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第13話 人格否定
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仕事が忙しいと思っているうちに、気づけばまた金曜日が訪れていた。今日は先週よりも早く帰れたし、明日は休みだし、少し長く配信をしようかなあと思いながらPCの電源を入れる。
時刻は21時。配信の内容はいつも通り雑談だが、なんだか今日はやけに配信のやる気が高かった。
配信開始のボタンを押し、リスナーたちがコメントをしてくれるのを待つ。こんヨナ、の文字が見えてから蓋絵を開けた。
「こんヨナー、見えてる?」
『こんヨナ』
『こんヨナです』
「きてるねー、やっほー! 元気―?」
『こんヨナ! 今日時間早めでうれしい』
「そう、今日早めに帰ってこれたからさー、せっかくだし長めにやろうかなと思って」
私のやる気に反して、同時接続者数は存外少なかった。いつもと時間を変えたからだろうか。普段は21時くらいにやることなんて滅多にない。早い時間の方が来れる人が多いかな、とも思ったのだが、そうでもないらしい。心の中でがっかりしながらも、それを表に出さないようコメント欄に目を向ける。
「『最近お仕事どうですか?』大変だよー、この間もバイトの子が急に休んじゃったりしてさあ。3時間残業したからね、超困る」
雑談はやっぱり、どうしても仕事の話になってしまう。1週間のほとんどを仕事をして過ごしているから当たり前だけれど。
「あ、そう、昨日さあ、すっごいミスしちゃって落ち込んでたんだけど聞いてくれる?
注文の聞き間違えしてさー、そのまんま持って行っちゃったんだけど途中でつまづいて飲み物落としちゃって。
カップも割るし、注文は違うし、作り直して持って行ったら頼んでないって言われるし。……いや、注文の聞き間違いは私が悪いんだけどさ。
マジでボロボロだったー、昨日の私多分運勢最下位だったよ」
そんな些細な愚痴をこぼす。正直昨日はこのせいで落ち込んでいて、今日の配信をやめてしまおうとまで思っていた。それが今日は配信に前向きなのだから、人間というのはよくわからない。
『ダメダメじゃん笑』
『ヨナちゃん飲食向いてない可能性』
本当に、些細な愚痴をこぼしただけのつもりだった。さっきまで満ち満ちていたやる気がスッとどこかに消えていく。何もそこまで否定しなくていいじゃないか。
「えー、でも人間誰しもそんな日あるじゃん! 君らはそんなミスしないで仕事してんの!?」
『ヨナちゃん悪魔だから、人間の世界難しいかもしれんな……』
『学生だからわからん笑』
悪魔だから、というコメントで、私のせいで「月島ヨナ」が否定されてしまったことに気が付いた。仕事でミスをしたのも、こんな風にあり得ないと笑われるのも「私」のせいなのに、ヨナが否定されている。
申し訳ない気持ちと、どうしても私にダメというレッテルを張りたいリスナーたちに嫌気がさした。
「はいはい、お仕事できない私が悪いですよー」
そうやって、拗ねたふりをしてごまかす。話を変えようにも、明るい話題を出す気にもならない。違う話をしたって、リスナーたちは何かにつけてまた私を否定してくるかもしれない。
それなのに、そんな人たちを相手にしているのに、私、なんで配信やってるんだろう。
そう思った瞬間に、すべてがどうでもよくなった。
「……明日、お仕事朝早いの思い出しちゃった! 今日はここで終わるね、おつヨナ!」
そう言うのが早いか、私は配信を切った。動揺さえせずにおつヨナ、とコメントをするリスナーが憎らしい。1人くらい、私のことかばってくれたっていいのに。
どうにも腹が立って、SNSにも何もつぶやかないまま布団に入って眠った。それから、SNSのアプリを消し、配信サイトはログアウトし、私は「月島ヨナ」の活動から離れた。
時刻は21時。配信の内容はいつも通り雑談だが、なんだか今日はやけに配信のやる気が高かった。
配信開始のボタンを押し、リスナーたちがコメントをしてくれるのを待つ。こんヨナ、の文字が見えてから蓋絵を開けた。
「こんヨナー、見えてる?」
『こんヨナ』
『こんヨナです』
「きてるねー、やっほー! 元気―?」
『こんヨナ! 今日時間早めでうれしい』
「そう、今日早めに帰ってこれたからさー、せっかくだし長めにやろうかなと思って」
私のやる気に反して、同時接続者数は存外少なかった。いつもと時間を変えたからだろうか。普段は21時くらいにやることなんて滅多にない。早い時間の方が来れる人が多いかな、とも思ったのだが、そうでもないらしい。心の中でがっかりしながらも、それを表に出さないようコメント欄に目を向ける。
「『最近お仕事どうですか?』大変だよー、この間もバイトの子が急に休んじゃったりしてさあ。3時間残業したからね、超困る」
雑談はやっぱり、どうしても仕事の話になってしまう。1週間のほとんどを仕事をして過ごしているから当たり前だけれど。
「あ、そう、昨日さあ、すっごいミスしちゃって落ち込んでたんだけど聞いてくれる?
注文の聞き間違えしてさー、そのまんま持って行っちゃったんだけど途中でつまづいて飲み物落としちゃって。
カップも割るし、注文は違うし、作り直して持って行ったら頼んでないって言われるし。……いや、注文の聞き間違いは私が悪いんだけどさ。
マジでボロボロだったー、昨日の私多分運勢最下位だったよ」
そんな些細な愚痴をこぼす。正直昨日はこのせいで落ち込んでいて、今日の配信をやめてしまおうとまで思っていた。それが今日は配信に前向きなのだから、人間というのはよくわからない。
『ダメダメじゃん笑』
『ヨナちゃん飲食向いてない可能性』
本当に、些細な愚痴をこぼしただけのつもりだった。さっきまで満ち満ちていたやる気がスッとどこかに消えていく。何もそこまで否定しなくていいじゃないか。
「えー、でも人間誰しもそんな日あるじゃん! 君らはそんなミスしないで仕事してんの!?」
『ヨナちゃん悪魔だから、人間の世界難しいかもしれんな……』
『学生だからわからん笑』
悪魔だから、というコメントで、私のせいで「月島ヨナ」が否定されてしまったことに気が付いた。仕事でミスをしたのも、こんな風にあり得ないと笑われるのも「私」のせいなのに、ヨナが否定されている。
申し訳ない気持ちと、どうしても私にダメというレッテルを張りたいリスナーたちに嫌気がさした。
「はいはい、お仕事できない私が悪いですよー」
そうやって、拗ねたふりをしてごまかす。話を変えようにも、明るい話題を出す気にもならない。違う話をしたって、リスナーたちは何かにつけてまた私を否定してくるかもしれない。
それなのに、そんな人たちを相手にしているのに、私、なんで配信やってるんだろう。
そう思った瞬間に、すべてがどうでもよくなった。
「……明日、お仕事朝早いの思い出しちゃった! 今日はここで終わるね、おつヨナ!」
そう言うのが早いか、私は配信を切った。動揺さえせずにおつヨナ、とコメントをするリスナーが憎らしい。1人くらい、私のことかばってくれたっていいのに。
どうにも腹が立って、SNSにも何もつぶやかないまま布団に入って眠った。それから、SNSのアプリを消し、配信サイトはログアウトし、私は「月島ヨナ」の活動から離れた。
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