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駿と光一の高校生時代その2
花火大会に行こう【前編】
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日本人の成人男性の平均身長は170cmほどらしい。180cm超えともなると数%しか存在しない。そしてその数少ない超高身長のうち、ムキムキに鍛えている男の割合は……更にその上ゲイである割合は……考えるだけで虚しくなり思考をシャットダウンする。
俺は自分より背がでかくガタイの良い男がタイプだ。中学の時は体育教師に惚れることもあったが三年生になる頃には悲しいことに背を追い越してしまった。無駄に身長が伸び続けるせいでタイプの幅がどんどん狭くなっていってしまう。背が高いことで得をすることも多いが、タイプの男が見つからない問題と何かと目立ちがちなことは悩みの種だ。
欲求不満の解消のため画面をスクロールしてオカズを漁る。一人暮らしだと気兼ねなくオナニーができるのは良い点だ。ただ最近はそれもマンネリ化してしまい全く捗らない。
「なんか新しい性癖でも開拓するか」
そう思った時にふと頭の中に光一の顔が浮かんだ。性のイメージとは対極に位置するちんちくりんの裸を想像すると、なんだか悪いことをしている気分になる上に全く唆られない。顔はイケるがあの身体はタイプと正反対すぎて流石になぁと頭を横に振る。まあ友達に対して性的に興奮しないというのはむしろありがたいことだ。
そんなことを考えていると完全に気分が変わってしまったので今日は諦めてさっさと寝ることにする。
と、思った瞬間スマホに軽快な通知音と共にメッセージが届いた。誰からだろうと一応考えはするものの、俺と個人的にチャットのやり取りを交わす相手など親を除けば一人しかいないと分かっている。
画面を開くとサッカーボールを蹴る足のアイコンが目に入る。案の定相手は朝日光一だった。ついさっきまで邪な想像をしていたせいで無駄に気まずい気持ちになってしまう。
『しゅんー、来週の日曜花火大会行かね?』
「花火大会?」
そういえば隣街では例年かなりの規模の花火大会があるらしい。家と高校の往復しかしていないためどんなところなのかはよく知らない。教室でその話で盛り上がっていたところから察するに恐らくクラスメイトも一緒に誘っているのだろう。
まあでもイベント事ならむしろみんなと距離を縮めて仲良くなるチャンスでもあるし、ここは積極的に参加するべきだろう。なにより花火大会は今まで一度も行ったことがないし興味があった。
「『いいよ』……っと」
『おっけ~! また連絡するね』
「返信はや」
鬼の返信速度に驚くも、いやそういう俺もすげー返信早かったなと思い返して一人くすくすと笑う。来週に一つ楽しみができたことで今日は気分良く眠れそうだ。
***
「な、なんだこれ……!?」
「ん? どうしたー佐々島」
眼前に広がる光景に圧倒されて開いた口が塞がらない。どこを見ても人、人、人。テレビでしか見たことのない人口密度と喧騒に視界が揺れ飲み込まれそうになる。浴衣を着飾る若者や家族連れ、部活終わりの学生に年配の方まで。老若男女が提灯の赤い光に照らされながら屋台を巡り賑わっている。
「ここは東京か……?」
「いや神奈川だけど」
「花火大会ならどこでも混むだろ」
「そ、そうか……」
田舎の方とは言えどもやはり神奈川、この程度の人混みでは動じないというわけか。狼狽えてしまった自分が恥ずかしい。
冷静に努めようとするも波に攫われるような感覚に襲われそわそわと体が揺れる。
「にしてもあちーな~」
「こんだけ人がいたらな」
集まった面子は光一、中山、高橋のいつもの3バカにクラスメイト4人が加わった計8名。しかし人が多すぎてこれだけの人数での団体行動は難しいだろう。結局仲の良い4人ずつに分かれて動くことになりそうだ。光一が号令をかけると待ちきれないといった様子でせっせと進んでいく。
「よーし回るぞー! りんご飴食おうぜ!」
「おいおいお子様は手繋がないとはぐれちゃうぞー」
「誰がお子様だ!」
そう勢いよくツッコミながら人の波に混ざると一瞬でその姿は埋もれて彼方へ消えた。あまりにも綺麗にいなくなってしまったのが面白くて申し訳ないが笑ってしまう。
「ほら言わんこっちゃない」
「た……けて…………!」
「なんか叫んでるな」
「佐々島見える?」
「えー……あ、2つ先の屋台のとこ」
背伸びをして目を凝らすと小さな手をぶんぶん振る男が辛うじて見えた。
「全く世話の焼ける子供だぜ」
「……お前ら慣れてんな」
「あいつ去年もはぐれたからな」
「学習しねぇよな」
楽しそうに愚痴をこぼす二人に親近感が湧く。あいつには振り回されても何故だか悪い気分にはならないのだ。人波に揉まれながら光一の跡を辿り無事回収する。光一は叱られた子犬のようにしょんぼりとうな垂れている。
「すみませんでした……」
「佐々島先生と手繋いでろ」
「誰が引率の先生だ。……普通にリュックの紐でも掴んでくれ」
「はい……」
光一は言われるがまま俺のリュックをきゅっと掴む。本当にこいつ16歳か? 10歳の間違いじゃないか?
「ほら、りんご飴食うんだろ? 行くぞ」
「お、おー! 食べる! あと焼きそばも!」
「……食い合わせ考えて買えよ」
気を取り直して光一たちと共に屋台を巡る。運良くりんご飴の屋台が近くにあったおかげですぐに手に入れることができた。真っ赤な飴でコーティングされたりんごが灯りに照らされキラキラと光沢を放っている。
見た目は可愛らしいが初めて手にしたそれをどう食べればいいのか分からず、じっと睨みつけた後にとりあえず軽くかじってみる。
「かたっ」
予想以上の硬さに前歯がじんじんと痛む。確かに普通に考えて飴は噛めないよな……。
「佐々島~、お前りんご飴食べたことないだろ」
「えっ……あ、あるけど?」
一連の動作を見ていた高橋にからかわれ何故か強がってしまった。
「いや絶対ウソだろ~! めちゃくちゃガブッて噛み付いて痛て~ってなってたじゃん」
「ぐっ……」
バカっぽく大げさに俺の真似をする高橋に顔が赤くなるものの実際バカみたいに見栄を張った手前返す言葉もない。
「駿は結構負けず嫌いなとこあるからな~」
光一がぺろぺろとりんご飴を舐めながら余計なことを言う。舐めるか喋るかどっちかにしろ。
「りんご飴で負けず嫌い発動すんのかよ」
「う、うるせー、食べ方教えろ!」
「やっぱ知らないんじゃん」
「なんでちょっと偉そうなんだよ」
人にからかわれる経験があまりなかったせいで変にムキになってしまいその反応を更にからかわれる無限ループに陥る。
「佐々島ってクールに見えて意外とからかい甲斐あるやつじゃね?」
「おれもそう思う」
「これがギャップ萌えってやつか」
「聞こえてんぞ!」
仲良くなりたいとは言ったがこいつらの遊び道具にされるのはごめんだ。まあ、今日くらいは許してやらんこともないが。
「まあまあ、ところでそこの射的やらね?」
中山が指差す方角を全員で追うと西部劇を意識したような癖の強いデザインの看板が目に入る。
「あ、中山の店じゃん」
「中山の店?」
「俺じゃなくて俺の親父がやってる店な」
射的屋にはねじり鉢巻を巻いた人の良さそうなお父さんが立っている。言われてみれば目元に面影を感じる。早速向かうと丁度前の客の番が終わったところだった。
「いらっしゃ……おう、おめぇらか」
「おひさしぶりッス~」
「光一、また背伸びたんじゃねぇか?」
「え、そっすか!? やった~!」
「伸びてもチビだけどな」
「こら聡志! てめぇも大して変わらねぇだろうが!」
爽やかそうな見た目からは想像できない、まるで極道映画かのようなドスの効いた低音で叱る父親に中山は背筋を伸ばして萎縮している。一歩引いて様子を眺める俺に高橋が耳打ちする。
「中山のおとん、俺らには優しいけど身内には厳しいんよね~」
「なるほど」
普段あれだけバカ騒ぎする息子の教育には相当頭を悩まされていることだろう。
「まーまー、それより射的やりたいッス!」
光一がなだめると中山父はコホンと咳をつき気を取り直してカウンターの上に置かれたコルク銃を差し出す。
「はいよ。一回300円で3発、台に乗るのは禁止な」
「よっしゃー! 一番でかい奴狙うぜ!」
俺は自分より背がでかくガタイの良い男がタイプだ。中学の時は体育教師に惚れることもあったが三年生になる頃には悲しいことに背を追い越してしまった。無駄に身長が伸び続けるせいでタイプの幅がどんどん狭くなっていってしまう。背が高いことで得をすることも多いが、タイプの男が見つからない問題と何かと目立ちがちなことは悩みの種だ。
欲求不満の解消のため画面をスクロールしてオカズを漁る。一人暮らしだと気兼ねなくオナニーができるのは良い点だ。ただ最近はそれもマンネリ化してしまい全く捗らない。
「なんか新しい性癖でも開拓するか」
そう思った時にふと頭の中に光一の顔が浮かんだ。性のイメージとは対極に位置するちんちくりんの裸を想像すると、なんだか悪いことをしている気分になる上に全く唆られない。顔はイケるがあの身体はタイプと正反対すぎて流石になぁと頭を横に振る。まあ友達に対して性的に興奮しないというのはむしろありがたいことだ。
そんなことを考えていると完全に気分が変わってしまったので今日は諦めてさっさと寝ることにする。
と、思った瞬間スマホに軽快な通知音と共にメッセージが届いた。誰からだろうと一応考えはするものの、俺と個人的にチャットのやり取りを交わす相手など親を除けば一人しかいないと分かっている。
画面を開くとサッカーボールを蹴る足のアイコンが目に入る。案の定相手は朝日光一だった。ついさっきまで邪な想像をしていたせいで無駄に気まずい気持ちになってしまう。
『しゅんー、来週の日曜花火大会行かね?』
「花火大会?」
そういえば隣街では例年かなりの規模の花火大会があるらしい。家と高校の往復しかしていないためどんなところなのかはよく知らない。教室でその話で盛り上がっていたところから察するに恐らくクラスメイトも一緒に誘っているのだろう。
まあでもイベント事ならむしろみんなと距離を縮めて仲良くなるチャンスでもあるし、ここは積極的に参加するべきだろう。なにより花火大会は今まで一度も行ったことがないし興味があった。
「『いいよ』……っと」
『おっけ~! また連絡するね』
「返信はや」
鬼の返信速度に驚くも、いやそういう俺もすげー返信早かったなと思い返して一人くすくすと笑う。来週に一つ楽しみができたことで今日は気分良く眠れそうだ。
***
「な、なんだこれ……!?」
「ん? どうしたー佐々島」
眼前に広がる光景に圧倒されて開いた口が塞がらない。どこを見ても人、人、人。テレビでしか見たことのない人口密度と喧騒に視界が揺れ飲み込まれそうになる。浴衣を着飾る若者や家族連れ、部活終わりの学生に年配の方まで。老若男女が提灯の赤い光に照らされながら屋台を巡り賑わっている。
「ここは東京か……?」
「いや神奈川だけど」
「花火大会ならどこでも混むだろ」
「そ、そうか……」
田舎の方とは言えどもやはり神奈川、この程度の人混みでは動じないというわけか。狼狽えてしまった自分が恥ずかしい。
冷静に努めようとするも波に攫われるような感覚に襲われそわそわと体が揺れる。
「にしてもあちーな~」
「こんだけ人がいたらな」
集まった面子は光一、中山、高橋のいつもの3バカにクラスメイト4人が加わった計8名。しかし人が多すぎてこれだけの人数での団体行動は難しいだろう。結局仲の良い4人ずつに分かれて動くことになりそうだ。光一が号令をかけると待ちきれないといった様子でせっせと進んでいく。
「よーし回るぞー! りんご飴食おうぜ!」
「おいおいお子様は手繋がないとはぐれちゃうぞー」
「誰がお子様だ!」
そう勢いよくツッコミながら人の波に混ざると一瞬でその姿は埋もれて彼方へ消えた。あまりにも綺麗にいなくなってしまったのが面白くて申し訳ないが笑ってしまう。
「ほら言わんこっちゃない」
「た……けて…………!」
「なんか叫んでるな」
「佐々島見える?」
「えー……あ、2つ先の屋台のとこ」
背伸びをして目を凝らすと小さな手をぶんぶん振る男が辛うじて見えた。
「全く世話の焼ける子供だぜ」
「……お前ら慣れてんな」
「あいつ去年もはぐれたからな」
「学習しねぇよな」
楽しそうに愚痴をこぼす二人に親近感が湧く。あいつには振り回されても何故だか悪い気分にはならないのだ。人波に揉まれながら光一の跡を辿り無事回収する。光一は叱られた子犬のようにしょんぼりとうな垂れている。
「すみませんでした……」
「佐々島先生と手繋いでろ」
「誰が引率の先生だ。……普通にリュックの紐でも掴んでくれ」
「はい……」
光一は言われるがまま俺のリュックをきゅっと掴む。本当にこいつ16歳か? 10歳の間違いじゃないか?
「ほら、りんご飴食うんだろ? 行くぞ」
「お、おー! 食べる! あと焼きそばも!」
「……食い合わせ考えて買えよ」
気を取り直して光一たちと共に屋台を巡る。運良くりんご飴の屋台が近くにあったおかげですぐに手に入れることができた。真っ赤な飴でコーティングされたりんごが灯りに照らされキラキラと光沢を放っている。
見た目は可愛らしいが初めて手にしたそれをどう食べればいいのか分からず、じっと睨みつけた後にとりあえず軽くかじってみる。
「かたっ」
予想以上の硬さに前歯がじんじんと痛む。確かに普通に考えて飴は噛めないよな……。
「佐々島~、お前りんご飴食べたことないだろ」
「えっ……あ、あるけど?」
一連の動作を見ていた高橋にからかわれ何故か強がってしまった。
「いや絶対ウソだろ~! めちゃくちゃガブッて噛み付いて痛て~ってなってたじゃん」
「ぐっ……」
バカっぽく大げさに俺の真似をする高橋に顔が赤くなるものの実際バカみたいに見栄を張った手前返す言葉もない。
「駿は結構負けず嫌いなとこあるからな~」
光一がぺろぺろとりんご飴を舐めながら余計なことを言う。舐めるか喋るかどっちかにしろ。
「りんご飴で負けず嫌い発動すんのかよ」
「う、うるせー、食べ方教えろ!」
「やっぱ知らないんじゃん」
「なんでちょっと偉そうなんだよ」
人にからかわれる経験があまりなかったせいで変にムキになってしまいその反応を更にからかわれる無限ループに陥る。
「佐々島ってクールに見えて意外とからかい甲斐あるやつじゃね?」
「おれもそう思う」
「これがギャップ萌えってやつか」
「聞こえてんぞ!」
仲良くなりたいとは言ったがこいつらの遊び道具にされるのはごめんだ。まあ、今日くらいは許してやらんこともないが。
「まあまあ、ところでそこの射的やらね?」
中山が指差す方角を全員で追うと西部劇を意識したような癖の強いデザインの看板が目に入る。
「あ、中山の店じゃん」
「中山の店?」
「俺じゃなくて俺の親父がやってる店な」
射的屋にはねじり鉢巻を巻いた人の良さそうなお父さんが立っている。言われてみれば目元に面影を感じる。早速向かうと丁度前の客の番が終わったところだった。
「いらっしゃ……おう、おめぇらか」
「おひさしぶりッス~」
「光一、また背伸びたんじゃねぇか?」
「え、そっすか!? やった~!」
「伸びてもチビだけどな」
「こら聡志! てめぇも大して変わらねぇだろうが!」
爽やかそうな見た目からは想像できない、まるで極道映画かのようなドスの効いた低音で叱る父親に中山は背筋を伸ばして萎縮している。一歩引いて様子を眺める俺に高橋が耳打ちする。
「中山のおとん、俺らには優しいけど身内には厳しいんよね~」
「なるほど」
普段あれだけバカ騒ぎする息子の教育には相当頭を悩まされていることだろう。
「まーまー、それより射的やりたいッス!」
光一がなだめると中山父はコホンと咳をつき気を取り直してカウンターの上に置かれたコルク銃を差し出す。
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「よっしゃー! 一番でかい奴狙うぜ!」
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