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人生の中心
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愚痴を最後まで打ち込み、ツイートした所でらろあからメッセージが届く。てっきり花音の配信を見るのだと思っていた。いつも通り『やろ』の一言に、『いいよ』と返す。すぐに通話がかかってきて、イヤホンを耳に押し込んだ。
『やっほー、やろー』
「待って、パソコンつけるから」
スマホを片手に、パソコンの電源ボタンを入れる。いつもなら少し前に起動しておくけれど、今日は誘われないと思っていた。
『あれ、つけてなかったん?』
その一言で、らろあは最初から普段通り私とゲームをしようと思っていたのかも、と思った。いや、たまたま気が向いただけかもしれない。そんな風にぐるぐると考えながら、パソコンの起動音を聞く。
「……今日は、やんないかと思ってたから」
そうぼそりとつぶやけば、らろあはなんで?と笑った。
『やるよー、るるちゃんとやりたいし』
そんな一言で、嬉しくなってしまう単純な自分が嫌になる。きっとなんら特別な意味なんてない。むしろ、そんな特別な意味なんて込めないでいてほしかった。
「あ、ゲーム起動したよ」
なんて返せばいいかわからずに、何も聞いていない風を装う。りょーかい、と言うらろあからゲームの招待を受け取り、いつも通りコントローラーを握った。
てっきりこれからも毎日ゲームに誘われるものだと思っていたが、配信終わりにらろあからメッセージが届くのは2日に1回程度になった。
花音の配信でも見ているのか、それとも他の誰かと通話しているのか、私には把握するすべがない。それが不安だったけれど、テストとレポートに追われているうちにそんな不安は薄れた。むしろ誘われない日があるだけありがたかった。
夏休みが始まる頃に、また毎日誘われる日々が始まった。他にゲームをする人がいなくなったのか、花音の配信を見るのをやめたのかは知らないけれど、8月に入ってから彼が花音にリプライを送っているところを見ていない。
夏休みに入ったせいで、彼と際限なくだらだらとゲームをしてしまう。大体らろあの限界が来るのは朝の4時くらいで、そこから眠り、昼の12時くらいに起きる日々が続いた。夏休みに入る前、紬に昼夜逆転しないようにと釘を刺されたけれど、あっさり覆ってしまった。薄明るくなるカーテンの向こうを背に布団へ入るとき、彼女の言葉を思い出してほんの少し申し訳なくなる。
昼間は少しだけ短期のバイトをして、その給料のほとんどをらろあへのギフトに費やした。元々自分ではお金を使う先もなかったし、ギフトを投げれば喜ぶ単純な彼を見るのは楽しかった。
自分の人生が、あまりにもらろあを中心に回っている。その自覚はあったけれど、外の人間と関わらないから治らない。悪いとは思っていなかったけれど、良いことではないとわかっていた。
それでもやめられなかった。配信中に私のコメントばかりを並べるのも、配信が終わってから彼のゲームに何時間も付き合うのも、彼のSNSを端から端まで見ることも。私の人生の中心が彼になっているみたいに、私も少しくらい彼の人生に干渉できていると思っていた。
けれどそんな認識が間違いだったと気づいたのは、夏休みが終わる少し前だった。
『やっほー、やろー』
「待って、パソコンつけるから」
スマホを片手に、パソコンの電源ボタンを入れる。いつもなら少し前に起動しておくけれど、今日は誘われないと思っていた。
『あれ、つけてなかったん?』
その一言で、らろあは最初から普段通り私とゲームをしようと思っていたのかも、と思った。いや、たまたま気が向いただけかもしれない。そんな風にぐるぐると考えながら、パソコンの起動音を聞く。
「……今日は、やんないかと思ってたから」
そうぼそりとつぶやけば、らろあはなんで?と笑った。
『やるよー、るるちゃんとやりたいし』
そんな一言で、嬉しくなってしまう単純な自分が嫌になる。きっとなんら特別な意味なんてない。むしろ、そんな特別な意味なんて込めないでいてほしかった。
「あ、ゲーム起動したよ」
なんて返せばいいかわからずに、何も聞いていない風を装う。りょーかい、と言うらろあからゲームの招待を受け取り、いつも通りコントローラーを握った。
てっきりこれからも毎日ゲームに誘われるものだと思っていたが、配信終わりにらろあからメッセージが届くのは2日に1回程度になった。
花音の配信でも見ているのか、それとも他の誰かと通話しているのか、私には把握するすべがない。それが不安だったけれど、テストとレポートに追われているうちにそんな不安は薄れた。むしろ誘われない日があるだけありがたかった。
夏休みが始まる頃に、また毎日誘われる日々が始まった。他にゲームをする人がいなくなったのか、花音の配信を見るのをやめたのかは知らないけれど、8月に入ってから彼が花音にリプライを送っているところを見ていない。
夏休みに入ったせいで、彼と際限なくだらだらとゲームをしてしまう。大体らろあの限界が来るのは朝の4時くらいで、そこから眠り、昼の12時くらいに起きる日々が続いた。夏休みに入る前、紬に昼夜逆転しないようにと釘を刺されたけれど、あっさり覆ってしまった。薄明るくなるカーテンの向こうを背に布団へ入るとき、彼女の言葉を思い出してほんの少し申し訳なくなる。
昼間は少しだけ短期のバイトをして、その給料のほとんどをらろあへのギフトに費やした。元々自分ではお金を使う先もなかったし、ギフトを投げれば喜ぶ単純な彼を見るのは楽しかった。
自分の人生が、あまりにもらろあを中心に回っている。その自覚はあったけれど、外の人間と関わらないから治らない。悪いとは思っていなかったけれど、良いことではないとわかっていた。
それでもやめられなかった。配信中に私のコメントばかりを並べるのも、配信が終わってから彼のゲームに何時間も付き合うのも、彼のSNSを端から端まで見ることも。私の人生の中心が彼になっているみたいに、私も少しくらい彼の人生に干渉できていると思っていた。
けれどそんな認識が間違いだったと気づいたのは、夏休みが終わる少し前だった。
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