ノンケの光一くん〜ノンケだけどお金が欲しいからお尻を開発する話〜

あしまる

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駿と光一の高校生時代

佐々島駿、15歳

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「佐々島くんってどこの高校通うの?」
「誰も知らないんだって」
「噂によると神奈川の田舎らしいぞ」
「え~県外じゃん、しかもなんで田舎?」
「第一志望落ちたとか?」
「ちょっと、失礼なこと言わないでよ」
「私卒業式の日に告白しようかな~」
「同じこと50人くらい考えてそう」
「てか遠距離きつくない?」
「どうせフラれるんだしオレにしとけよ」
「ほんとサイテー」




 知らない道、知らない住宅街、知らないスーパー、知らない田んぼ、知らない標識、知らない国道、知らない電車。

 知らない学校。

 この高校には佐々島駿を知る人間は誰もいない。面倒な人間関係を全てシャットアウトして俺はこの郊外ののどかな景色と共に無風で平穏な3年間を過ごすことに決めた。

 女子が苦手だ。俺が女が好きだと疑わない。俺に好かれようとお洒落をしたりかわいこぶったり褒めたり触ったりしてくるからだ。

 男子が苦手だ。俺が女が好きだと疑わない。好きな女のタイプを聞いてきたり彼女がお前に惚れたと妬まれたり平気で肩を組んだりするからだ。

 別に相手が悪いわけじゃない。でも俺が悪いとも思いたくない。だから離れた。ただそれだけの話。


 校門の前には桜並木が続いている。4月上旬のこの時期にはもうほとんど桜は散ってしまっているが、わずかに残る花びらが俺たち新入生を歓迎するように宙に舞っている。似た景色を中学の入学式の日にも見たことを思い出し口元が綻ぶ。何もかも知らない景色というのは流石に難しかったようだ。

 校門をくぐると校舎前に人だかりが見える。看板に張り出された紙を眺めているようだ。背が高いとこういう時に便利なんだよな、と思いながら後ろから覗くとどうやらクラス分けが載っているようだ。

 1年1組、11番。なんだか縁起がよくてちょっと嬉しい、この高校を選んで正解だったかもしれない。というのは流石に言い過ぎか。

 用も済んだし移動しようかと思うと俺の隣にいた男がぴょんぴょん飛び跳ねるのが目に入る。いや正確には飛び跳ねたことでそこに男がいたことに気付いた。背が低くダボダボの丈の制服に身を包んだ男は行列で張り紙が見えないようだ。

 まあちょっと待てば列も空くだろと考え特に声をかけるでもなく立ち去ろうとした時、飛び跳ねていた男がバランスを崩しおれの肩にぶつかった。

「わっ! ごめん! 怪我してねーか!?」
「……いや、全然平気だけど」
「そっか~良かった!」

 男はホッとしたように笑顔を向けると前を向き飛び跳ねるのは止めて代わりに背伸びをして張り紙を見ようとする。飛び跳ねるよりも視線は低いため見えるわけはないのだが。

「……名前、教えて」
「!?……え?」

 男は俺がまだ立ち去っていないことに驚いたようだ。びくっと肩を震わせると勢いよく振り返る。

「見えないんでしょ、代わりに探してやるよ」
「あ、朝日光一……」
「『あ』か。探しやすくていいね」

 不意をつかれた表情のあさひこういちを尻目に張り紙に目を移すと探すまでもなくその名前が見つかる。

「1年1組、1番。同じクラスじゃん」
「あ、そうなんだ! えっと……」
「佐々島駿」
「ささじまくんね! おれ朝日光一!」
「それはさっき聞いた」
「あっそうだった! ささじまくん優しいな! サンキュー!」
「どういたしまして」

 体は小さいが声はでかいしリアクションもでかい。なんとなく放っておけなくて声をかけてしまったが正直俺の求めてる高校生活とは相反する人間と出会ってしまった。流れで二人で教室に向かう。

「ささじまくん中学どこ?」
「言っても分かんないよ、静岡の方」
「静岡!? え、一人暮らし?」
「うん」
「すげー! いいな~」
「そっちは?」
「おれはここの近くの中学。大半の奴らはここかもう一つの高校受けんの」

 ということは知り合いが多いわけか。なら俺と変に仲良くする必要はないわけだ。これはありがたい。

「なんでわざわざ静岡からここ来たの?」
「……別に。なんとなく」
「ふーん、そうなんだ」

 自分から聞いといてあんまり興味ないのかよ。いや俺が素っ気なさすぎるせいか。

 他愛もない会話をしているうちに教室にたどり着く。朝日が先頭で入ると何人かが彼に向かって手を振る。

「よー光一!」
「おお聡志! 雄馬! また一緒かよ!」
「なんでちょっと嫌そうなんだよてめー!」
「いや変わり映えしねぇなってさ~」
「それはそう」

 朝日は中学の同級生らしき男たちを見つけると一目散に駆け寄り賑やかに談笑している。クラスの中心で騒いでくれるおかげで視線が集まり上手く俺は影に隠れられた。この調子で穏やかに暮らしたい。

「あんたたち声でかいよ、内輪で盛り上がってたら他の人困るでしょ」
「うわ出た委員長!」
「委員長も一緒なのかよ!」
「だからそういうのやめなさいって言ってんの!」

 また新しい知り合いが出てきた。楽しそうで何よりだ。俺は何も困らないのでどうぞそのまま続けてください。

「まあ確かに身内ばっかもあれだし、新しい高校の友達欲しいよな」
「そういうことなら、おれもう友達できたぜ! な、ささじまくん!」
「え!?」

 予想外の展開に思わず大声を出してしまった。今あいつなんて言った? 友達? 誰が誰と?

「ささじま? 誰?」
「ささじましゅんくん! さっきクラス表が人混みで見えなくて困ってたら代わりに見つけてくれて助かったんだ」
「へーいい人じゃん」 
「お前チビだもんな」
「チビ言うな!」

 あの一瞬で友達判定入るんだ。めちゃくちゃゆるいじゃん。友達100人できるタイプの人間だこれ。

 クラスの視線が一気に俺に向く。全身から嫌な汗が滲み出るのを感じる。

「ささじまくん静岡出身で春から一人暮らしなんだって!」
「まじ!?」
「県外かよ!」

 全部言うじゃん。プライバシー0かよ。別に県外でもいいだろ。

「なんでこんなとこ来たの?」
「知り合いいる?」
「よく見たらイケメンじゃん」
「てか背でかくね?」

 ぞろぞろと俺の机の周りに人が集まる。ああああ今すぐ帰りたい。こんなはずじゃなかったのに。朝日に声をかけたのが間違いだった。

「おいおい急に囲んだらささじまくん困るだろ?」

 朝日が集団をなだめる。誰のせいだと思ってるんだ。

「えっと……ごめん。俺、人と話すの苦手だから」
「あっ……そ、そっか~悪いな、なんか急に」
「いや、別に……」

 適当に連中をあしらうと興味を失せたように人混みは去っていった。まあ初日にはっきり態度を示せたと思えば悪くない。ポジティブに捉えよう。

 クラスメイトはその後各々知り合いや席の前後左右の人間とコミュニケーションを取っている。俺は読書をして時間を潰す。朝日が時折何か言いたげにこちらの様子を伺っているが気付かないふりをする。

 朝日には悪いが俺の平穏無風な高校生活のためには仕方のないことだ。そもそもあいつと俺では性格が違いすぎて気が合わないだろう。

 やがてチャイムが鳴ると生徒は各々の座席に着席し担任教師がやってくる。20代後半くらいの女教師だ。男たちがそわそわしているのが分かる。

 窓の外を眺めると桜の木の枝が見える。枝には桜の花びらが一枚だけ残っていた。がんばれと心の中で応援していると突風が吹き、花びらは風に運ばれて彼方へと消えていった。

 佐々島駿、15歳。春。俺の3年間が今日始まった。

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