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駿と光一の高校生時代その2
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「ぷはぁ~! 生き返る~!」
風呂上がりに牛乳を1杯。毎日のルーティンだけど毎日飲んでも飽きないんだよなぁこれが。ついでに身長も伸びてくれたら最高なのに。
自室に戻ると火照った体もそのままにベッドに勢いよく倒れ込む。ふかふかの布団に全身を沈めると途端に眠気に包まれた。今になっておれはこれまで気を張り続けて疲れていたのだと理解する。
うつ伏せで枕に顔を埋めながら今日のことをぼんやりと振り返る。
びっくりしたなぁ。駿がゲイだったなんて……全く気が付かなかった。そりゃあそうか、普通みんな隠すもんな。本当に身近にいるもんなんだなぁ。もしかしたら他にもいるのかな? いるかもなぁ。
駿のやつ、最初何ともないみたいな顔しやがってさ。本当は怖くて震えてたんだよな。おれに嫌われたらどうしようって。だから逃げようとしたんだよな。あいつ、いっつもクールで弱味とか見せようとしないけど、強がってるだけなんだよな。本当は結構傷付きやすいし臆病なやつなんだ。
「大丈夫だよ、駿。おれたち、親友だろ……」
眠気がピークまで達したおれはそのまま意識を手放した。
***
***
「「振られた!?」」
「声デケーよバカ!!」
「なになに? 誰が振られたって?」
アホ二人が大声をあげたせいで部室にいた全員がおれの方を向く。
「光一がカノジョに振られました~!」
「こら! 言いふらすな!」
「まじかよ、まだ3ヶ月とかだろ!?」
「まあ光一にしてはよく持ったほうだろ」
「ちょっと先輩どういうことっすかそれー!」
同期や先輩たちに遠慮なしに冷やかしや励ましの声をやんややんやと浴びせられる。傷心中のおれはなんとも複雑な気持ちでそれらを受け取る。
「なんか最近様子変だと思ってたんだよな~」
「いっつもニヤニヤ惚気てたもんな」
「してねぇっての!」
いや、よく考えればしてたかもしれない。少なくとも初めの頃はマウントを取りまくっていたような気がする。
「なんで振られたの?」
「……子供っぽすぎるって」
「あっはっは!」
「腹いてぇ~!」
「もう~~! 結構へこんでるんすよ!」
顔が沸騰しそうなくらい熱い。絶対明日には広まるやつだこれ。あ~最悪だ。
「佐々島を見習って大人になるんだな」
「俺っすか」
「つーか佐々島この前告られてたろ」
「マジ!?」
話題がおれから駿の方へ一瞬で移る。高校生男子は他人の恋愛話に敏感だ。駿は困ったような顔でおれの方をちらりと見る。あー、あれは助けを求めてる顔だな。しかし申し訳ないけどおれもその話には興味がある。
「……断りました」
駿は諦めたように呟くと「えー!」と部員たちはこれまたオーバーな反応を見せ「どうして」と追及する。
「俺、そういうの興味ないんで」
「ヒュー!」
「硬派だね~」
「こういうのが結局一番モテんだよな~」
流石駿と言わんばかりに一同湧き上がり制服に着替え終わった部員たちはぞろぞろと部室を後にする。おれもそれに続こうとすると駿に肩を叩かれた。
「ん?」
「ちょっといいか」
「何?」
「この後話がしたい」
「お、おお……?」
「おーい、鍵閉めるぞー」
先輩に急かされすぐに部室を出る。職員室に用があるらしい駿は「ついでに鍵を返却します」と先輩から預かり、おれもそれに付いていった。
「失礼します。サッカー部の佐々島です。鍵を返却しに来ました。」
駿はよく鍵の返却当番を名乗り出ることが多いためか慣れた様子で鍵を戻すと一直線に職員室を後にする。
「あれ? 用があるんじゃなかったの?」
「用があるのはお前だ。こうすれば二人になれると思って」
「なるほど……それで、おれに用って?」
「ここじゃ話しづらい。いつもの河川敷に行こう」
駿と初めてサッカーをした河川敷。あれから時々あそこで二人で遊んだり駄弁ったりしていておれらにとって特別な場所になっている。きっと大事な話があるんだろうと理解して特に何も言わず付いていった。
10月の半ばになると残暑も少なくなり夜はそこそこ冷える。夏場は部活終わりでもギリギリ夕日が顔を覗かせていたけれど、今はすっかり日が暮れて街灯の明かりを道標に進む。
この時間の河川敷には人気がなくゆっくり話をするにはぴったりだ。おれたちは堤防の斜面を途中まで降りるとバッグを枕代わりにして芝生に寝転んだ。
「くう~! 部活疲れたなぁ」
「ああ、早く風呂入りたい」
「寄り道しといて?」
ははっと二人して笑う。駿は多くは語らないけど多分おれの事を気遣ってくれようとしてるんだと思った。
「あのさ、俺別にそこまでへこんでないぞ?」
「! ……さっき、結構へこんでるって言ってただろ 」
「いやまあ言ったけど。そこまで深刻に受け取るほどでもないっていうか……」
「そうなのか。でもいい機会だし話そう」
駿は結構真面目というか、体育会系のノリがあんまり合わないんだろう。茶化して笑って流すのもある種の優しさだとおれは思うけど、こうして真剣に向き合ってくれる友達がいるのもありがたいと思う。
「二人が付き合ったのって確かあの花火大会の日だったっけ」
「うん。あの時聡志と雄馬めっちゃキレてたよなぁ この裏切り者~とかいって」
「まあ俺も内心思ってた」
「マジ!?」
恋愛に興味のない駿はどうでもいいと思ってそうだったから意外だ。それにあの時、駿がおれを置いて帰ったから一緒になれたわけだし応援してくれてるもんだと思ってた。
「でも駿がアシストしたから二人きりになれたんだぜ?」
「そりゃ邪魔してやろうとかまでは普通思わないって」
「あいつらならするけどな~」
「ああ……しそうだ……」
駿は遠くを見つめて深く頷いた。やっとあいつらとの付き合い方が分かってきたようで一安心だ。
「てか駿も周りに恋人できたら嫉妬するんだな~意外」
「嫉妬というか……俺はただお前と花火が見たかった」
「え?」
「い、いや……折角皆で来たのに一緒に思い出作れなかったのが残念っていうか……」
「……ははっ。駿って結構かわいいとこあるよな~!」
「笑うなよ」
駿は照れ隠しにおれの頭を押さえつけてわしゃわしゃと揺らす。暗くても顔が赤くなってるのが分かる。
「毎年やってるし今度は一緒に見ようぜ」
「今度こそな」
遠くで道路を走る車の音が響く。人通りが少ないからか虫の鳴き声や風の音など生活音が心地よく耳に届く。
「光一と初めてサッカーしたの、ここだったよな」
「ん? ああ、そうだな~。そこの橋の下でいっぱい遊んだよな」
風呂上がりに牛乳を1杯。毎日のルーティンだけど毎日飲んでも飽きないんだよなぁこれが。ついでに身長も伸びてくれたら最高なのに。
自室に戻ると火照った体もそのままにベッドに勢いよく倒れ込む。ふかふかの布団に全身を沈めると途端に眠気に包まれた。今になっておれはこれまで気を張り続けて疲れていたのだと理解する。
うつ伏せで枕に顔を埋めながら今日のことをぼんやりと振り返る。
びっくりしたなぁ。駿がゲイだったなんて……全く気が付かなかった。そりゃあそうか、普通みんな隠すもんな。本当に身近にいるもんなんだなぁ。もしかしたら他にもいるのかな? いるかもなぁ。
駿のやつ、最初何ともないみたいな顔しやがってさ。本当は怖くて震えてたんだよな。おれに嫌われたらどうしようって。だから逃げようとしたんだよな。あいつ、いっつもクールで弱味とか見せようとしないけど、強がってるだけなんだよな。本当は結構傷付きやすいし臆病なやつなんだ。
「大丈夫だよ、駿。おれたち、親友だろ……」
眠気がピークまで達したおれはそのまま意識を手放した。
***
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「「振られた!?」」
「声デケーよバカ!!」
「なになに? 誰が振られたって?」
アホ二人が大声をあげたせいで部室にいた全員がおれの方を向く。
「光一がカノジョに振られました~!」
「こら! 言いふらすな!」
「まじかよ、まだ3ヶ月とかだろ!?」
「まあ光一にしてはよく持ったほうだろ」
「ちょっと先輩どういうことっすかそれー!」
同期や先輩たちに遠慮なしに冷やかしや励ましの声をやんややんやと浴びせられる。傷心中のおれはなんとも複雑な気持ちでそれらを受け取る。
「なんか最近様子変だと思ってたんだよな~」
「いっつもニヤニヤ惚気てたもんな」
「してねぇっての!」
いや、よく考えればしてたかもしれない。少なくとも初めの頃はマウントを取りまくっていたような気がする。
「なんで振られたの?」
「……子供っぽすぎるって」
「あっはっは!」
「腹いてぇ~!」
「もう~~! 結構へこんでるんすよ!」
顔が沸騰しそうなくらい熱い。絶対明日には広まるやつだこれ。あ~最悪だ。
「佐々島を見習って大人になるんだな」
「俺っすか」
「つーか佐々島この前告られてたろ」
「マジ!?」
話題がおれから駿の方へ一瞬で移る。高校生男子は他人の恋愛話に敏感だ。駿は困ったような顔でおれの方をちらりと見る。あー、あれは助けを求めてる顔だな。しかし申し訳ないけどおれもその話には興味がある。
「……断りました」
駿は諦めたように呟くと「えー!」と部員たちはこれまたオーバーな反応を見せ「どうして」と追及する。
「俺、そういうの興味ないんで」
「ヒュー!」
「硬派だね~」
「こういうのが結局一番モテんだよな~」
流石駿と言わんばかりに一同湧き上がり制服に着替え終わった部員たちはぞろぞろと部室を後にする。おれもそれに続こうとすると駿に肩を叩かれた。
「ん?」
「ちょっといいか」
「何?」
「この後話がしたい」
「お、おお……?」
「おーい、鍵閉めるぞー」
先輩に急かされすぐに部室を出る。職員室に用があるらしい駿は「ついでに鍵を返却します」と先輩から預かり、おれもそれに付いていった。
「失礼します。サッカー部の佐々島です。鍵を返却しに来ました。」
駿はよく鍵の返却当番を名乗り出ることが多いためか慣れた様子で鍵を戻すと一直線に職員室を後にする。
「あれ? 用があるんじゃなかったの?」
「用があるのはお前だ。こうすれば二人になれると思って」
「なるほど……それで、おれに用って?」
「ここじゃ話しづらい。いつもの河川敷に行こう」
駿と初めてサッカーをした河川敷。あれから時々あそこで二人で遊んだり駄弁ったりしていておれらにとって特別な場所になっている。きっと大事な話があるんだろうと理解して特に何も言わず付いていった。
10月の半ばになると残暑も少なくなり夜はそこそこ冷える。夏場は部活終わりでもギリギリ夕日が顔を覗かせていたけれど、今はすっかり日が暮れて街灯の明かりを道標に進む。
この時間の河川敷には人気がなくゆっくり話をするにはぴったりだ。おれたちは堤防の斜面を途中まで降りるとバッグを枕代わりにして芝生に寝転んだ。
「くう~! 部活疲れたなぁ」
「ああ、早く風呂入りたい」
「寄り道しといて?」
ははっと二人して笑う。駿は多くは語らないけど多分おれの事を気遣ってくれようとしてるんだと思った。
「あのさ、俺別にそこまでへこんでないぞ?」
「! ……さっき、結構へこんでるって言ってただろ 」
「いやまあ言ったけど。そこまで深刻に受け取るほどでもないっていうか……」
「そうなのか。でもいい機会だし話そう」
駿は結構真面目というか、体育会系のノリがあんまり合わないんだろう。茶化して笑って流すのもある種の優しさだとおれは思うけど、こうして真剣に向き合ってくれる友達がいるのもありがたいと思う。
「二人が付き合ったのって確かあの花火大会の日だったっけ」
「うん。あの時聡志と雄馬めっちゃキレてたよなぁ この裏切り者~とかいって」
「まあ俺も内心思ってた」
「マジ!?」
恋愛に興味のない駿はどうでもいいと思ってそうだったから意外だ。それにあの時、駿がおれを置いて帰ったから一緒になれたわけだし応援してくれてるもんだと思ってた。
「でも駿がアシストしたから二人きりになれたんだぜ?」
「そりゃ邪魔してやろうとかまでは普通思わないって」
「あいつらならするけどな~」
「ああ……しそうだ……」
駿は遠くを見つめて深く頷いた。やっとあいつらとの付き合い方が分かってきたようで一安心だ。
「てか駿も周りに恋人できたら嫉妬するんだな~意外」
「嫉妬というか……俺はただお前と花火が見たかった」
「え?」
「い、いや……折角皆で来たのに一緒に思い出作れなかったのが残念っていうか……」
「……ははっ。駿って結構かわいいとこあるよな~!」
「笑うなよ」
駿は照れ隠しにおれの頭を押さえつけてわしゃわしゃと揺らす。暗くても顔が赤くなってるのが分かる。
「毎年やってるし今度は一緒に見ようぜ」
「今度こそな」
遠くで道路を走る車の音が響く。人通りが少ないからか虫の鳴き声や風の音など生活音が心地よく耳に届く。
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