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出会い
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きっかけは、深夜2時に開いた配信サイトだった。大学に入って初めての春休み、不規則な生活で昼夜が逆転しつつある。なかなか眠りにつけず、見たいものもないのにひたすら画面をスクロールしていた。
そろそろ寝なければ、と画面を閉じる寸前に開いたのが「らろあ」の配信だった。画面の真ん中に大きくゲーム画面、右下に小さく配信者であるらろあの姿が映されている。あまり手入れのされていなさそうな、アッシュグレーの髪が特徴的だった。やっているのは流行りのFPSゲームで、なんら変哲もない配信である。
らろあは特筆するほどイケメンでもなく、声がいいわけでもない。むしろ声は少し枯れていて、聞いているこっちが不安になるほどだ。それでもなぜか私は、その画面から目を離せないでいた。視聴者は私を含めても10人に満たない。らろあは誰に向けるでもないような独り言をぶつぶつとつぶやいていた。
ログインしていた「るるか」のアカウントで『初見です』とコメントをする。普段こういう場所でコメントをすることはないのだけれど、もう10分ほど動いていないコメント欄が不憫だった。
「えっ、初見さん!? やば、めっちゃダラダラ喋ってたんだけど!」
らろあは私のコメントひとつで椅子に座りなおしたりそわそわとして、ゲームの操作が覚束なくなった。私はそれを布団の中で眺めながら、可愛いなんて思ってしまう。
「いや絶対いいとこ見せるわ! 見てて、この勝利るるかさんにあげるね!」
わざわざ名前まで呼んでくれるなんて、どれくらい視聴者に飢えていたんだろう。でも私は満更でもなくて、『頑張って』とコメントを打ち込んだ。
その試合は残念ながら負けてしまったのだけれど、コメントをしてくれる視聴者がいることでやる気が出たのか、らろあは配信を見始めたときとは比べ物にならないくらいはきはきと喋っていた。
「負けたけどやっぱ見てくれる人いると調子いいわあ。あ、いやROMを責めてるわけじゃないけどね!? 見てくれるだけでありがたい話ですよマジで!」
らろあはコントローラーを握りなおし、次の試合へと挑む。私はこのゲームのことをよく知らないし、勝っても同じ喜びを共有できないかもしれないけれど、それでも嬉しそうな彼を見るのが楽しかった。
コメントひとつでこんなに喜んでくれる人間がいるのが何よりも嬉しい。少し前に彼氏に振られたことも影響してか、画面の向こうの人間から特別扱いされることに一種の優越感を感じていた。
その後もコメントを打ちながら、2時間ほど配信を視聴していた。時間帯が変わるにつれて視聴者も増減を繰り返す。4時ごろは人が一番少ないらしく、視聴者が3人ほどになっていた。らろあも疲れ始めてきたのか、口数が減っている。
『寝なくて大丈夫なの?』とコメントを送ると、らろあはカメラの方を向いて苦笑いを浮かべた。
「正直ちょっと眠いけど……なんか、寝んのもったいないなーって。ほらせっかく初見さんも来てくれてるのにさあ」
集中力が途切れ始めたのか、ゲームではミスが目立ちだした。『また見に来るよ』と打ち込めば、らろあは明らかに嬉しそうな顔をする。
きっとこの配信者はお得意様を作ろうと必死になっているのだろうけれど、自分の一言一句にこうまで反応してくれる人を見つけてしまって、離れられないのはこちらの方だ。
らろあは敗北画面を放置したままコントローラーを机に放り、ぐうと伸びをした。彼の背中の骨が鳴る音がマイクを通して聞こえる。
「じゃあ、そろそろ寝るか。普段は大体22時から配信してるから! 絶対また見に来てね!」
念を押すようにそう言うらろあに『次も見に来るよ』と送信する。らろあは嬉しそうに笑い、何度もカメラに向かって手を振る。
「またねー! また次の配信で会おうね! おやすみ!」
画面の中央に読み込み中のマークが表示され、配信が終わった。気づけばもう5時が近くなっている。今が春休みでよかった。
私の心臓は心地よく高鳴っていた。らろあの笑顔が寝不足の頭に張り付いて離れない。数時間前とは違った眠れなさを感じながらも、目を瞑る。カーテンの向こうが明るくなり始めていた。
そろそろ寝なければ、と画面を閉じる寸前に開いたのが「らろあ」の配信だった。画面の真ん中に大きくゲーム画面、右下に小さく配信者であるらろあの姿が映されている。あまり手入れのされていなさそうな、アッシュグレーの髪が特徴的だった。やっているのは流行りのFPSゲームで、なんら変哲もない配信である。
らろあは特筆するほどイケメンでもなく、声がいいわけでもない。むしろ声は少し枯れていて、聞いているこっちが不安になるほどだ。それでもなぜか私は、その画面から目を離せないでいた。視聴者は私を含めても10人に満たない。らろあは誰に向けるでもないような独り言をぶつぶつとつぶやいていた。
ログインしていた「るるか」のアカウントで『初見です』とコメントをする。普段こういう場所でコメントをすることはないのだけれど、もう10分ほど動いていないコメント欄が不憫だった。
「えっ、初見さん!? やば、めっちゃダラダラ喋ってたんだけど!」
らろあは私のコメントひとつで椅子に座りなおしたりそわそわとして、ゲームの操作が覚束なくなった。私はそれを布団の中で眺めながら、可愛いなんて思ってしまう。
「いや絶対いいとこ見せるわ! 見てて、この勝利るるかさんにあげるね!」
わざわざ名前まで呼んでくれるなんて、どれくらい視聴者に飢えていたんだろう。でも私は満更でもなくて、『頑張って』とコメントを打ち込んだ。
その試合は残念ながら負けてしまったのだけれど、コメントをしてくれる視聴者がいることでやる気が出たのか、らろあは配信を見始めたときとは比べ物にならないくらいはきはきと喋っていた。
「負けたけどやっぱ見てくれる人いると調子いいわあ。あ、いやROMを責めてるわけじゃないけどね!? 見てくれるだけでありがたい話ですよマジで!」
らろあはコントローラーを握りなおし、次の試合へと挑む。私はこのゲームのことをよく知らないし、勝っても同じ喜びを共有できないかもしれないけれど、それでも嬉しそうな彼を見るのが楽しかった。
コメントひとつでこんなに喜んでくれる人間がいるのが何よりも嬉しい。少し前に彼氏に振られたことも影響してか、画面の向こうの人間から特別扱いされることに一種の優越感を感じていた。
その後もコメントを打ちながら、2時間ほど配信を視聴していた。時間帯が変わるにつれて視聴者も増減を繰り返す。4時ごろは人が一番少ないらしく、視聴者が3人ほどになっていた。らろあも疲れ始めてきたのか、口数が減っている。
『寝なくて大丈夫なの?』とコメントを送ると、らろあはカメラの方を向いて苦笑いを浮かべた。
「正直ちょっと眠いけど……なんか、寝んのもったいないなーって。ほらせっかく初見さんも来てくれてるのにさあ」
集中力が途切れ始めたのか、ゲームではミスが目立ちだした。『また見に来るよ』と打ち込めば、らろあは明らかに嬉しそうな顔をする。
きっとこの配信者はお得意様を作ろうと必死になっているのだろうけれど、自分の一言一句にこうまで反応してくれる人を見つけてしまって、離れられないのはこちらの方だ。
らろあは敗北画面を放置したままコントローラーを机に放り、ぐうと伸びをした。彼の背中の骨が鳴る音がマイクを通して聞こえる。
「じゃあ、そろそろ寝るか。普段は大体22時から配信してるから! 絶対また見に来てね!」
念を押すようにそう言うらろあに『次も見に来るよ』と送信する。らろあは嬉しそうに笑い、何度もカメラに向かって手を振る。
「またねー! また次の配信で会おうね! おやすみ!」
画面の中央に読み込み中のマークが表示され、配信が終わった。気づけばもう5時が近くなっている。今が春休みでよかった。
私の心臓は心地よく高鳴っていた。らろあの笑顔が寝不足の頭に張り付いて離れない。数時間前とは違った眠れなさを感じながらも、目を瞑る。カーテンの向こうが明るくなり始めていた。
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