自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。/自称悪役令嬢な妻の観察記録。

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自称悪役令嬢な妻の観察記録。3

自称悪役令嬢な妻の観察記録。3-3

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 具体的には、今まで美味しそうなお菓子を見れば、バーティア用に取っておこうかと呟いていた彼が、ミルマの分を確保するようになったり、手が空いている時に自主的に彼女の仕事の様子を見に行ったりする感じだ。
 クールガンは元々年下の兄弟が多く、見た目によらず面倒見がいいほうではあったが、数多くいる部下や仕事の後輩に比べても、かなり手厚く相手をしてあげているのは間違いないだろう。
 ……まぁ、当の本人は無自覚っぽいけどね。

「ん? 今日は皆、早く上がれるのか? 俺も早く上がれるのか? なら、鍛錬ができるな!!」

 クールガンの呟きに内心苦笑していると、中途半端に話を聞いていたらしいバルドが、嬉しそうにニカッと笑う。
 バルドは相変わらずブレないね。

「バルド、残念だけど、君は私の護衛だから私がここで仕事をしている間は仕事が続くよ」
「……そうか」

 私の言葉に肩を落とすバルド。
 しかし、バルドの仕事はあくまで通常業務であり、私が無茶ぶりをした結果ではないから、これは仕方ない。
 大体、今日の彼は昼からの勤務だから、他のメンバーと違い、午前中は自由に過ごしていたはずだ。

「ああ、そうだ。皆、この後、恋人をデートに誘うつもりならしばらくここにいるといいよ。多分そのうち……」
「……え?」

 私が指定した資料を取りに行こうと歩き出していたチャールズが振り返り、キョトンとした表情を浮かべる。
 一瞬遅れて、ネルトとショーンが私のほうを向き、クールガンが何かを予感したように溜息を吐いた。
 ちなみに、バルドは自分だけ早く上がれないとわかった時点で、こちらのことに興味を失ったようだ。
 ただ、護衛らしく何かの気配に気付いたのか、意識を扉に向けて少し警戒するような素振りを見せた。
 ――コッコッコッコンッ!!
 バルド以外の視線を受けて、私がニッコリと笑みを返すのと、高速のノックが部屋に響くのは同時だった。
 バルドが少し警戒しながらわずかに扉を開け、その先にいる人たちを確認する。

「殿下、女性陣が来たぞ」

 が、扉の向こうの人物が見知った相手だったことで、一気に警戒を解いて扉を開いた。
 ……おかしいな。普通、こういう時には、来訪者が誰かを私に伝えて、入室の可否を確認するものなんだけどな。
 まぁ、バルドだし仕方ないか。
 それに、さすがのバルドも誰に対してもこういう対応をしているわけではないしね。

「殿下、失礼致しますわ!!」
「セ、セシル様ぁぁぁ」

 最初に執務室に入ってきたのは、ジョアンナ嬢だった。
 その腕には、私の愛しい妻……バーティアの腕がしっかりと確保されており、半ば引っ張られるような形で連れてこられたことが容易に想像できる。
 ちなみに、ジョアンナ嬢に抱え込まれていないほうの腕には、クロがキョトンとした表情で抱き付いていた。……あれは、ただバーティアにくっつきたくてくっついているだけで、特に意味はないだろう。
 いつものことだ。

「「「失礼致しますわ」」」

 続いて入ってきたのは、アンネ嬢、シーリカ嬢、シンシア嬢だ。
 バーティアは一人オロオロとしているけれど、他のメンバーは笑顔なのに妙な迫力がある。

「殿下、人払い……は必要なさそうですわね。扉だけ閉めさせていただきますわ」

 入室してすぐに部屋の中を見回し、私と側近たちしかいないことを確認したジョアンナ嬢は、ニッコリと笑みを浮かべたまま、スッと片手を上げた。
 すると、後ろから付いてきていた他の令嬢たちが心得たとばかりに扉を閉め、鍵をかける。
 扉の外には、この部屋を守る護衛が、状況が理解できず困惑した表情のまま立っていた。それ以外にバーティア付きの侍女たちもいたけれど、令嬢たちの行為を咎める者は誰もいなかった。
 むしろ、侍女たちに至っては「よくわからないけれど、これで全部お任せできる」とでも言うようなホッとした表情で、閉まる直前に綺麗なお辞儀をしていた。

「ジョアンナ嬢? それにバーティア様にアンネ嬢たちまで……。え? 何これ? 怖いんだけど」

 自分が向かおうとしていた扉から勢いよく入室してきた女性陣に、状況がわからずポカンッとしていたチャールズが、我に返ってボソッと呟く。
 若干頬が引きっているように見えるのは、きっと見間違いではないだろう。

「ジョアンナ嬢たちにティアまで。一体どうしたいんだい? ……ああ、チャールズ。心配はいらないよ。仕事に『直接は』関わらない話だから」

 頬をピクピクと引きらせながらも笑みを浮かべているジョアンナ嬢を迎え入れつつ、怯えているチャールズにフォローを入れる。

「いや、なんで『一体どうしたんだい?』とか尋ねておいて、仕事とは関係ないって宣言できるんですか? それ、内容がわかっている前提ですよね? それに、さっきの口ぶりだと、女性陣がここに来ることも、わかってましたよね!?」
「わかってはないよ。予測していただけで。ここに彼女たちが来た理由も推測でしかないしね」

 どうやら、私のフォローはお気に召さなかったらしく、チャールズが子犬のようにキャンキャンと私に噛みついてくる。
 君、上級貴族なんだからそんな風にキャンキャン吠えちゃいけないよ。
 ちゃんとしつけが行き届いた犬のように、吠えるべき場所だけ吠えないとね。

「セシル殿下、ここに私たちが来ることを予測なさっていたのなら、私たちが言いたいこともわかりますわよね?」

 笑顔にさらに圧を込めてくるジョアンナ嬢。
 それに対して私は「さぁ?」と首を傾げてみせる。

「……白々しい! セシル殿下、来週からバーティア様と一緒に精霊界に出かけるとは一体どういうことですの!?」

 笑顔を取りつくろうのをやめて、ジョアンナ嬢がギッと私を睨んでくる。
 常にないジョアンナ嬢の剣幕に、捕獲されているバーティアの体がビクッと跳ねた。
 それと同時に、男性陣がギョッとした様子で一斉に私を見る。
 やれやれ。たかが精霊界に旅行に行くというだけで、何をそんなに慌てているのかな。

「ジョアンナ嬢、君らしくもない。落ち着いたらどうだい? ティアが怯えているじゃないか」
「だまらっしゃ……お黙りください! 久々にお友達同士で集まれたお茶会で、なんの気なしにバーティア様に『来週からのお出かけはどこに行かれますの?』とお聞きしたら、『クロたちの実家のある精霊界ですわ!』と暢気のんきに答えられた時の私たちの気持ちが殿下にわかりまして!? 思わず、飲みかけていたお茶を噴き出してしまいそうになりましたわよ!!」

 ……ジョアンナ嬢、さすがに王太子に対して『だまらっしゃい』は駄目だと思うよ? それに、言い換えても意味はほぼ変わってないからね?
 それに、「噴き出しそうになった」なら、実際に噴き出してはいないんだからいいじゃないか。

「ちょっ、ちょっと、待って! 殿下、来週からのお出かけって、精霊界ってどういうことですか!? 俺たち、何も聞いてないんですけど!?」

 ジョアンナ嬢に返事をしようとしたら、それより早くチャールズが喚き始める。
 それに合わせるように、私の側近たちも驚きに目を見開き、互いの顔を見て確認するように頷き合っている。

「それはまぁ、言っていないからね」

 ジョアンナ嬢たちにはバーティアの仕事を調整してもらう関係で、少し前にしばらく出かけることは伝えておいた。
 表向きはバーティアの実家であるノーチェス侯爵家に行くことにしてあるけれど、私用でバーティアと一緒にこっそりと出かけるのだと話したら、彼女たちは夫婦水入らずの旅行だと思ったらしい。
 私たちがこっそりと出かけることはくれぐれも内密にするように釘を刺しておいたから、彼女たちも人目のあるところでは話を聞くことができず、今日友人同士の私的なお茶会をするまで話題に出せずにいたのだろう。
 そして、今日のお茶会で人払いをして、気兼ねなく話ができるようにしてから、やっとバーティアに話を聞いた結果、行き先が精霊界であることを知ったに違いない。
 ちなみに、チャールズたちには……そのうち知ることになるかなと思って私からは特に何も言っていない。
 私のほうは、仕事のスケジュール管理も割り振りも、私が主にやっているから、自分で調整すれば問題ないしね。
 ただ、私たちが結婚してから、新婚旅行やリソーナ王女の結婚式出席などで城を空けることが多く、彼らに負担がかかっているのはわかっていた。だから、精霊界行きが決まってからはせめて私がここにいる間はと思い、彼らの仕事量を減らしておいたけど。

「さっきの、自分がいる間は俺たちをねぎらう的な言葉は一体……あっ! だから『いる間は』って言ってたんですね!? やっぱりわなだったぁぁぁ!!」

 チャールズが頭を抱えてしゃがみ込む。
 そんな彼の肩に、私はソッと手を置いた。

「チャールズ、わなというのはめるものだ。つまり、まらない可能性もある。でもこれは、君たちがどんなことをしても変わらない未来、要するに決定事項だ。だからわなとは言わないんだよ?」

 満面の笑みで伝えると、チャールズは愕然がくぜんとした後、頭を掻きむしった。

「屁理屈だぁぁ!! じゃあ、なんでもっと早く言っておいてくれなかったんですか!? そうしたら心構えだってできるじゃないですか!!」

 チャールズの訴えに、その場にいた全員が私に視線を向ける。
 皆が非難するような目をしているけれど、バーティアだけは何をどうすればいいのかわからず、オロオロしている。
 もしかしたら、状況自体が未だに呑み込めていないのかもしれない。

「それは……少し前に、ティアが友人にサプライズをしたら喜ばれたと言っていたから、たまには私もしてみようかなと思ってね。ちょっとした遊び心だよ」
「バーティア様の心のこもった優しくて可愛いサプライズとそれを一緒にしないでくださいませ!!」
「殿下、それは遊び心ではなく、人で遊ぼうとしただけですよね!?」

 ジョアンナ嬢とチャールズが同時に叫ぶ。
 うん、チャールズの主張は間違ってないよ。
 すべてが明らかになった時の君たちの反応が見たくて、わざと黙っていたからね。
 反応としては……おおむね予想通りかな。
 チャールズはキャンキャンと文句を口にして、クールガンは淡々と受け入れる。
 ショーンは驚きつつも、私のいない間自分は大丈夫かと不安がり、ネルトはどこか諦めたような目をしている。
 バルドは……特に変わらない。
 まだ状況が掴めていない様子で「ん? どうした?」と首を傾げている。
 できれば、彼らにもバーティアのように……とまでは言わないけれど、もう少しバラエティに富んだ反応をしてほしかったな。

「まぁ、でも、早めに知っていても知らなくても、やることもスケジュールも変わらないし、大丈夫だよ。私が不在の時の仕事の割り振りはこちらで既に決めてあるし、私たちが出かける日までは君たちがゆっくりできるように仕事量も減らす形で調整してある。さすがの私も、こうちょこちょこと城を空けることに申し訳なさを感じるからね」
「全然違いますから!! それがわかっていたら、仕事が少ない理由がなんなのかわからず戦々恐々としてなんかいないで、思いっきり自由な時間を堪能してましたから!! ……ああ、なんでもっと早く『早く帰れるなら何も気にせず思いっきりプライベートを堪能してやろう』って割り切って、アンネ嬢とデート三昧ざんまいしなかったんだ、俺は……」

 再びうつむいてしまったチャールズにアンネ嬢が近付き、「残された時間を楽しみましょう」と慰めるように声をかける。
 うん。アンネ嬢はチャールズにはもったいないくらい、いい女性だね。
 まぁ、私のバーティアには敵わないけどね。

「私のことをちゃんと信用しないから、こういうことになるんだよ」
「それは殿下の日頃の行いのせいですよね!!」
「ん? なんのことかな?」

 落ち込みつつも律儀に私の言葉に反応を返すチャールズにニッコリと微笑むと、彼は再びガックリとうなだれた。
 そんな彼を周囲は気の毒そうに見つめている。
 まぁ、男性陣は若干チャールズ同様にガックリしている感じもするけれど。

「さて、じゃあ、皆揃ったところで、今後のことについて話そうか」

 会話が一段落したところでパンッと手を打つと、皆は少し恨みがましそうな視線を私に向けつつも、渋々席に着き始める。
 私の執務室は何かと人が集まるから、私の側近やバーティアの友人が全員集まっても座れるだけの席がある。
 未だにオロオロとしているバーティアを手招きし、ゼノに椅子を用意させて私の隣に座らせる。
 私は執務机に座り、その隣にバーティア、接客時に使う応接セットのソファーに女性陣とショーン、チャールズ、ネルト。バルドは護衛中だから扉の脇に立ったまま。クールガンは私の執務を手伝う時に使う、自分用の仕事机にそのまま座っている状態だ。
 今回の話の中心になるゼノとクロは、バーティアの斜め後ろに立ち、少々気まずそうな顔をしている。
 あ、気まずそうな顔をしているのはゼノだけだったね。クロはどこか機嫌良さそうに尻尾を振っている。

「ああ、チャールズ。仕事はさっき言った通りだから、もうあれだけでやって帰っても……」
「この状況で、はいそうですかって帰れると本当に思いますか!?」
「……まぁ、無理だろうね」

 少し冗談を言ったらジトッと睨まれた。
 王太子に向ける視線ではないけれど……まぁ、予想通りの反応だから特に何か言う気はない。あんまりからかいすぎるのも良くないし。

「冗談はさておき。女性陣は既にティアから話を聞いているみたいだけど、私たちは来週からクロとゼノの里帰りについていくことになったから。目的としては、クロとゼノはお互いの両親に結婚の挨拶をしに行くこと。私たちはついでについていって彼らの契約者として挨拶してくる予定だよ」

 要点をまとめて話すと、私とバーティアの側近兼友人たちはなんとも言いがたい表情を浮かべる。
 今言った目的以外にも、折角行ったことがない場所に行くのだから、あちこち見て回れたらいいなと思っているけれど、わざわざ言う必要はないだろう。

「セシル殿下、まるで普通に友人の里帰りについていくみたいな言い方をされていますけれど、クロとゼノはその……精霊なんですわよね? そして、精霊のお二人の実家ということは当然行かれるのは精霊界なのですわよね?」

 微妙な空気が流れる中、ジョアンナ嬢が確認するように尋ねてくる。
 ちなみに、ゼノとクロが精霊であることは、既にここにいるメンバーには伝えてある。
 学生の間は黙っていたが、これから先、私たち夫婦のフォローをしていくであろう彼らには、私たちに契約精霊がいることを知っておいてもらったほうが色々と好都合だったから、私の卒業式を機に話しておいたのだ。
 最初は驚いていた彼らだけれど、卒業式に光の精霊であるピーちゃんが暴れた現場を見ていることもあって、意外とすんなりとその存在を受け入れた。私の側近たちやバーティアの友人たちは将来、国の中枢を担っていく者たちであるため、国の中でも一部の人間にしか伝えられていない精霊について、事前に教えられていたしね。
 ……まぁ、話した時に「お二人ですもんね。精霊の一人や二人、契約してそうですよね」と諦観ていかんにも似た視線を向けられたけど。
 今では、精霊、人間という枠組みに囚われず、お互いに協力しながら私たち夫婦を支えてくれている。
 この辺は、多分クロもゼノもあんまり精霊っぽい感じがしないことも影響していると思う。
 常日頃、彼らはメイドと侍従に擬態して過ごしており、わかりやすい形で精霊の力を誇示するようなこともなかった。
 要するに、ずっと精霊の力にほぼ頼らずに生活していたため、それが身に付いており、「精霊なんだ」と感じさせる言動は日常生活の中ではほとんどないのだ。
 そんな精霊らしさを感じさせない生活を送っている彼らを見て、いつまでも「精霊なんだ」と意識して接し続けることは難しい。それに彼らが精霊であることを意識してしまうと、それによりバレやすくなってしまうため、好ましくない。
 だから私の側近も、バーティアの友人も、ゼノやクロを精霊として意識せず接するように自然となっていったのだ。

「ああ、もちろんだよ。二人は精霊で、私たちが行くのは精霊界だ」
「……バーティア様に危険はありませんの?」

 チラッとクロとゼノを見つつ、ジョアンナ嬢が神妙な顔で尋ねてくる。
 きっと精霊界という未知の場所に行くことを案じているのだろう。
 その気持ちはわからなくもないからいいんだけど、なんでそこでえてバーティアだけの心配をするのかな? 私も一緒に行くって知っているよね?

「確かに、精霊の力は人が立ち向かえるようなものではないからね。怒らせれば危険もあるだろうけれど……普通にしていれば大丈夫だよ。……そうだろう、ゼノ?」

 私が話を振ると、ゼノが頷く。

「今回は、入国の際に私の伯父である精霊王のところに寄って許可をもらう予定なので、大丈夫です。その許可があれば、他の精霊は基本的に手出しできませんから。それに、私も一応精霊王の血筋の高位精霊で、クロも闇の高位精霊……しかも、どうやら闇の王の娘らしいので」
「えぇ!? クロは闇の王様の娘……お姫様だったんですの!?」

 私たちのやり取りを珍しく静かに聞いていたバーティアが、驚きの声を上げる。
 他のメンバーも多かれ少なかれ驚いた様子でクロに視線を向けている。
 私は……なんとなくそうかなと思っていたため、あまり驚くことはなかった。

「――♪」

 皆の視線が自分に向けられたのを感じたクロは、腰に手を当てて得意げな表情でブンッと一度尻尾を振った。
 多分、言葉にすれば「どうだ! 凄いだろ!」といった感じだろう。
 偉ぶりたいというよりは、ノリでやっているね。

「そういえば、精霊界について今まであまり詳しく聞いたことがなかったね。ついでだから、その精霊王や闇の王たちの立場、関係性について説明してもらってもいいかい?」

 はっきり言って、クロがバーティアを自分の里帰りに連れていきたいと言った時点で、私はこの精霊界行きについてそこまで心配していない。
 バーティア大好きなクロが、バーティアを危険な場所に連れていこうとするわけがないからだ。
 ……まぁ、時々予想外の行動を取ることがあるバーティアが暴走しないかという心配はあるけどね。
 その心配は、精霊界に限らず、どこにいても起こりうるたぐいのものだから仕方ない。
 それに、私がついていく以上、いくらでもフォローはできるから問題ない。

「……っ! ……っ。……っ!!」
「…………ねぇ、クロ。この説明は私にさせてくれるかな? さすがに身振り手振りだけじゃ、細かな部分まで伝えるのは大変だろう?」

 私が説明を頼んだことに対して、「仕方ないわね」といった感じを出しつつも意気揚々いきようようと身振り手振りで説明し始めるクロ。それにゼノが苦笑いを浮かべ、ストップをかける。
 クロは「え~」と不満そうな表情になったけれど、説明し始めの段階で意外と伝えるのが大変そうだというのは感じたらしく、いさぎよく説明役をゼノに譲ってバーティアのところに行き、膝の上に座ってゼノの話を聞く態勢になった。
 バーティアも慣れたもので、笑顔でそれを受け入れて「お姫様なんて知りませんでしたわ! 凄いですわね」とクロに話しかけている。

「それでは私のほうから説明させていただきますね。あ、一応精霊についての情報は人間界では広めないでくださいね。時々鬱陶うっとうしい人間が現れたり、そういうのに弱い精霊がいいように使われてしまったりすることがあるので」

 ここにいるメンバーはそのことを重々承知しているが、一応念のためとでもいうように前置きしてからゼノが説明を始めた。
 ゼノの話によると、精霊界はすべての精霊の王である精霊王の他に、火、水、風、土、光、闇のそれぞれの属性の王がいて、各々が自分の領域を治めているらしい。
 おそらく私たちの国でいうと、精霊王が国王で、各属性の王が領主のような感じなのだろう。
 ちなみに、精霊王は『調和』を司っており、精霊の中で唯一、すべての属性の力を持っている。また、精霊王の一族もその『調和』の力を大なり小なり持っていて、全属性とまではいかないが、複数の属性を持っているようだ。
 それ以外の精霊は、必ず一つの属性になるらしい。

「え? それでしたら、精霊王の一族以外の精霊が他の属性と結婚したら、その子供はどうなりますの?」

 バーティアが首を傾げながら尋ねる。
 他のメンバーは、精霊というものが存在することは知っていても、自分たちとはかけ離れた存在のせいかイメージがしづらいらしく、ゼノの説明をなんとか理解しようと必死に頭を回転させている。
 ……きっと、バーティアが精霊や精霊界という存在をすんなりと理解できているのは、彼女の前世の知識が手助けしているからだろうな。

「その場合はどちらかの属性にかたよります。多少性質のようなものを受け継ぐことはありますが、属性は必ず一つです」

 精霊とは、自然の力そのもののような存在だ。
 人間のように、父と母の血を受け継いで子供が生まれてくるのではなく、父母の『力』が合わさり、そこに新たな人格が生まれたという感じなのだろう。
 そして、その受け継いだ力は、生まれた子の適性によって両親のうちのどちらかの属性に振り分けられる。きっとそういうイメージなのだと思う。
 さらに、ゼノの話によれば、精霊とは力そのものであるため、親がいなくても自然の中で一定以上の力が集まれば低位の精霊が生まれることもある。一方で、低位の、力の弱い精霊同士ではなかなか子が生まれないらしい。


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