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第2話 現れた荒らし
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きっかけは、約半年前の私のゲーム配信だった。その頃登録者数が伸び悩んでいた私は、なんとか周りに追いつこうと流行のゲームなんかにしがみついていた。
その日やっていたのは配信サイトで大流行していたFPSゲームで、そういったゲームが苦手な私は画面酔いとも戦いながら、コントローラーを握っていた。
「いやー、うまくいかないねー」
画面には赤でくっきりと敗北の2文字が映っている。コメント欄にはいつものリスナーが『どんまいどんまい』『惜しかったよ』などと慰める言葉を書いてくれていた。
「周りが強すぎるんだよ! いや私が弱いのか、どっちだろ、どっちもか」
そんな自己完結をして、配信画面に目を落とす。同時視聴者数は50人と60人の間をうろうろしていた。
仮にも1500人の登録者がいるはずなのに、最近の配信はいつもこの調子だ。正直登録者が一番伸びたのはデビューしたときで、それから1年半経った今は全部の数字が右肩下がりになっている。唯一ありがたいのは、低評価数が増えてないことくらいか。
そんなことを思っていたら、今まで0だった低評価数が1になった。別にそれくらいは気に留めない。高評価をしてもらえるなら、低評価をされるときもあるだろう。こんなひどいゲーム配信をしているのだから尚更。しかし私が気になったのは、その直後に書き込まれたコメントだった。
『へたくそ』
設定されていない初期のアイコン、ユーザーネームは「あ」。そんなわかりやすい捨て垢からコメントがきた。
あーあ、と思わず言ってしまいたいのをぐっとこらえる。今まで見たこともないアカウントだから、適当なVTuberみんなにコメントを残しているんだろう。反応したら負けだ。
ゲームで負けたせいとごまかすようにため息をついて、
「じゃあもう一戦やったら終わりにしようかな!」
と何も気にしていないのを装ってにこにこ笑う。実際笑っているのは私ではなく、画面の中の絵なのだけれど。
私だけではなく、リスナーのみんなにもあのコメントは見えている。普段はそんなに早くないコメント欄が、そのコメントを流すためにいつもより動くのが嬉しくなった。
「『次こそは勝てる』? ほんとに言ってる? 信じるからね!」
コメント欄からはいったん目を離し、ゲーム内の戦闘に集中する。それでも気になってしまうもので、合間にちらちらとコメント欄を見てしまった。
「あ」は反応されないのが悔しいのかなんなのか、コメント欄から自分のコメントが消えると、また『へたくそ』と書き込んだ。いっそ連投してくれれば気軽にブロックできるのに、中途半端にコメントされるから、なんだかブロックしづらい。
それに、ここでブロックしたらなんだか負けた気がする。そもそも荒らしに勝つも負けるもないのだけれど。
ブロックしづらい理由は私にもあって、実際自分のプレイは下手くそなのだ。そういわれてしかるべきプレイだからこそ、なんとなく無視できない。実際、今は目の前のゲームに必死で正直コメント欄をいじる余裕がない。
そんなことを思っているうちに、画面にはまた敗北の文字が浮かんだ。
「あー! やっぱダメだった! 味方ごめんなー」
はあ、と大きなため息をついて椅子にもたれかかる。コメント欄にはさっきと同様に慰めの言葉が並んでいた。
「まあ、今日はこんなもんかな。みんな見守っててくれてありがとう、またそのうちやるね。
おつヨナ!」
コメント欄におつヨナの文字が並んでいくのを確認してから配信を切る。試合で負けてからは、あの荒らしがコメントをすることはなかった。それが余計に、「あ」がまるで私に向けて正論を言っているような気分を抱かせた。
その日やっていたのは配信サイトで大流行していたFPSゲームで、そういったゲームが苦手な私は画面酔いとも戦いながら、コントローラーを握っていた。
「いやー、うまくいかないねー」
画面には赤でくっきりと敗北の2文字が映っている。コメント欄にはいつものリスナーが『どんまいどんまい』『惜しかったよ』などと慰める言葉を書いてくれていた。
「周りが強すぎるんだよ! いや私が弱いのか、どっちだろ、どっちもか」
そんな自己完結をして、配信画面に目を落とす。同時視聴者数は50人と60人の間をうろうろしていた。
仮にも1500人の登録者がいるはずなのに、最近の配信はいつもこの調子だ。正直登録者が一番伸びたのはデビューしたときで、それから1年半経った今は全部の数字が右肩下がりになっている。唯一ありがたいのは、低評価数が増えてないことくらいか。
そんなことを思っていたら、今まで0だった低評価数が1になった。別にそれくらいは気に留めない。高評価をしてもらえるなら、低評価をされるときもあるだろう。こんなひどいゲーム配信をしているのだから尚更。しかし私が気になったのは、その直後に書き込まれたコメントだった。
『へたくそ』
設定されていない初期のアイコン、ユーザーネームは「あ」。そんなわかりやすい捨て垢からコメントがきた。
あーあ、と思わず言ってしまいたいのをぐっとこらえる。今まで見たこともないアカウントだから、適当なVTuberみんなにコメントを残しているんだろう。反応したら負けだ。
ゲームで負けたせいとごまかすようにため息をついて、
「じゃあもう一戦やったら終わりにしようかな!」
と何も気にしていないのを装ってにこにこ笑う。実際笑っているのは私ではなく、画面の中の絵なのだけれど。
私だけではなく、リスナーのみんなにもあのコメントは見えている。普段はそんなに早くないコメント欄が、そのコメントを流すためにいつもより動くのが嬉しくなった。
「『次こそは勝てる』? ほんとに言ってる? 信じるからね!」
コメント欄からはいったん目を離し、ゲーム内の戦闘に集中する。それでも気になってしまうもので、合間にちらちらとコメント欄を見てしまった。
「あ」は反応されないのが悔しいのかなんなのか、コメント欄から自分のコメントが消えると、また『へたくそ』と書き込んだ。いっそ連投してくれれば気軽にブロックできるのに、中途半端にコメントされるから、なんだかブロックしづらい。
それに、ここでブロックしたらなんだか負けた気がする。そもそも荒らしに勝つも負けるもないのだけれど。
ブロックしづらい理由は私にもあって、実際自分のプレイは下手くそなのだ。そういわれてしかるべきプレイだからこそ、なんとなく無視できない。実際、今は目の前のゲームに必死で正直コメント欄をいじる余裕がない。
そんなことを思っているうちに、画面にはまた敗北の文字が浮かんだ。
「あー! やっぱダメだった! 味方ごめんなー」
はあ、と大きなため息をついて椅子にもたれかかる。コメント欄にはさっきと同様に慰めの言葉が並んでいた。
「まあ、今日はこんなもんかな。みんな見守っててくれてありがとう、またそのうちやるね。
おつヨナ!」
コメント欄におつヨナの文字が並んでいくのを確認してから配信を切る。試合で負けてからは、あの荒らしがコメントをすることはなかった。それが余計に、「あ」がまるで私に向けて正論を言っているような気分を抱かせた。
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