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駿と光一の高校生時代
静かに過ごしたい男
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入学初日が終わり下校の時刻になる。荷物をまとめて我先にと教室を去ると足早に校門へ向かう。すると背後からドタバタと靴音が響く音が聞こえる。振り返ると朝日が俺を追いかけて来たことがわかる。
「げっ」と思うも時すでに遅し。朝日は俺の腕を掴むと息を整える。
「佐々島くん帰るの速すぎ……はぁっ……はぁっ……」
「えっと、何か用?」
「いや、用ってほどじゃないけどさ」
朝日はうまく言葉が思いつかないのか歯切れの悪い様子だ。
「とりあえず! 謝りたかったんだ、さっきはごめん!」
そういって朝日は頭を下げる。俺は面食らってぽかんとする。
「え、何が」
「なんか、勝手にベラベラ喋りすぎちゃったのかなって」
「あ、ああ、まあ……」
気付いてたのか。人のことなんて全然気にしないやつと思ってたけど。
「とりあえず……止まってると目立つから歩きながら話そうぜ」
「あ、そうだな!」
階段の途中で止まって話し合うのは流石に不自然だ。真っ先に教室を出たおかげでまだ人は来ていない。俺は朝日と一緒に歩き出す。
「なあ、人と話すの苦手って嘘だよな?」
朝日が俺に問いかける。
「……なんでそう思うの?」
「だってあの時佐々島くんから話しかけてきたじゃん。苦手なら普通自分から声かけないだろ?」
「別に……たまたまだよ」
「そうかな~」
意外と鋭いやつだな。確かに俺から声をかけたわけだから朝日からしてみれば気さくな男だと思うのが普通だ。ますますいらんことをしたと反省する。
「でもさ、もし本当だとしても、友達が一人くらいいたっていいだろ?」
「朝日……くんは友達が多いみたいだから君とだけ仲良くするとかはできないと思うけど」
「あーまぁ確かにそうかも。うーん……なんでそんなに一人になりたいの?」
「関係ないだろ、君には」
「あるよ! クラスメイトだろ?」
「……」
朝日は曇りなき眼差しを向けて言う。どうやら本気で疑問に思っているようだ。のらりくらり躱そうと思ったが面倒な展開になってきた。なんて返そうか考えていると会話が強制的に中断する光景が目に入る。
「ん?なんだあれ?」
朝日が指をさして言う。校舎を出て曲がった先に大量の人だかりができていたのだ。どうやら新入生を狙った上級生の部活勧誘のようだ。運動部から文化部までぞろぞろと手にチラシを抱えて待ち構えている。
「おっ出てきたぞ!」
「テニス部どうですかー」
「軽音興味ある~?」
「甲子園行くぞ~!」
「君背高いね!バスケやらない?」
「いーやバスケよりバレーの方が楽しいぞ!」
「あんだと?」
「演劇初心者大歓迎~」
思わず踵を返したくなったが校門にはここを通らないとたどり着けない。渋々勧誘の波をかき分けゴールを目指す。チラシは受け取らないし目線は合わせない。声は右から左、左から右へと聞き流す。センパイには悪いが俺は部活に入る気はないんでね。
「うわ~見て! 高校ってめっちゃいろんな部活あんだな~!」
朝日は両腕いっぱいにチラシを抱えている。こいつ渡されたやつ全部受け取ったのか?
「いや貰いすぎだろ」
「あはは、なんか楽しくなっちゃって」
そう言いつつさらに新しいチラシを受け取っている。この隙に朝日を置いて帰ろう。そう考え進もうとすると前方にとある看板が目に入る。
「サッカー部……」
手書きで大きくカラフルに『新入部員大募集!』 の文字と流行りの芸人の似顔絵が描かれた、いかにも男子高校生といったような絶望的にセンスの無い看板をサッカーユニフォームを着た男が頭の上に高々と掲げている。
サッカーは小さい時からやっている。中学ではそこそこいい成績で体格の良さからスカウトを受けたこともあったが、別にそこまでの熱量はないしこれ以上目立ちたくなかったから断った。
「君サッカー興味ある人?」
「え? あっいや特には……」
ぼーっと眺めていたせいでうっかり目が合ってしまった。
「そう? まあチラシだけでも貰ってよ~」
「は、はあ」
半ば強引にチラシを手渡される。無理やり勧誘されないだけまだましか。
「あっサッカー部すか!」
朝日が俺の背後からぴょこんと顔を出す。
「サッカー部だよ~」
「おれ小学校からやってました! FWです!」
「あ、もしかして朝日光一くん? 君の先輩からよく話聞くよ~」
「えっ!? そうです! もしかしておれ有名人ですか?」
「声がデカくてちっこいFWが今年入学するって言ってたからね~」
「ちょっとなんすかそれー!」
朝日もサッカー経験者だったのか。思わぬ共通点だ。中学からの知り合いが多いせいか朝日の名前は既に知れ渡っているようだ。まあ俺には関係ないことだ。
「あれ? 佐々島くんサッカー興味あるの?」
朝日は俺の手に持つチラシを見つけて言う。めざとい男だ。
「え? いやこれは無理やり……」
「いやーめちゃくちゃ興味ありげに見つめてたからチラシあげたんだよね~シャイな子なんかな~体格良いからすぐレギュラー取れちゃうかもよ~」
さっきまで興味なさげだったのに俺が朝日の知り合いと見るやいなや態度が一変し、完全に俺も勧誘しようとロックオンしようとする。
「俺忙しいんで部活は入りません、失礼します」
「あっ佐々島くん待って! 先輩失礼します!」
面倒なことになる前にさっさと立ち去るが吉だ。勧誘の波を抜け校門の外へ出る。その後ろから朝日が駆け寄ってくる。
「いつまで付いてくるんだお前は」
「まあまあ、せっかくの高校初日なんだし、楽しく話そうよ」
朝日はチラシの束をまとめて折り、鞄に詰め込む。この男の言葉には全く裏がなければ嫌味も感じない。純粋すぎて恐ろしいくらいだ。
「……人と話すと疲れるんだよ。俺はお前と仲良くなりたいと思ってないし友達も必要ない。静かに過ごせればそれでいい。俺に構わないでくれ」
一息にそう言うと朝日の反応を待たずに歩き出す。
「あっ佐々島くん!」
面食らった朝日はそう言葉をかけるだけで追っては来なかった。流石にあれだけはっきり言ったら嫌われただろうな。少し心が痛む。でも仲良くなったらもっと傷付くことになるんだからこれでいい。そう自分に言い聞かせた。
「げっ」と思うも時すでに遅し。朝日は俺の腕を掴むと息を整える。
「佐々島くん帰るの速すぎ……はぁっ……はぁっ……」
「えっと、何か用?」
「いや、用ってほどじゃないけどさ」
朝日はうまく言葉が思いつかないのか歯切れの悪い様子だ。
「とりあえず! 謝りたかったんだ、さっきはごめん!」
そういって朝日は頭を下げる。俺は面食らってぽかんとする。
「え、何が」
「なんか、勝手にベラベラ喋りすぎちゃったのかなって」
「あ、ああ、まあ……」
気付いてたのか。人のことなんて全然気にしないやつと思ってたけど。
「とりあえず……止まってると目立つから歩きながら話そうぜ」
「あ、そうだな!」
階段の途中で止まって話し合うのは流石に不自然だ。真っ先に教室を出たおかげでまだ人は来ていない。俺は朝日と一緒に歩き出す。
「なあ、人と話すの苦手って嘘だよな?」
朝日が俺に問いかける。
「……なんでそう思うの?」
「だってあの時佐々島くんから話しかけてきたじゃん。苦手なら普通自分から声かけないだろ?」
「別に……たまたまだよ」
「そうかな~」
意外と鋭いやつだな。確かに俺から声をかけたわけだから朝日からしてみれば気さくな男だと思うのが普通だ。ますますいらんことをしたと反省する。
「でもさ、もし本当だとしても、友達が一人くらいいたっていいだろ?」
「朝日……くんは友達が多いみたいだから君とだけ仲良くするとかはできないと思うけど」
「あーまぁ確かにそうかも。うーん……なんでそんなに一人になりたいの?」
「関係ないだろ、君には」
「あるよ! クラスメイトだろ?」
「……」
朝日は曇りなき眼差しを向けて言う。どうやら本気で疑問に思っているようだ。のらりくらり躱そうと思ったが面倒な展開になってきた。なんて返そうか考えていると会話が強制的に中断する光景が目に入る。
「ん?なんだあれ?」
朝日が指をさして言う。校舎を出て曲がった先に大量の人だかりができていたのだ。どうやら新入生を狙った上級生の部活勧誘のようだ。運動部から文化部までぞろぞろと手にチラシを抱えて待ち構えている。
「おっ出てきたぞ!」
「テニス部どうですかー」
「軽音興味ある~?」
「甲子園行くぞ~!」
「君背高いね!バスケやらない?」
「いーやバスケよりバレーの方が楽しいぞ!」
「あんだと?」
「演劇初心者大歓迎~」
思わず踵を返したくなったが校門にはここを通らないとたどり着けない。渋々勧誘の波をかき分けゴールを目指す。チラシは受け取らないし目線は合わせない。声は右から左、左から右へと聞き流す。センパイには悪いが俺は部活に入る気はないんでね。
「うわ~見て! 高校ってめっちゃいろんな部活あんだな~!」
朝日は両腕いっぱいにチラシを抱えている。こいつ渡されたやつ全部受け取ったのか?
「いや貰いすぎだろ」
「あはは、なんか楽しくなっちゃって」
そう言いつつさらに新しいチラシを受け取っている。この隙に朝日を置いて帰ろう。そう考え進もうとすると前方にとある看板が目に入る。
「サッカー部……」
手書きで大きくカラフルに『新入部員大募集!』 の文字と流行りの芸人の似顔絵が描かれた、いかにも男子高校生といったような絶望的にセンスの無い看板をサッカーユニフォームを着た男が頭の上に高々と掲げている。
サッカーは小さい時からやっている。中学ではそこそこいい成績で体格の良さからスカウトを受けたこともあったが、別にそこまでの熱量はないしこれ以上目立ちたくなかったから断った。
「君サッカー興味ある人?」
「え? あっいや特には……」
ぼーっと眺めていたせいでうっかり目が合ってしまった。
「そう? まあチラシだけでも貰ってよ~」
「は、はあ」
半ば強引にチラシを手渡される。無理やり勧誘されないだけまだましか。
「あっサッカー部すか!」
朝日が俺の背後からぴょこんと顔を出す。
「サッカー部だよ~」
「おれ小学校からやってました! FWです!」
「あ、もしかして朝日光一くん? 君の先輩からよく話聞くよ~」
「えっ!? そうです! もしかしておれ有名人ですか?」
「声がデカくてちっこいFWが今年入学するって言ってたからね~」
「ちょっとなんすかそれー!」
朝日もサッカー経験者だったのか。思わぬ共通点だ。中学からの知り合いが多いせいか朝日の名前は既に知れ渡っているようだ。まあ俺には関係ないことだ。
「あれ? 佐々島くんサッカー興味あるの?」
朝日は俺の手に持つチラシを見つけて言う。めざとい男だ。
「え? いやこれは無理やり……」
「いやーめちゃくちゃ興味ありげに見つめてたからチラシあげたんだよね~シャイな子なんかな~体格良いからすぐレギュラー取れちゃうかもよ~」
さっきまで興味なさげだったのに俺が朝日の知り合いと見るやいなや態度が一変し、完全に俺も勧誘しようとロックオンしようとする。
「俺忙しいんで部活は入りません、失礼します」
「あっ佐々島くん待って! 先輩失礼します!」
面倒なことになる前にさっさと立ち去るが吉だ。勧誘の波を抜け校門の外へ出る。その後ろから朝日が駆け寄ってくる。
「いつまで付いてくるんだお前は」
「まあまあ、せっかくの高校初日なんだし、楽しく話そうよ」
朝日はチラシの束をまとめて折り、鞄に詰め込む。この男の言葉には全く裏がなければ嫌味も感じない。純粋すぎて恐ろしいくらいだ。
「……人と話すと疲れるんだよ。俺はお前と仲良くなりたいと思ってないし友達も必要ない。静かに過ごせればそれでいい。俺に構わないでくれ」
一息にそう言うと朝日の反応を待たずに歩き出す。
「あっ佐々島くん!」
面食らった朝日はそう言葉をかけるだけで追っては来なかった。流石にあれだけはっきり言ったら嫌われただろうな。少し心が痛む。でも仲良くなったらもっと傷付くことになるんだからこれでいい。そう自分に言い聞かせた。
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