ガチ恋オタクの厄介ちゃん

阿良々木与太

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女子トーク

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 機嫌のよくなった彼のゲーム指南は午前2時まで続いた。らろあは明日休みらしく、うきうきと私にルールや立ち回りの説明をしている。しかし私は寝不足と翌日が1限からある焦燥感で、ほとんど頭に入っていなかった。

 2時半を回る少し前に、説明がひと段落したらしいらろあから、


『一気に説明しすぎたよね? ちょっとずつ覚えてくれればいいから!』


 と言われた。せめて1時間前に気付いてほしかったなと思いつつ、頑張るねと返答する。今日の通話はそこで終わった。らろあと話せた幸福感よりも疲労感の方が強く、終わった瞬間にベッドに倒れて眠り込んだ。

 ハッと目を覚まして8時を回っていたときは心臓が飛び出すかと思った。アラームをかけずに眠っていたわりには早く起きれたかもしれない、なんて悠長なことを考えながらバタバタと身支度をする。

 リュックを引っ掴んで家を飛び出し、電車に飛び乗ってようやくスマホを確認する。通話アプリにはらろあからのおやすみ、というメッセージが届いていた。通話が終わった直後に届いていたのに、これを見る余裕すらなく眠ってしまっていたらしい。

 いつも1限の授業は眠くてほとんど頭に入らないけれど、昨日のらろあのゲーム講座よりはわかりやすいと思ってしまった。彼が教え慣れていないのも、私がゲームにほとんど触れたことがないのもあるだろうけど、先生の授業の方がよっぽどわかりやすい。今期で1番真面目に授業を聞いていると思う。

 教室を変えて2限の授業を受け、それからまた移動して昼食を食べながららろあに勧められた動画を見た。昨日彼との通話中に言われた単語が何度か出てくるけれど、やっぱりいまいち理解しきれない。

 そもそもこのゲームをまだインストールすらしていないのだ。やっていないゲームのやり方なんてわかるわけがない。

 そう思い、今の自分のPCにこのゲームをプレイするだけのスペックがあるのか調べていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。


「何、ゲーム? 渚ゲームやるっけ?」


 後ろにいたのは紬と茉優だった。2人はサンドイッチを頬張る私の横に腰かける。机の上に散らかした荷物たちをできるだけ端に寄せた。


「いや……ちょっとね」

「あ、わかった。あの配信者さんの影響でしょ?」

 
 理由を知られるのが恥ずかしくて誤魔化そうとしていた私は、茉優に図星をつかれて変な声が出た。返す言葉のない私に、茉優はによによとした笑みを向けている。


「へえ、何? 一緒にゲームでもすんの?」


 教科書の準備のためにごそごそとリュックをあさっていた紬が何気なくそう言う。いよいよ何も言えなくなった私に目ざとく反応を示したのは茉優だった。


「えっ、一緒にゲームするの!? あの配信者さんと!?」


「や、そう……だけど、そうなんだけど! 茉優ちょっと声大きい」


 茉優は口をネイルでキラキラした手で押さえ、ごめんねと言うように肩をすくめる。私と茉優のテンションに、紬は首をかしげていた。


「なんか、視聴者参加型とかそういうやつなんじゃないの?」


 紬が意外と詳しいのに驚きつつ、否定しても面倒なことになりそうだな、と頷く。


「絶対違うじゃん! そういうのじゃないじゃん! そんなに人気なさそうだったもん!」


 さっき声が大きいと注意したばかりの茉優は、声のボリュームがさっきより増している。何人かの学生がこちらを振り返ってみていた。そもそも失礼だし、と何からつっこめばいいやらわからない状況になっていた。


「ちょっと、色々あって個人的に一緒にゲームさせてもらうことになっただけだから、本当に何もないから……」


 恥ずかしいやらなんやらで、最後はほとんど言葉にならなかった。何もないと言っているのに、茉優はにやにやしながらこちらを見ている。


「ふーん、何もないのに個人的に一緒にゲームするんだあ。配信者とそのファンがー?」


「……この恋愛脳」


 直接言われなくても茉優の言いたがっていることがわかりそう言えば、彼女は誉め言葉だと笑った。


「本当に何もないの! この話終わり!」


 私がそう言ったときに先生が入ってきて、会話が強制的に終了した。茉優はまだ言いたいことがあるようで不服そうな顔をしている。私は顔が熱いのをバレないように机に突っ伏したかったのに、紬にプリントを取りに行けと背中を叩かれた。
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