11 / 47
第11話 匿名のメッセージボックス
しおりを挟む
配信を終えた後、珍しく月島ヨナのメールアカウントに1件通知が入っていることに気が付いた。多分配信サイトかSNSからのメールだろうと思っていたが、開いてみるとそこには、匿名でメッセージを送ることができるサイトから、新規メッセージの通知が入っていた。
このサイトのリンクは現在SNSのプロフィール欄にも、配信サイトの概要欄にも載せていない。一体どこから見つけて送ってきたのだろう。
そういえば今日、最近私を見つけた、という人がコメントしていたのを思い出した。もしかして、その人が過去の配信の概要欄から見つけてきたのだろうか。
不思議に思いながらも、メール内のURLを開く。メッセージには、丁寧な文章でこう書かれていた。
『初めまして! 最近ヨナさんのゲーム実況のアーカイブを見て、それからヨナさんにハマりました。最近の雑談配信や、過去のアーカイブも少しずつ見ているところです。
そこで質問なのですが、昔にやっていた相談枠などはもうやらないのでしょうか? 僕は今相談枠のアーカイブを見ていて、またこんな配信が見てみたいと思い、メッセージを送りました。
新規ですべての配信を見れているわけではないので、もしどこかで話していたらごめんなさい。
今後も配信楽しみにしています!』
届いた長文のメッセージをじっくり読みながら、どこか懐かしい気分になる。相談枠なんてやっていたのは、もう1年くらい前のことだ。配信サイトを開いて、自分のアーカイブをさかのぼる。
1年くらい前の配信のサムネイルを見ていると、今とは違いすぎて思わず笑ってしまった。この頃はやたらと配信を頑張っていて、サムネイルのデザインをフォントなんかにも
こだわって作っている。
その中の1つに、相談枠はあった。
匿名のメッセージを募集して、それを読む配信の一環で企画したものだ。これが思ったより女性のリスナーに受けたようで、視聴者層の男女比が変わった。それまでも女VTuberとしては女性のリスナーは多い方だったけれど、当時はほとんど半分くらいになっていた気がする。今はまた減ってしまった。
「企画かあ……」
そうぼそりとつぶやく。企画なんて、もう長いことやっていない。半年前に必死でゲーム配信をした頃にはもう企画配信なんてやめていた気がする。
そもそも私の企画配信は、「企画」と呼べるようなものではなかった。他の配信者さんを呼ぶわけでもなく、リスナーの力を借りただけの配信を企画と称していただけだ。
リスナーに頼る企画というのはひどく不安定で、お便りを募集しても、送ってきてもらえるかはわからない。けれど募集した以上、配信をしなければお便りが来なかったのかな、と思われて惨めな思いをする。募集した時に全くお便りが来なくて、自分で捏造した時もあった。そうだ、それが虚しくてやめたんだ。
この企画をやめた当時よりリスナーが減った今では、お便りを募集したって送られてこないだろう。もしくは、ふざけた内容のものが送られてくるかだ。後者の方がマシに思えるけど、配信より匿名性のある場所では、どんな悪ふざけが行われるかわかったものじゃない。
そう考えるだけで憂鬱で、やっぱりまた企画をしようとは思えなかった。
企画がしたくないわけではない。この頃の配信は楽しかったし、今でもたまにこういう枠はやりたいな、と思う。でも、それはリスナーがいたからだ。今の私では、ただ後悔をするだけだろう。
視聴者あっての配信者だ。そこはどうやったって切り離せない。だからこそ、思うようにいかなくて苦しい。自分の好きなことだけやって、リスナーが増えてみんなが私のことを好きになってくれたらどんなに幸せだろう。でも、現実はそう甘くはない。
ごめんね、と心の中で謝罪をしながらメッセージ欄を閉じる。もう使わないし退会しようかと思ったけれど、またいつかこんなメッセージが届くかもしれない。返してあげられないから私の自己満足になってしまうけれど、ほんの少しの期待を込めて、画面を消した。
このサイトのリンクは現在SNSのプロフィール欄にも、配信サイトの概要欄にも載せていない。一体どこから見つけて送ってきたのだろう。
そういえば今日、最近私を見つけた、という人がコメントしていたのを思い出した。もしかして、その人が過去の配信の概要欄から見つけてきたのだろうか。
不思議に思いながらも、メール内のURLを開く。メッセージには、丁寧な文章でこう書かれていた。
『初めまして! 最近ヨナさんのゲーム実況のアーカイブを見て、それからヨナさんにハマりました。最近の雑談配信や、過去のアーカイブも少しずつ見ているところです。
そこで質問なのですが、昔にやっていた相談枠などはもうやらないのでしょうか? 僕は今相談枠のアーカイブを見ていて、またこんな配信が見てみたいと思い、メッセージを送りました。
新規ですべての配信を見れているわけではないので、もしどこかで話していたらごめんなさい。
今後も配信楽しみにしています!』
届いた長文のメッセージをじっくり読みながら、どこか懐かしい気分になる。相談枠なんてやっていたのは、もう1年くらい前のことだ。配信サイトを開いて、自分のアーカイブをさかのぼる。
1年くらい前の配信のサムネイルを見ていると、今とは違いすぎて思わず笑ってしまった。この頃はやたらと配信を頑張っていて、サムネイルのデザインをフォントなんかにも
こだわって作っている。
その中の1つに、相談枠はあった。
匿名のメッセージを募集して、それを読む配信の一環で企画したものだ。これが思ったより女性のリスナーに受けたようで、視聴者層の男女比が変わった。それまでも女VTuberとしては女性のリスナーは多い方だったけれど、当時はほとんど半分くらいになっていた気がする。今はまた減ってしまった。
「企画かあ……」
そうぼそりとつぶやく。企画なんて、もう長いことやっていない。半年前に必死でゲーム配信をした頃にはもう企画配信なんてやめていた気がする。
そもそも私の企画配信は、「企画」と呼べるようなものではなかった。他の配信者さんを呼ぶわけでもなく、リスナーの力を借りただけの配信を企画と称していただけだ。
リスナーに頼る企画というのはひどく不安定で、お便りを募集しても、送ってきてもらえるかはわからない。けれど募集した以上、配信をしなければお便りが来なかったのかな、と思われて惨めな思いをする。募集した時に全くお便りが来なくて、自分で捏造した時もあった。そうだ、それが虚しくてやめたんだ。
この企画をやめた当時よりリスナーが減った今では、お便りを募集したって送られてこないだろう。もしくは、ふざけた内容のものが送られてくるかだ。後者の方がマシに思えるけど、配信より匿名性のある場所では、どんな悪ふざけが行われるかわかったものじゃない。
そう考えるだけで憂鬱で、やっぱりまた企画をしようとは思えなかった。
企画がしたくないわけではない。この頃の配信は楽しかったし、今でもたまにこういう枠はやりたいな、と思う。でも、それはリスナーがいたからだ。今の私では、ただ後悔をするだけだろう。
視聴者あっての配信者だ。そこはどうやったって切り離せない。だからこそ、思うようにいかなくて苦しい。自分の好きなことだけやって、リスナーが増えてみんなが私のことを好きになってくれたらどんなに幸せだろう。でも、現実はそう甘くはない。
ごめんね、と心の中で謝罪をしながらメッセージ欄を閉じる。もう使わないし退会しようかと思ったけれど、またいつかこんなメッセージが届くかもしれない。返してあげられないから私の自己満足になってしまうけれど、ほんの少しの期待を込めて、画面を消した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
妻が心配で成仏できません
麻木香豆
現代文学
40代半ばで不慮の死を遂げた高校教師の大島。
美人の妻の三葉や愛猫のスケキヨを残したことややり残したことが多くて一周忌を迎えたとある日、冗談でスケキヨに乗り移らたらいいなぁと思っていたら乗り移れちゃった?!
さらに調子に乗った大島はあちこちと珍道中。しかし受け入れなくてはいけない事実がたくさん……。
周りの人たちを巻き込んだおっさんの大騒動をお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる