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第10話 ギリギリのモチベーション
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PC上の時計が23時を指した。配信開始のボタンを押し、BGMを再生する。1分ほど待ってから、蓋絵を消して配信画面に切り替えた。
「遅くなってごめんねー、こんヨナー! 見えてるー?」
『こんヨナ』
『見えてます、こんヨナ』
「ありがとう! ってことでね、もう金曜にやるの定期になっちゃったな。雑談配信です。
なかなか忙しくてさー、配信の時間取れなくて」
忙しいのは事実だけれど、わざわざ配信のために時間を取らなくなった、の方が近いかもしれない。だから1週間に1度、金曜日だけは仕事があってもなくても必ず配信をやると決めている。
「まあ今日も1時間くらいかな。なんとなくおしゃべりしていけたらなあって思います。よろしくー」
『配信感謝』
『間に合った! こんヨナ!』
のんびり流れていくコメント欄を見ながら、特段話すこともないな、と適当にコメントに相槌を打つ。1週間必死に仕事をして、帰ってきたら泥のように眠っているから、雑談のネタさえないのだ。前までは配信を頑張ろうと必死だったけれど、今はそんな体力もない。
「『最近どう』? まあ相変わらずって感じかなあ。変わらず忙しいし」
『最近ヨナさんのことを見始めました! アーカイブを見返しているんですが、前までやっていたようなゲーム配信はもうやらないんですか?』
そんな長文で書かれたコメントが目に入る。見たことのない人だ。いや、SNSではちょっと見かけたような気もする。こんな時に新規さんなんて珍しい。
「んー、ゲームかあ。いや最近のゲームわからんのよね。あと私めちゃくちゃゲーム下手なんよ。アーカイブ見てくれたならわかると思うけど」
『ヨナちゃんマジで下手くそやったもんなw』
『だいぶ前にやってたFPSのやつめちゃくちゃやった覚えがある』
いつも見かけるリスナーからそんなコメントが打ち込まれる。私はそっと苦笑いをした。こんなコメントをするのは前だったら山田だけだったけれど、最近はそうじゃない。
私がいじりを許容し始めてから、こういうコメントが増えた。打ち込んでいる人はいじりだとは思っていないだろうし、まして私が、こういうコメントを嫌っていることにも気が付いていないだろう。言葉にしていないから、当たり前だけれど。
仲が良ければこれくらいの軽口は当たり前で、許すべきことだ。きっと。そう自分に言い聞かせている。そうしないと、みんなが私のことを見限ってどこかに行ってしまうんじゃないかと思っているからだ。配信はほとんどやらないくせに、今いるリスナーにはしがみついている。醜い人間で申し訳ない。
でも本当は、配信者と視聴者の関係で、そこに仲が良いとか関係あるんだろうか、とぼんやり考えている。
「そうだよ下手だよ! なんかさあ、のんびりやれる系のやつないのかなあ。マジでゲームのことわからん」
『月島ができるゲーム……????』
『ヨナちゃん、牧場経営のアレが途中で終わってるんですがそれは』
「……なんのことだろうなあ」
私は今までの人生で、ほとんどゲームなんかしてこなかった。配信が雑談ばっかりなのもな、と思ったのがきっかけでゲームを始めたけれど、やっぱり向いていないのかすぐに飽きてしまう。
『ヨナちゃんは飽き性だから』
『ゲーム実況完結させてもろて』
これに関してはいじりじゃなくて、事実だから何とも言えない。でもそんなに言わなくてもいいじゃないか、とむっとする時もある。私が困っているのが見たくて事実を言っている人だっているだろう。
「だって今の配信頻度だと続きやるまでに時間あいちゃうじゃん。時間経つとやる気なくさん? 現代に生きる社会人なら誰でもそうだと思うんだけど!」
『わかる』
『マジで社会人ゲームする時間ない』
「そうでしょ、ほら!」
『言い訳じゃん笑』
そうコメントをしたのは、今も変わらず初期アイコンの山田だった。うるせえニート、と返してやりたいのをぐっとこらえて、えー、と不満げな声を漏らす。
「言い訳じゃないでーす。事実だもーん」
『かわい子ぶんな笑』
『配信も頑張ろうな』
私をいじる流れになると、コメント欄はやけに生き生きする。それが私にとっては息苦しくてしょうがない。悪口でもなんでもないはずなのに、こんなにモヤモヤするのはどうしてだろう。私の心が狭いんだろうか。
「まあ、ゲームはそのうちねー」
そう言って無理やり話を切り上げた。その後はいつも通り、どうでもいい世間話なんかをして、1時間をやり過ごす。今日の同時視聴者数は最大20人で、毎週最低記録を更新していた
自分のチャンネルに並ぶ動画たちの再生回数がどんどん減っていくのを、もはや悔しいとも、なんとかしようとも思わないまま、惰性の配信が続いている。駄目だな、とわかっていながら、上がらないモチベーションをギリギリのラインで保ち続けるには、これしかない。
どうなりたいんだろう、私は、どうすればいいんだろう。
「遅くなってごめんねー、こんヨナー! 見えてるー?」
『こんヨナ』
『見えてます、こんヨナ』
「ありがとう! ってことでね、もう金曜にやるの定期になっちゃったな。雑談配信です。
なかなか忙しくてさー、配信の時間取れなくて」
忙しいのは事実だけれど、わざわざ配信のために時間を取らなくなった、の方が近いかもしれない。だから1週間に1度、金曜日だけは仕事があってもなくても必ず配信をやると決めている。
「まあ今日も1時間くらいかな。なんとなくおしゃべりしていけたらなあって思います。よろしくー」
『配信感謝』
『間に合った! こんヨナ!』
のんびり流れていくコメント欄を見ながら、特段話すこともないな、と適当にコメントに相槌を打つ。1週間必死に仕事をして、帰ってきたら泥のように眠っているから、雑談のネタさえないのだ。前までは配信を頑張ろうと必死だったけれど、今はそんな体力もない。
「『最近どう』? まあ相変わらずって感じかなあ。変わらず忙しいし」
『最近ヨナさんのことを見始めました! アーカイブを見返しているんですが、前までやっていたようなゲーム配信はもうやらないんですか?』
そんな長文で書かれたコメントが目に入る。見たことのない人だ。いや、SNSではちょっと見かけたような気もする。こんな時に新規さんなんて珍しい。
「んー、ゲームかあ。いや最近のゲームわからんのよね。あと私めちゃくちゃゲーム下手なんよ。アーカイブ見てくれたならわかると思うけど」
『ヨナちゃんマジで下手くそやったもんなw』
『だいぶ前にやってたFPSのやつめちゃくちゃやった覚えがある』
いつも見かけるリスナーからそんなコメントが打ち込まれる。私はそっと苦笑いをした。こんなコメントをするのは前だったら山田だけだったけれど、最近はそうじゃない。
私がいじりを許容し始めてから、こういうコメントが増えた。打ち込んでいる人はいじりだとは思っていないだろうし、まして私が、こういうコメントを嫌っていることにも気が付いていないだろう。言葉にしていないから、当たり前だけれど。
仲が良ければこれくらいの軽口は当たり前で、許すべきことだ。きっと。そう自分に言い聞かせている。そうしないと、みんなが私のことを見限ってどこかに行ってしまうんじゃないかと思っているからだ。配信はほとんどやらないくせに、今いるリスナーにはしがみついている。醜い人間で申し訳ない。
でも本当は、配信者と視聴者の関係で、そこに仲が良いとか関係あるんだろうか、とぼんやり考えている。
「そうだよ下手だよ! なんかさあ、のんびりやれる系のやつないのかなあ。マジでゲームのことわからん」
『月島ができるゲーム……????』
『ヨナちゃん、牧場経営のアレが途中で終わってるんですがそれは』
「……なんのことだろうなあ」
私は今までの人生で、ほとんどゲームなんかしてこなかった。配信が雑談ばっかりなのもな、と思ったのがきっかけでゲームを始めたけれど、やっぱり向いていないのかすぐに飽きてしまう。
『ヨナちゃんは飽き性だから』
『ゲーム実況完結させてもろて』
これに関してはいじりじゃなくて、事実だから何とも言えない。でもそんなに言わなくてもいいじゃないか、とむっとする時もある。私が困っているのが見たくて事実を言っている人だっているだろう。
「だって今の配信頻度だと続きやるまでに時間あいちゃうじゃん。時間経つとやる気なくさん? 現代に生きる社会人なら誰でもそうだと思うんだけど!」
『わかる』
『マジで社会人ゲームする時間ない』
「そうでしょ、ほら!」
『言い訳じゃん笑』
そうコメントをしたのは、今も変わらず初期アイコンの山田だった。うるせえニート、と返してやりたいのをぐっとこらえて、えー、と不満げな声を漏らす。
「言い訳じゃないでーす。事実だもーん」
『かわい子ぶんな笑』
『配信も頑張ろうな』
私をいじる流れになると、コメント欄はやけに生き生きする。それが私にとっては息苦しくてしょうがない。悪口でもなんでもないはずなのに、こんなにモヤモヤするのはどうしてだろう。私の心が狭いんだろうか。
「まあ、ゲームはそのうちねー」
そう言って無理やり話を切り上げた。その後はいつも通り、どうでもいい世間話なんかをして、1時間をやり過ごす。今日の同時視聴者数は最大20人で、毎週最低記録を更新していた
自分のチャンネルに並ぶ動画たちの再生回数がどんどん減っていくのを、もはや悔しいとも、なんとかしようとも思わないまま、惰性の配信が続いている。駄目だな、とわかっていながら、上がらないモチベーションをギリギリのラインで保ち続けるには、これしかない。
どうなりたいんだろう、私は、どうすればいいんだろう。
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