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私だけ
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昨日あんなにらろあから直接教えてもらって、動画も見たのに相変わらずゲームの内容はよくわからなかった。ただ今まで全く理解していなかったアイテムの名前なんかがわかるようになり、それが少しだけ楽しい。
けれど経験者であるらろあの画面はせわしなく動き、勉強するしないの話ではなかった。こんなに食い入るようにゲーム画面の方を見たのは初めてだ。
配信が終わって、なんだかもはや当たり前のようにらろあからメッセージが届く。一昨日よりも返事はスムーズに打てたし、通話に出た瞬間の声も震えなかった。
『どう? ちょっとわかるようになった?』
らろあの言葉に、私は苦笑することしかできない。ちょっとだけね、と言うと、らろあは嬉しそうに笑う。
『よかったー、俺一緒にゲームやる人いないからさ、るるちゃんが一緒にやってくれると嬉しい』
そう言われて一瞬どきりとする。一緒にやる人がいないというのは、私みたいに誘っている人がいないということだろうか。それとも、いるけれどわざわざ彼と同じゲームをやろうとする物好きは私くらい、という話だろうか。
『そいえばるるちゃん、ゲーム入れたんだよね? 動きそう?』
考え込みかけていた頭がふっと現実に戻される。そういえばゲームをダウンロードしてそのままだった。スリープモードに入っていたパソコンをつけなおす。
「動くかなー、私のパソコンのスペックで動くかわかんないんだよね」
『大丈夫大丈夫、俺のもそんな新しいやつとかじゃないしなんだかんだ動くって!』
そんな他愛もない会話をしながらセットアップを進めていく。少し触ってみた感じ、私のパソコンでもなんとか動きそうだった。
らろあに教えられながら、恐る恐るゲームを動かす。配信で見ているのとは全く違った。彼みたいに早く動けないし、アイテムの拾い方もわからない。そんな私にイライラせず、らろあは丁寧に教えてくれる。
1時間も慣れないゲームをしていると、段々目が疲れてきた。1人称視点のゲームは酔うと聞いていたけれど、確かに頭がくらくらする。
「ごめん、ちょっと休憩していい?」
『いいよ、大丈夫?』
「うん、ちょっと休んだら平気になると思う……」
椅子をくるりと回し、画面に背を向けた。ゲームをしながらスマホを持てないので、イヤホンをしながら通話しているが、慣れなくて耳が痛い。右側だけ外して机に転がした。ぐっと背を伸ばすと背骨がぱきぱきと鳴る。
『無理させちゃってごめんね、るるちゃんゲームあんまやんないもんね』
左耳から聞こえるらろあの声は少ししゅんとしていた。私はまさかそんな風に気にされるとは思わず、慌てて否定する。
「いや、全然大丈夫! それにらろあとゲームできるの嬉しいし……」
そう言ってから、恥ずかしいことを言ってしまったと後悔した。彼と通話しているとそんなことばかりだ。しかしらろあは嬉しそうにほんと?と言っている。
「ほんとほんと、ほんとだけどちょっと恥ずかしいから忘れて」
『えー、忘れてあげない』
顔が赤くなっていくのを感じる。誤魔化すようにイヤホンをつけなおして、恥ずかしいついでに聞いてしまえ、と口を開いた。
「……らろあは、さ」
声が裏返りそうになる。彼はこっちの心臓が高鳴っているのも知らずに、んー、と軽い相槌を打っている。
「私以外にも、こんな感じで、その、ゲーム誘ったりとかしてんの?」
言ってしまった。心臓がはちきれそうだ。いっそ聞こえていなければいいのに。そう思ったのに、イヤホンの向こうでらろあは微かに笑っている。
『言ったじゃん、俺るるちゃん以外にこんな風にゲームしてくれる人いないんだってば』
その言葉は嘘ではなさそうだった。途端に心が浮ついて、笑いだしてしまいそうになる。なるだけ冷静を装ってそっか、と返したけれど、きっとバレてしまっているだろう。
今だったら彼のために何でもできそうだった。とはいえ、今できるのは彼のゲーム仲間になることくらいだ。
「おっけー、休憩終わり! もっかいやろ!」
『お、やる?』
昨日は彼の説明だけで疲れ果てていたゲームを、彼の一言でこんなやる気になるのだから不思議だった。
けれど経験者であるらろあの画面はせわしなく動き、勉強するしないの話ではなかった。こんなに食い入るようにゲーム画面の方を見たのは初めてだ。
配信が終わって、なんだかもはや当たり前のようにらろあからメッセージが届く。一昨日よりも返事はスムーズに打てたし、通話に出た瞬間の声も震えなかった。
『どう? ちょっとわかるようになった?』
らろあの言葉に、私は苦笑することしかできない。ちょっとだけね、と言うと、らろあは嬉しそうに笑う。
『よかったー、俺一緒にゲームやる人いないからさ、るるちゃんが一緒にやってくれると嬉しい』
そう言われて一瞬どきりとする。一緒にやる人がいないというのは、私みたいに誘っている人がいないということだろうか。それとも、いるけれどわざわざ彼と同じゲームをやろうとする物好きは私くらい、という話だろうか。
『そいえばるるちゃん、ゲーム入れたんだよね? 動きそう?』
考え込みかけていた頭がふっと現実に戻される。そういえばゲームをダウンロードしてそのままだった。スリープモードに入っていたパソコンをつけなおす。
「動くかなー、私のパソコンのスペックで動くかわかんないんだよね」
『大丈夫大丈夫、俺のもそんな新しいやつとかじゃないしなんだかんだ動くって!』
そんな他愛もない会話をしながらセットアップを進めていく。少し触ってみた感じ、私のパソコンでもなんとか動きそうだった。
らろあに教えられながら、恐る恐るゲームを動かす。配信で見ているのとは全く違った。彼みたいに早く動けないし、アイテムの拾い方もわからない。そんな私にイライラせず、らろあは丁寧に教えてくれる。
1時間も慣れないゲームをしていると、段々目が疲れてきた。1人称視点のゲームは酔うと聞いていたけれど、確かに頭がくらくらする。
「ごめん、ちょっと休憩していい?」
『いいよ、大丈夫?』
「うん、ちょっと休んだら平気になると思う……」
椅子をくるりと回し、画面に背を向けた。ゲームをしながらスマホを持てないので、イヤホンをしながら通話しているが、慣れなくて耳が痛い。右側だけ外して机に転がした。ぐっと背を伸ばすと背骨がぱきぱきと鳴る。
『無理させちゃってごめんね、るるちゃんゲームあんまやんないもんね』
左耳から聞こえるらろあの声は少ししゅんとしていた。私はまさかそんな風に気にされるとは思わず、慌てて否定する。
「いや、全然大丈夫! それにらろあとゲームできるの嬉しいし……」
そう言ってから、恥ずかしいことを言ってしまったと後悔した。彼と通話しているとそんなことばかりだ。しかしらろあは嬉しそうにほんと?と言っている。
「ほんとほんと、ほんとだけどちょっと恥ずかしいから忘れて」
『えー、忘れてあげない』
顔が赤くなっていくのを感じる。誤魔化すようにイヤホンをつけなおして、恥ずかしいついでに聞いてしまえ、と口を開いた。
「……らろあは、さ」
声が裏返りそうになる。彼はこっちの心臓が高鳴っているのも知らずに、んー、と軽い相槌を打っている。
「私以外にも、こんな感じで、その、ゲーム誘ったりとかしてんの?」
言ってしまった。心臓がはちきれそうだ。いっそ聞こえていなければいいのに。そう思ったのに、イヤホンの向こうでらろあは微かに笑っている。
『言ったじゃん、俺るるちゃん以外にこんな風にゲームしてくれる人いないんだってば』
その言葉は嘘ではなさそうだった。途端に心が浮ついて、笑いだしてしまいそうになる。なるだけ冷静を装ってそっか、と返したけれど、きっとバレてしまっているだろう。
今だったら彼のために何でもできそうだった。とはいえ、今できるのは彼のゲーム仲間になることくらいだ。
「おっけー、休憩終わり! もっかいやろ!」
『お、やる?』
昨日は彼の説明だけで疲れ果てていたゲームを、彼の一言でこんなやる気になるのだから不思議だった。
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