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第36話 身バレ
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相沢さんは腰の抜けた私を引っ張って休憩室まで運んでくれた後、店長を呼んできます、と言って休憩室を出た。彼女が出て行ってからすぐに店長が休憩室へ飛び込んできて、私の横にパイプ椅子を置いて座る。
「南さん、大丈夫? さっき俺はよく見てなかったんだけど何があったの?」
店長に配信のことは言えない。けれど、大丈夫だと言っても店長は信じてくれないだろう。それに今後またあいつが現れないとも限らない。私は配信のことを隠しながら、山田が私のストーカーかもしれないということを説明した。
「ストーカー……でも、南さんはあの人を見るの初めてなんでしょ?」
「はい……その、ネットのアカウントしか知らない人で、どこで私の働いている場所を見つけてきたのかわからないんです……」
店長はネットに疎いわけじゃない。でも、こんな状況をすぐに理解しろという方が無理だ。そもそも私自身が今の状況を理解していない。
「ごめんなさい、ちょっと混乱しちゃって。私もなんでこんなことになってるのかわからないんです」
「いや、南さんが謝らなくていいよ。とにかく今わかってるのは、あの山田ってやつがなぜか突然店の場所を特定したわざわざやってきたってことでしょ」
店長の言葉に、私は小さくうなずく。わかりやすいからストーカーという言葉を使ったけれど、そもそも山田が私をストーカーする意味が分からない。あいつは私の元アンチであって、私にこういう執着の仕方をすること自体がおかしい。
「家の場所とかはバレてないの?」
「それもわからないんです。本当に、急に現れたので……。でも、ここがわかってるってことは、家がバレるのも時間の問題かもしれないです……。」
もう既に家もバレていて、今頃待ち伏せされていたら、と思うとぞっとする。店長は腕を組み、椅子に深く腰掛けてどうしたもんかなあと唸った。ガチャと休憩室の扉が開く音がして、顔を上げると相沢さんが入ってきた。
「あいつ、どっか行きました」
「ありがとう。俺がホール出るから相沢さんは休憩入って。南さんは、危ないからとりあえず交代の時間までここにいて」
「……わかりました」
そう言うと、店長は不安そうな顔をしたまま休憩室を出て行った。相沢さんはテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろし、深いため息をつく。
「さっきのあいつなんだったんですか? ……あ、いや言いたくないならいいんですけど」
相沢さんはぐうっと背を伸ばしながらそう尋ねる。そういえばあんなに助けてもらったのに、彼女に事情を説明するのを忘れていた。
「あー……なんていうか、ざっくり言うとストーカーなんだけど……ネットの知り合い、で。なんか、勝手に店の場所調べたみたいなんだよね」
こうやって説明するのは2回目だけれど、やっぱりどう説明するのが正解かわからない。相沢さんはふうん、と相槌を打ち、ほんの少し首をかしげる。
「いよいよそんなのまで出てきたんですね。ネット社会も面倒だなあ」
彼女は思ったよりすんなり受け入れてくれたらしい。大変ですね、と言いながらこちらを気遣ってくれているのが表情で分かった。
「ここバレてるなら家もバレてるかもしれないですね」
「そうなんだよね……どうしようかなあ……」
はあ、とため息をつくとまた休憩室の扉が開き、今度は柳くんが入ってきた。
「店長から事情は聞きました。さっきのやつ、また店の前にいます。多分南さんが出てくるの待ってるんで、今のうちにこっそり裏から出て帰りましょう。俺が送ります」
柳くんはそう言いながらエプロンを脱いでロッカーに仕舞っている。私は急なことに柳くんの顔を見てうろたえた。
「えっ、でも、迷惑じゃ。表にいるなら私一人で走って帰るよ」
「見つかったら危ないでしょ。ほら、早く準備してください」
柳くんに急かされ慌てて立ち上がる。エプロンをロッカーに放り込み荷物をつかむと、彼に促されるまま休憩室を出た。
「南さん、大丈夫? さっき俺はよく見てなかったんだけど何があったの?」
店長に配信のことは言えない。けれど、大丈夫だと言っても店長は信じてくれないだろう。それに今後またあいつが現れないとも限らない。私は配信のことを隠しながら、山田が私のストーカーかもしれないということを説明した。
「ストーカー……でも、南さんはあの人を見るの初めてなんでしょ?」
「はい……その、ネットのアカウントしか知らない人で、どこで私の働いている場所を見つけてきたのかわからないんです……」
店長はネットに疎いわけじゃない。でも、こんな状況をすぐに理解しろという方が無理だ。そもそも私自身が今の状況を理解していない。
「ごめんなさい、ちょっと混乱しちゃって。私もなんでこんなことになってるのかわからないんです」
「いや、南さんが謝らなくていいよ。とにかく今わかってるのは、あの山田ってやつがなぜか突然店の場所を特定したわざわざやってきたってことでしょ」
店長の言葉に、私は小さくうなずく。わかりやすいからストーカーという言葉を使ったけれど、そもそも山田が私をストーカーする意味が分からない。あいつは私の元アンチであって、私にこういう執着の仕方をすること自体がおかしい。
「家の場所とかはバレてないの?」
「それもわからないんです。本当に、急に現れたので……。でも、ここがわかってるってことは、家がバレるのも時間の問題かもしれないです……。」
もう既に家もバレていて、今頃待ち伏せされていたら、と思うとぞっとする。店長は腕を組み、椅子に深く腰掛けてどうしたもんかなあと唸った。ガチャと休憩室の扉が開く音がして、顔を上げると相沢さんが入ってきた。
「あいつ、どっか行きました」
「ありがとう。俺がホール出るから相沢さんは休憩入って。南さんは、危ないからとりあえず交代の時間までここにいて」
「……わかりました」
そう言うと、店長は不安そうな顔をしたまま休憩室を出て行った。相沢さんはテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろし、深いため息をつく。
「さっきのあいつなんだったんですか? ……あ、いや言いたくないならいいんですけど」
相沢さんはぐうっと背を伸ばしながらそう尋ねる。そういえばあんなに助けてもらったのに、彼女に事情を説明するのを忘れていた。
「あー……なんていうか、ざっくり言うとストーカーなんだけど……ネットの知り合い、で。なんか、勝手に店の場所調べたみたいなんだよね」
こうやって説明するのは2回目だけれど、やっぱりどう説明するのが正解かわからない。相沢さんはふうん、と相槌を打ち、ほんの少し首をかしげる。
「いよいよそんなのまで出てきたんですね。ネット社会も面倒だなあ」
彼女は思ったよりすんなり受け入れてくれたらしい。大変ですね、と言いながらこちらを気遣ってくれているのが表情で分かった。
「ここバレてるなら家もバレてるかもしれないですね」
「そうなんだよね……どうしようかなあ……」
はあ、とため息をつくとまた休憩室の扉が開き、今度は柳くんが入ってきた。
「店長から事情は聞きました。さっきのやつ、また店の前にいます。多分南さんが出てくるの待ってるんで、今のうちにこっそり裏から出て帰りましょう。俺が送ります」
柳くんはそう言いながらエプロンを脱いでロッカーに仕舞っている。私は急なことに柳くんの顔を見てうろたえた。
「えっ、でも、迷惑じゃ。表にいるなら私一人で走って帰るよ」
「見つかったら危ないでしょ。ほら、早く準備してください」
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