9 / 38
エラー
しおりを挟む
私以外誰もいない非公開アカウント。まっさらなタイムラインはなんだか新鮮だった。『あ』とだけ打ち込んでツイートをする。設定した真っ黒なアイコンの隣に、その一文字が表示された。
モヤモヤする気持ちを吐き出したくて作ったはいいものの、スマホからはまだらろあの配信の声が流れているし、その状態で愚痴をつぶやくのは憚られる。でも今あの配信に戻っても普段通りのコメントはできない。
少し迷ってから『嫌われたくない』と打ち込んでツイートした。なぜだかスッと頭が冷えていくのを感じる。SNSの画面を閉じて、配信へ戻った。らろあはこっちのそんな事情なんて全く知らずにへらへらと笑っている。
ほんの少しの後ろめたさはあったけれど、それ以上に吐き出せる場所ができたことへの安心感が大きかった。きっとサクラのコメントにも寛容になれるだろう。
一度吐き出した毒はなかなか止められないもので、あれから配信のたびにあのアカウントで愚痴をこぼすようになった。最初は配信が終わってからその日イラついたことを書きだしたりしていたけれど、次第に配信中にもツイートするようになった。後ろめたさはもうない。むしろイライラしてコメントで八つ当たりしてしまう方が怖かった。
愚痴に慣れると言葉遣いが荒くなってしまい、それを配信で出てしまわないかと不安だった。らろあに見られる場所と見られない場所で同時に言葉を打っていると混乱してくる。
そう思うならアカウントを消してしまえばいいのに、もう消すことなんてできない。ツイート数はリア垢を超えていた。
愚痴の内容は、最初はサクラへのものがほとんどだったけれど、らろあの対応に苛立ったこともツイートしている。最初は配信を思い返して不満だったことを布団の中で書きだしていたけれど、今やノータイムでツイートするようになっていた。
こんな人目につかないところで愚痴をこぼしてまで、どうして配信を見るのをやめられないのだろう。らろあが魅力的なだけならば、こんな風に彼への愚痴をこぼすこともないだろうに。
そう思いながら、SNSを開く。『お金もらったときが一番うれしそうでウケる』と打ち込んでツイートした。並んでいるアイコンは全部私のものだ。今までもこれからも変わらず。
スピーカーからはらろあの声が流れている。こんな風に愚痴をこぼす癖にギフトを送っているのは自分なのだから滑稽だ。名前の通り「厄介」である。こんな面倒で本人に絶対言えない行為をやめたいのにやめられない。
「なんか目疲れてきたなあ、今日は早めに終わろっかな」
さっきギフトをもらって頑張るとか言ってたくせに、と不満が一番に思い浮かぶ。でもそれは表に出さず、『もうちょっとやろうよー』なんてコメントを打った。どうせまた「厄介ちゃん」のアカウントを使うのに、配信は続けてほしいのか、なんて自分でもおかしいと思う。
らろあは悩んだようにえー、と言いながら煙草に手を伸ばした。
「これ吸ったら考えるわ」
彼は最近配信中に吸う本数が増えた。禁煙するとずっと言っているけれど、禁煙どころか減煙すらできていない。私はコメントで『ちょっと休憩しよ』と打ちながら、厄介ちゃんのアカウントで『一生禁煙しないなー』とツイートした。
ある種二重人格のようなものだった。らろあが好き。けれどらろあの配信でイライラしないために作ったアカウントには彼への愚痴が並んでいる。彼に好意的なリプライを送るアカウントがありながら、らろあにだけは絶対見せられないアカウントを作っている。
自分で始めたことなのに気が狂いそうだった。後ろめたさは減ったけれど、罪悪感は少しずつ募っている。けれどこうでもしないと身が持たない。サクラはあれから私と同じくらい毎日配信に現れた。
サクラがいなければいいのに。その言葉をそのままSNSで吐き出す。けれど『同じツイートがされています』とエラーが出て、何回目かわからないその言葉を削除した。
モヤモヤする気持ちを吐き出したくて作ったはいいものの、スマホからはまだらろあの配信の声が流れているし、その状態で愚痴をつぶやくのは憚られる。でも今あの配信に戻っても普段通りのコメントはできない。
少し迷ってから『嫌われたくない』と打ち込んでツイートした。なぜだかスッと頭が冷えていくのを感じる。SNSの画面を閉じて、配信へ戻った。らろあはこっちのそんな事情なんて全く知らずにへらへらと笑っている。
ほんの少しの後ろめたさはあったけれど、それ以上に吐き出せる場所ができたことへの安心感が大きかった。きっとサクラのコメントにも寛容になれるだろう。
一度吐き出した毒はなかなか止められないもので、あれから配信のたびにあのアカウントで愚痴をこぼすようになった。最初は配信が終わってからその日イラついたことを書きだしたりしていたけれど、次第に配信中にもツイートするようになった。後ろめたさはもうない。むしろイライラしてコメントで八つ当たりしてしまう方が怖かった。
愚痴に慣れると言葉遣いが荒くなってしまい、それを配信で出てしまわないかと不安だった。らろあに見られる場所と見られない場所で同時に言葉を打っていると混乱してくる。
そう思うならアカウントを消してしまえばいいのに、もう消すことなんてできない。ツイート数はリア垢を超えていた。
愚痴の内容は、最初はサクラへのものがほとんどだったけれど、らろあの対応に苛立ったこともツイートしている。最初は配信を思い返して不満だったことを布団の中で書きだしていたけれど、今やノータイムでツイートするようになっていた。
こんな人目につかないところで愚痴をこぼしてまで、どうして配信を見るのをやめられないのだろう。らろあが魅力的なだけならば、こんな風に彼への愚痴をこぼすこともないだろうに。
そう思いながら、SNSを開く。『お金もらったときが一番うれしそうでウケる』と打ち込んでツイートした。並んでいるアイコンは全部私のものだ。今までもこれからも変わらず。
スピーカーからはらろあの声が流れている。こんな風に愚痴をこぼす癖にギフトを送っているのは自分なのだから滑稽だ。名前の通り「厄介」である。こんな面倒で本人に絶対言えない行為をやめたいのにやめられない。
「なんか目疲れてきたなあ、今日は早めに終わろっかな」
さっきギフトをもらって頑張るとか言ってたくせに、と不満が一番に思い浮かぶ。でもそれは表に出さず、『もうちょっとやろうよー』なんてコメントを打った。どうせまた「厄介ちゃん」のアカウントを使うのに、配信は続けてほしいのか、なんて自分でもおかしいと思う。
らろあは悩んだようにえー、と言いながら煙草に手を伸ばした。
「これ吸ったら考えるわ」
彼は最近配信中に吸う本数が増えた。禁煙するとずっと言っているけれど、禁煙どころか減煙すらできていない。私はコメントで『ちょっと休憩しよ』と打ちながら、厄介ちゃんのアカウントで『一生禁煙しないなー』とツイートした。
ある種二重人格のようなものだった。らろあが好き。けれどらろあの配信でイライラしないために作ったアカウントには彼への愚痴が並んでいる。彼に好意的なリプライを送るアカウントがありながら、らろあにだけは絶対見せられないアカウントを作っている。
自分で始めたことなのに気が狂いそうだった。後ろめたさは減ったけれど、罪悪感は少しずつ募っている。けれどこうでもしないと身が持たない。サクラはあれから私と同じくらい毎日配信に現れた。
サクラがいなければいいのに。その言葉をそのままSNSで吐き出す。けれど『同じツイートがされています』とエラーが出て、何回目かわからないその言葉を削除した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
生きてたまるか
黒白さん
現代文学
20××年4月×日、人類は消え、世界は終わった。
滅びのその日に、東京の真ん中で、ただひとり生き残っていた僕がしたことは、デパートで高級食材を漁り、食べ続けただけ。それだけ。
好きなことをやりたい放題。誰にも怒られない。何をしてもいい。何もしなくてもいい。
初めて明日がちょっとだけ待ち遠しくなっていた。
でも、死にたい……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる