行われている。ただ、配信が終わってからメッセージが届かない。ゲームにもログインしていないから、誰かほかの人と遊んでいるというわけでもなさそうだった。

 心の中がざわつく。ゲームに飽きたのか、それとも私とやることに飽きたのか、何もわからないのが不安だった。

 1週間前、もしかして彼に何かしてしまっただろうか。不愉快にさせるような発言をしてしまったかもしれない。最後に通話した時の会話を思い出す。でもどれだけ考えても普段通りの通話で、終わるときも彼はいつも通りだった。

 眠いしもう寝ようか、と言った彼の表情は、私にはわからない。けれど、何かを怒っているとは思えなかった。でも私は彼が怒った状態を知らないし、知らぬ間に不快にさせていたのかもしれない。

 通話に誘われなくなっただけで配信ではいつも通りだった。コメントも返してくれるし、ギフトにも喜んでくれる。むしろ配信での態度が変わっていないのが恐ろしかった。

 裏での会話がなかったことにされているような、そんな気がした。今までコメント欄に私しかいないようなときは、時折ゲームをしていた時のことを話してくれていたのに、それすら一切ない。

 やっぱり、私が何かをしてしまったのだろうか。そんな風に思いながら、ただ配信を見続ける。今すぐ彼を問い詰めたかった。けれどコメント欄にそんなことを書くわけにもいかず、表面上はいつも通りを装う。

 配信が終わってから、通話アプリを立ち上げた。画面は1週間前の通話終了の文字で止まっている。この1週間何度も見た画面だった。

 『なんで誘ってくれないの?』とか『私なんかした?』とか面倒くさい彼女みたいな文章を何度も打っては消す。問い詰めたいわけじゃないのに、と思いながら、上手な聞き方がわからないでいた。

 10分ほど考えて、『今日はゲームやんない?』と打ち込む。送信する手が震えた。まるで最初彼から通話に誘われたときのようだった。ポン、と軽やかな音が鳴り、私の送ったメッセージが画面に表示される。ついこの間までメッセージを送るのに緊張なんてしなかったはずが、今は心臓がばくばくと高鳴っていた。

 返信が来るまでの時間が永遠に感じる。もしかしたら返事なんて来ないかもしれない。スマホをぎゅっと握りしめる。怖くて画面が見れなかった。

 15分ほど経過して、スマホが鳴った。画面に表示されたのはらろあからのツイートの通知で、がっかりすると同時に悲しさが押し寄せる。配信終了のツイートもいつもは終わってすぐするくせに、なんで30分くらい何もつぶやかないんだ、とか、今スマホ見てるならメッセージ確認したはずなのにどうして返信をくれないの、とか。自分でも面倒くさい厄介オタクなのはわかっていた。

 感情を吐き出すようにスマホのキーボードを叩く。厄介ちゃんのアカウントは、支離滅裂なツイートがひたすらに並んでいた。一種の呪いのようだった。

 手近にあったクッションを握りしめる。爪が布に食い込んで、小さく破れる音がした。けれどそんなことはどうでもよかった。

 それからまた5分ほど待って、スマホが通知を知らせる。パッとすぐに画面を確認すれば、今度こそらろあからのメッセージだった。けれど、アプリを開いて落胆する。そこには、たった一言、『やんなーい』とだけ送られてきていた。

 勇気を振り絞って送った言葉を、たった5文字で跳ね返されている。確かに本当に言いたいことをひたすらにひねって、誤魔化したメッセージだった。けれどそれにしたって、もう少し何かあってもいいのではないか。

 配信が終わってから毎日何時間もゲームに付き合わせておいて、いらなくなったら連絡すらしなくなるなんていい身分だ。そんな態度でよくゲーム友達が欲しいなんて言えたな、と怨みを吐く。

 さっきまでらろあに嫌われたかもと嘆いていたくせに、彼からメッセージが返ってきた途端にこれだ。自分の変わり身の早さが気持ち悪かった。それでも、そんな自己嫌悪よりも彼への憎しみの方が勝る。

 推しに憎しみをぶつけるなんて、おかしいのはわかっている。紬あたりに知られたらもう見るな、なんて言われてしまいそうだ。

 でも、ただ単純に1人のことをなんの見返りもなく好きだって言い続けることなんてできない。らろあと一緒にゲームをやる時間がなければ、私の方が彼に飽きていたかもしれない。

 ひどく傲慢だと自分でも思う。でも、ただ一言、彼に必要だと言ってほしいだけだった。
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