VTuberをやめました。

阿良々木与太

文字の大きさ
上 下
12 / 47

第12話 「姉」と呼ぶ存在

しおりを挟む
 PCの電源を落としてベッドに寝転がりスマホをいじっていると、メッセージアプリから通知が来た。今日はやたらと連絡が来る日だな、と思いながらアプリを開く。


『ヨナちゃん配信お疲れ様~!
なんか疲れてたみたいだけど大丈夫??』


 可愛らしいくまがしょんぼりした顔をしているスタンプと共に送られてきたそのメッセージは、「熊白ゆき」からのものだった。

 私はひがおさんのことを「ママ」とは呼ばないけれど、ゆきのことはゆき姉と呼んでいる。そう呼んで、と彼女に言われたからだ。ゆきは私よりもVTuberの活動に積極的で、私がデビューしたころは「ひがお家姉妹」なんてコラボに誘ってもらっていた。

 そんな関係もあって、彼女にはリアルでも使っているメッセージアプリのアカウントを教えている。SNS上でも連絡は取れるけれど、やっぱりこっちの方が便利だ。


『大丈夫だよ~!!ありがとう、見ててくれたの?』


 ゆきは私よりずっと忙しい。彼女が配信をしているのは私が使っている配信サイトではなく、独自のプラットフォームを持つアプリだ。私もそのアプリを入れていて、配信はしないけれどたまにゆきの配信を見に行く。そこではよくランキング形式のイベントが行われていて、上位に入ればその順位に伴った景品が送られる。それは物だったりもするけれど、大体は雑誌や、動画広告に出演できる権利だ。

 ゆきはそのイベントによく参加している。何回か上位を取っていて、彼女が載った雑誌を買いに行ったこともあった。確かどこかのお店のアンバサダーなんかもしていた気がする。

 そんな風に頑張っている彼女が、私にとっては憧れだった。憧れというか、私はゆきみたいに必死になれないから、頑張れる彼女や、それについていって応援しているリスナーがいる環境が羨ましいのかもしれない。

 イベントがあるときは1日に何時間も配信をしている彼女は、リアルでも仕事をしていると言っていた。それなのに、こうしてわざわざ私の配信を見てくれるのはありがたい。


『見てた! ヨナちゃん可愛いからつい配信見ちゃう~~
大丈夫ならいいけど、お仕事とかも大変だろうし無理しないでね!』


 ゆきは配信でも裏でもあんまり口調に変化がない。だから文字が私の中でゆきの可愛らしい声で再生され、思わず笑みがこぼれた。

 私はひとりっ子だから、自分のことを妹として扱ってくれるゆきに最初こそ違和感があったけれど、今では姉がいたらこんな感じなのだろうか、なんて思っている。何より彼女はいつも私のことを可愛いと言って慕ってくれるから、尚更ゆきのことが好きだった。


『うれしいありがとう~~!! がんばるね!!』

 5分ほど返信の内容に悩んでから、結局短い文章を送る。長く書いても引かれるだろうし、やり取りを続けようとするのも邪魔かもしれないし、と思うと、そっけないメッセージしか送れない。元々人付き合いが苦手で、ゆきにもこんな風に向こうからメッセージが送られてきたときくらいしか会話をすることがなかった。

 数分後にまた笑ったくまのスタンプが送られてくる。ちょっとだけ時間をおいてから既読をつけると、スマホを閉じた。

 配信終わりのモヤモヤとした気分が、ほんの少し晴れた気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アップルジュース

佐野柊斗
現代文学
本気で欲しいと願ったものは、どんなものでも手に入ってしまう。夢も一緒。本気で叶えたいと思ったなら、その夢は実現してしまう。 僕がただひたすら、アップルジュースを追い求める作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とぅどぅいずとぅびぃ

黒名碧
現代文学
それもまた誰かの人生。 何かをする、行動するという事が生きるという事。 縦読み推奨。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『記憶の展望台』

小川敦人
現代文学
隆介と菜緒子は東京タワーの展望台に立ち、夜景を眺めながらそれぞれの人生を振り返る。隆介が小学生の頃、東京タワーを初めて訪れたときに見た灰色の空と工事の喧騒。その記憶は、現在の輝く都市の光景と対比される。時代と共に街は変わったが、タワーだけは変わらずそびえ立つ。二人は、人生の辛いことも嬉しいことも乗り越え、この瞬間を共有できる奇跡に感謝する。東京タワーの明かりが、彼らの新たな未来を優しく照らしていた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...