VTuberをやめました。

阿良々木与太

文字の大きさ
上 下
41 / 47

第41話 疲弊する精神

しおりを挟む
 ロック画面に映っていたのは、柳くんからのメッセージの通知だった。


『お疲れ様です! あいつまだいます!
とりあえず店長が警察に相談して、ひとまず見回り強化してくれるみたいです』


 送られてきたメッセージを見てびっくりした。まさか店長が警察に相談してくれているとは思わなかった。朝にやり取りした間にも、そんなことは全く言っていなかったのに。きっと、私がこれ以上気にしないように気を使ってくれたのだろう。店長の心遣いはありがたかったけれど、でもそれと同じくらい柳くんからそのことを教えてもらえてホッとした。


『お疲れ様。
そうなんだ! 店長にお礼言っておかないとだね。教えてくれてありがとう』


『あ、もしかして内緒だったかな……。まあでも南さんも警察動いてるってわかった方がいいかなって思ったんで!
って南さんに言い訳してもしょうがないな……。』


 柳くんは休憩時間なのか、メッセージを送るとすぐに返事がきた。柳くんが慌てている様子が目に浮かび、笑いがこみ上げる。口角が自然と上がった。


『笑笑
大丈夫だよ、私から店長に言っておく』


『怒られたら次会った時になぐさめてください』


 そんな言葉と共に、柳くんは泣いている猫のスタンプを送ってくる。その可愛らしい絵柄のスタンプを柳くんが送ってくるのがおかしくて、同時になんだか愛おしかった。弟がいたらこんな感じなんだろうか、なんてことを考える。


『休憩終わったんで戻ります! もしなんかあったらメッセ入れておいてください!』


 そうやり取りをしているうちに、いつのまにか一時間ほど経っていたらしい。


『行けなくてごめんね。頑張って~』


 ずっと家に1人だったから気が滅入っていたけれど、文字とはいえいつも通りの会話をしたことでなんだか心が落ち着いた。それに、店長も柳くんも私のことを気遣ってくれていることが嬉しく、1人じゃないという実感が湧く。

 けれど、これだけ迷惑をかけていながら、詳しい事情を話すことのできないもどかしさが増した。きっと仕事仲間は「月島ヨナ」の活動のことを言っても馬鹿にしたりすることはないだろう。でも、そうだとしても話せない。

 どうしようもない葛藤に唸りながら、店長とのトークルームを開く。まずは警察に相談してくれたことにお礼が言いたい。


『店長、柳くんから聞いたんですけど、警察に相談してくれたそうで、本当にありがとうございます。
度々ご迷惑をおかけしてすみません……!』


 そう書いて送信する。仕事中だから返信は遅くなるだろう。そう思い、スマホを置いて立ち上がる。

 少ない家事を片づけながら返信を待っていると、数時間後に通知が来た。そこには警察には相談したけれど私に実害がない以上すぐに何かできることはないこと、相手の本名や住んでいる場所もわからないなら見回りを増やすこと以外とにかく現状はどうしようもないと言われたということが書かれていた。


『南さんの力になりたいのはやまやまなんだけど……正直、俺もこれ以上どうしたらいいのかわからなくて』


『いえ、大丈夫です! そこまでしていただいただけで十分です、ありがとうございます!』


 文面でも店長が申し訳ないと思っているのが伝わる。正直自分でも今すぐどうにかできるとは思っていなかったから、これくらいは予想の範疇だ。

 それから3日間仕事を休んだ。警察の見回りこそ増えたものの、山田はそれを把握して、警察のいない時間に店を見張っていることにしたらしい。私が出勤していないことはわかっているらしく、店の前に立っているだけじゃなく、周辺を歩き回っているそうだ。

 それを聞いて、仕事に行けないだけでなく出かけることすら出来なくなった。外に出てばったり遭遇するわけにはいかない。仕事に行けず、家からも出られない原因が近くにいるかもしれないと思うと、恐怖で心がずっと緊張していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春秋館 <一話完結型 連続小説>

uta
現代文学
様々な人たちが今日も珈琲専門店『春秋館』を訪れます。 都会の片隅に佇むログハウス造りの珈琲専門店『春秋館』は、その名の通り「春」と「秋」しか営業しない不思議な店。 寡黙で涼しい瞳の青年店長と、憂いな瞳のアルバイトのピアノ弾きの少女が、訪れるお客様をもてなします。 物語が進む内に、閉ざされた青年の過去が明らかに、そして少女の心も夢と恋に揺れ動きます。 お客様との出逢いと別れを通し、生きる事の意味を知る彼らの三年半を優しくも激しく描いています。 100話完結で、完結後に青年と少女の出逢い編(番外編)も掲載予定です。 ほとんどが『春秋館』店内だけで完結する一話完結型ですが、全体の物語は繋がっていますので、ぜひ順番に読み進めて頂けましたら幸いです。

病窓の桜

喜島 塔
現代文学
 花曇りの空の下、薄桃色の桜の花が色付く季節になると、私は、千代子(ちよこ)さんと一緒に病室の窓越しに見た桜の花を思い出す。千代子さんは、もう、此岸には存在しない人だ。私が、潰瘍性大腸炎という難病で入退院を繰り返していた頃、ほんの数週間、同じ病室の隣のベッドに入院していた患者同士というだけで、特段、親しい間柄というわけではない。それでも、あの日、千代子さんが病室の窓越しの桜を眺めながら「綺麗ねえ」と紡いだ凡庸な言葉を忘れることができない。  私は、ベッドのカーテン越しに聞き知った情報を元に、退院後、千代子さんが所属している『ウグイス合唱団』の定期演奏会へと足を運んだ。だが、そこに、千代子さんの姿はなかった。  一年ほどの時が過ぎ、私は、アルバイトを始めた。忙しい日々の中、千代子さんと見た病窓の桜の記憶が薄れていった頃、私は、千代子さんの訃報を知ることになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。 今回のお題は「闇スポーツ賭博」! この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか? 日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。 その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。 今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。 毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。 今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。 もちろん主役は「稀世ちゃん」です。 このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います! もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます! リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー! 皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす! では、10月9日本編スタートです! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

芙蓉の宴

蒲公英
現代文学
たくさんの事情を抱えて、人は生きていく。芙蓉の花が咲くのは一度ではなく、猛暑の夏も冷夏も、花の様子は違ってもやはり花開くのだ。 正しいとは言えない状況で出逢った男と女の、足掻きながら寄り添おうとするお話。 表紙絵はどらりぬ様からいただきました。

鬼母(おにばば)日記

歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。 そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?) 鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。

処理中です...