ノンケの光一くん〜ノンケだけどお金が欲しいからお尻を開発する話〜

あしまる

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不器用な友人

俺の報酬

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「駿?」
「……」
「おーい、しゅん~」
「……」
「おいってば!」
「いてっ!」

 何度呼びかけても返事をしない駿を軽く小突く。珍しくどこかうわの空な様子の駿はおれの顔を見ると、自分がいま勤務中であるということを思い出したようだ。

 駅前の商業ビルにあるスポーツ用品店、おれと駿はそこでアルバイトをしている。駿は品出しをしていたのだが何を思ったか男性用水着のコーナーに女性用水着を並べているのを発見し声をかけたのだ。

「それを男性用と言うのは無理があると思うぞ」
「すまん、うっかり」
「どんなうっかりだよ」

 駿は水着を回収し女性用の売り場へと向かおうとする。おれは駿の裾を引っ張り制止する。

「おれがやるから休憩行ってこいよ」

 そう言いながら駿の手から荷物を預かる。休憩には少し早いがこの調子で働いている方がよくないだろう。

「体調悪いなら早抜けしてもいいからな、今日空いてるし」
「いや、別に平気だけど」
「じゃあ寝不足か? ちょっと寝たらすっきりするぞ」
「……まあ、そうだな。じゃあ先に休憩貰うわ」

 駿は歯切れの悪い様子で事務所の方へ去っていった。何か悩み事でもあるのだろうか。後で聞いてみよう。

「あのー、店員さんすみません」
「あっはい! いらっしゃいませー!」

 お客さんに呼ばれて振り向く。中学生くらいの年齢の男子3人組だ。

「あ、えっと、その、水着を買いたいんですけど……」

 一人の学生が言う。なんだかやけに顔を赤らめてもじもじしている。そんなに水着を買うのが恥ずかしいのだろうか。確かにこの店の水着は大人用だし少し背伸びをしているとは思うが。ちょっとかわいらしいな、と思ったところで学生たちの視線が下に向いているのに気付く。ああ、おれ今女性用水着持ってるんだった。

「あ、ごめんね! すぐに片してくるんで!」

 中学生には刺激が強かったようだ。おれは苦笑いを浮かべながら駆け足でその場を立ち去った。


***


「ってことがあったんだよ」
「俺が行った直後にそんなおもしれーことがあったとは」

 バイト終わりの帰り道、夕焼け空に影を伸ばしながらおれは駿と公園を歩いていた。広大な公園を突っ切った先におれの住むアパートがある。

「駿のせいだからな!」
「お前が勝手に受け取ったんだろ」
「なんだとー! おれが親切にやったってのに!」
「へいへい、ありがとさん」

 休憩から戻った駿はいつもの調子に戻っていた。「仮眠したらすっきりした」とあっけらかんとした態度に拍子抜けし、更にバイト終わりにおれの家に行きたいと言うのでこうして一緒に向かっている。

「それにしても運がいいな、おれ昨日部屋片付けたんだよ」
「おっラッキー。お前の部屋すげー綺麗かすげー汚いかの二択だからな」
「毎日掃除すんのめんどいからな~。一回始めたらとことんやれるんだけど」

 逆に駿は毎日掃除していつも綺麗に保つタイプだ。勉強もそうだけどこつこつ作業をするのに向いている性格で羨ましい。
 
 他愛もない世間話を繰り返すとあっという間に公園を抜け家の玄関までたどり着く。鍵を開けると「ただいまー」と言って中に入る。駿が「おかえりー」と返し続いて入る。

 どこにでもある一般的なワンルーム。家賃の安さとトイレと風呂が分かれているのがポイントが高く入居を決断した。公園が近いのも良い。ベッドの脇に鞄を置いてそのままベッドにごろんと寝転がる。

「はー立ち仕事は腰が疲れるな~」

 伸びをして腰をさする。バイトの疲れが布団に吸収されるかのように癒やされる。駿は奥のクッションソファに体を預けている。

「なんだ、マッサージ足りなかったのか?」
「え? 何が?」
「この前マッサージしてもらったんだろ」

 おれは何の意味か少し考えて、それがこの前の日曜の出来事を指していることに気付く。おれは口をもごもごさせながら答える。

「いや、あれはマッサージっていうかむしろ疲れたし……つーか何で知ってんの!?」
「光一普段はなんでも話すくせにあの日のことは何も言わねーんだもんな」
「それは流石に言わねーよ! あと会話になってない!」
「俺が何の見返りもなしにお前を紹介するわけないだろ」

 そう言いにやけながらスマホを取り出し操作する。やけに協力的だから違和感があったがまさか裏でそんな取引をしてたなんて……。

「つ、つまりリョウタさんから聞いたのか」
「ノンケのお前がまさかあんなド変態ウケだったなんて……」
「わー! やめろ!」

 駿は両手で顔を覆って下手くそな泣き真似をしている。うっうっと声を漏らしているが口元が完全に笑っている。

「どこまで聞いたんだよ!」
「聞いたっていうか、見た」
「見た!?」

 おれに向かって駿はスマホの画面を見せる。そこにはおれがあの日リョウタさんとセックスをした一部始終を鮮明に映した動画が流れていた。

「これが俺の報酬」
「んなっ! こ、これ盗撮だろ!」
「実はお前が来る前に先に行ってカメラを回しておいたんだよ」
「は!?」
「向こうに動画は渡してないし誰かに見せる気もないから安心しろ」
「いやお前に一番見られたくないんだけど!?」

 動画を削除しようとスマホに飛びつく。駿はおれの手をひょいと躱すと逆の腕でおれの体をがしっと捕らえる。そのまま勢いよく引っ張るとあぐらをかく駿の脚の上に座る形に抱きかかえられる。

「おい離せ~!」
「体が小さいのも収まりが良くて案外悪くないな」

 じたばたと抵抗を試みるも両足でがっしりと下半身をホールドされ完全に身動きが取れなくなったおれはため息を吐き観念して駿に体重を預ける。抵抗を止めたのを理解した駿も力を緩める。

「これは一応お前のためにやったんだぜ」
「は? どういうこと?」
「誰も見てないとこだと何されるかわかんないだろ。だからこうして証拠を撮っておくことで相手に危ないことをさせないように釘を差しておいたんだ」
「な、なるほど……おれのためだったのか」

 そういえば駿は事前におれの事をリョウタさんに教えたり色々手を回してくれていた。多分リョウタさんはカメラがなくても危ないことはしない人だろうけど、でも純粋に駿の気遣いはありがたいと思った。

「でもそういうことならもう映像に用はないから消していいよな」
「いや」

 食い気味に否定される。

「いやじゃねぇよ!」
「ほら、記念にね」
「なんの記念だよ!」
「光一の処女喪失記念?」
「記念でもなんでもねぇよ!」

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