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浮かれる
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その日は2人とも躍起になって、お互い朝から仕事と学校があるくせに3時までゲームに熱中してしまった。おかげである程度の操作や試合の流れはわかるようになったが、頭と目の奥がガンガンと痛い。どちらからともなく、もう寝ようかと言いだして、今日も気絶するように眠った。
疲労度で言えば昨日と大して変わらなかったけれど、目が覚めてもどんよりとした疲れはなかった。それどころか気分は清々しい。ハイになっているのだろうか。1限の授業のために早く家を出るのも苦痛じゃなかった。
朝食を口に入れながらSNSをざっくりチェックする。昨日の夜かららろあのツイートも、メッセージも入っていなかった。今日は仕事らしいが、きちんと起きられているだろうか。
そう思いながらスマホをいじっていたらもう8時を過ぎていて、人のことを気にしている場合ではないと最後の1口を押し込んだ。
余裕を持って家を出て電車に乗り込む。4時間くらいしか眠っていないのに、うつらうつらともしなかった。ポケットの中でスマホが震える。ぱっと手に取ると、らろあからのツイートだった。
『寝すぎた!!!』と一言書かれていて、思わず笑ってしまう。私はちゃんと起きれたよ、とリプライしかけてやめた。打ち込んだ言葉を消して、『仕事間に合うといいね』と送信する。返信はない、今頃バタバタ準備しているのだろう。
早く大学に着いて、昨日のことを茉優たちに話したい。2人からはそんなことで、と笑われるだろうか。自分でも単純だと思う。でも、好きな人から私だけしかいないなんて言われて舞い上がらない人間がどこにいるだろう。
鼻歌でも歌いだしそうだった。時間の進みがやけに遅く感じる。2人のいない1限の授業をやり過ごして、2限の教室に着いたとき、目に入った2人の後姿に思わず飛びついた。
「茉優、紬、おはよ!」
「渚ちゃんおはよー。元気だね?」
「もうスマホ落ちたって! 割れるじゃんか!」
私に驚いて手を滑らせた紬はキッとこちらを睨みつけている。悪いとは思うけれど、嬉しさで顔がへらへらしてしまって、丸めたファイルで頭を叩かれた。
「つかすごいご機嫌じゃん、どしたの?」
紬はもう気が済んだのか、机の下に落ちたスマホを拾いながらそんな風に聞く。私は2人の横に腰かけながら、聞いてくれる?と言った。
「なあに、もしかして昨日の配信者さんの話?」
茉優にそう聞かれ、首を大きく縦に振った。
「茉優たちが昨日言ってたでしょ、私以外にもこういうことしてる人いるんですかーって直接聞いたらって」
「えっ、聞いたの?」
スマホをいじっていた紬が驚いた顔をしてこちらを向く。私は黙ってうなずき、また口を開いた。
「そう、聞いたの。それでさ……私しかいないって言ってて」
そう言うと、茉優がわっと嬉しそうに歓声をあげる。自分で機嫌よく話し出したのに、なんだか恥ずかしくなってきた。
「えーっ、よかったじゃん! ほらやっぱ特別だったんだよ、紬ちゃん聞いたあ?」
そう言って紬に詰め寄る茉優を、紬ははいはいと窘めている。
「いいじゃん、たとえゲーム仲間でも特別って言ってもらえて」
紬はそう言って、にやにやした笑いを私に向けた。茉優も横でうんうんと頷いている。
「ほんとによかったねえ。この3人で恋バナとかできる日がくると思ってなかった」
茉優は両手で頬を挟みながらうっとりとどこかを眺めている。
「これ、恋バナなの?」
紬が冷静にそう言って私に目線を送るが、私も苦笑いで首をかしげることしかできない。恋バナというには、らろあと私の関係は遠すぎる。向こうは私の声しか知らないのだ。恋だなんて、一方的すぎる。
「恋バナでしょ、紬ちゃんがそういう話なさすぎるんだよ」
「私の話は今いいでしょ。……まあでも恋バナって言うなら、私は渚が心配だなー」
さっきまでとは違う紬の声音に、私も茉優も思わず彼女の顔を見た。
「えー、なんで?」
茉優が素直にそう尋ねる。紬は少し言い渋ってから、だって、と切り出した。
「そういうの、ガチ恋オタクってやつでしょ」
疲労度で言えば昨日と大して変わらなかったけれど、目が覚めてもどんよりとした疲れはなかった。それどころか気分は清々しい。ハイになっているのだろうか。1限の授業のために早く家を出るのも苦痛じゃなかった。
朝食を口に入れながらSNSをざっくりチェックする。昨日の夜かららろあのツイートも、メッセージも入っていなかった。今日は仕事らしいが、きちんと起きられているだろうか。
そう思いながらスマホをいじっていたらもう8時を過ぎていて、人のことを気にしている場合ではないと最後の1口を押し込んだ。
余裕を持って家を出て電車に乗り込む。4時間くらいしか眠っていないのに、うつらうつらともしなかった。ポケットの中でスマホが震える。ぱっと手に取ると、らろあからのツイートだった。
『寝すぎた!!!』と一言書かれていて、思わず笑ってしまう。私はちゃんと起きれたよ、とリプライしかけてやめた。打ち込んだ言葉を消して、『仕事間に合うといいね』と送信する。返信はない、今頃バタバタ準備しているのだろう。
早く大学に着いて、昨日のことを茉優たちに話したい。2人からはそんなことで、と笑われるだろうか。自分でも単純だと思う。でも、好きな人から私だけしかいないなんて言われて舞い上がらない人間がどこにいるだろう。
鼻歌でも歌いだしそうだった。時間の進みがやけに遅く感じる。2人のいない1限の授業をやり過ごして、2限の教室に着いたとき、目に入った2人の後姿に思わず飛びついた。
「茉優、紬、おはよ!」
「渚ちゃんおはよー。元気だね?」
「もうスマホ落ちたって! 割れるじゃんか!」
私に驚いて手を滑らせた紬はキッとこちらを睨みつけている。悪いとは思うけれど、嬉しさで顔がへらへらしてしまって、丸めたファイルで頭を叩かれた。
「つかすごいご機嫌じゃん、どしたの?」
紬はもう気が済んだのか、机の下に落ちたスマホを拾いながらそんな風に聞く。私は2人の横に腰かけながら、聞いてくれる?と言った。
「なあに、もしかして昨日の配信者さんの話?」
茉優にそう聞かれ、首を大きく縦に振った。
「茉優たちが昨日言ってたでしょ、私以外にもこういうことしてる人いるんですかーって直接聞いたらって」
「えっ、聞いたの?」
スマホをいじっていた紬が驚いた顔をしてこちらを向く。私は黙ってうなずき、また口を開いた。
「そう、聞いたの。それでさ……私しかいないって言ってて」
そう言うと、茉優がわっと嬉しそうに歓声をあげる。自分で機嫌よく話し出したのに、なんだか恥ずかしくなってきた。
「えーっ、よかったじゃん! ほらやっぱ特別だったんだよ、紬ちゃん聞いたあ?」
そう言って紬に詰め寄る茉優を、紬ははいはいと窘めている。
「いいじゃん、たとえゲーム仲間でも特別って言ってもらえて」
紬はそう言って、にやにやした笑いを私に向けた。茉優も横でうんうんと頷いている。
「ほんとによかったねえ。この3人で恋バナとかできる日がくると思ってなかった」
茉優は両手で頬を挟みながらうっとりとどこかを眺めている。
「これ、恋バナなの?」
紬が冷静にそう言って私に目線を送るが、私も苦笑いで首をかしげることしかできない。恋バナというには、らろあと私の関係は遠すぎる。向こうは私の声しか知らないのだ。恋だなんて、一方的すぎる。
「恋バナでしょ、紬ちゃんがそういう話なさすぎるんだよ」
「私の話は今いいでしょ。……まあでも恋バナって言うなら、私は渚が心配だなー」
さっきまでとは違う紬の声音に、私も茉優も思わず彼女の顔を見た。
「えー、なんで?」
茉優が素直にそう尋ねる。紬は少し言い渋ってから、だって、と切り出した。
「そういうの、ガチ恋オタクってやつでしょ」
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