3 / 7
ショートケーキと死の香り、密かなる同盟
しおりを挟む
「ああ。じゃあファーストコンタクトは成功したのね」
スマホの向こう側から、榛琳紗の声がした。
「何か食べたい物はある?買って帰るよ」
「特にないけど、あえて言うなら苺のショートケーキかしら?」
「了解」
相変わらず欲が何も無いのかと思ったら、ショートケーキをご所望とは、いい傾向だ。と翼は思った。
うちの姫様は、希死念慮が強く、欲求が薄い。
いや、琳の場合は自殺願望だ。理由がはっきりしている、死への願望だ。
彼女の場合は願望どころか、実際に高層ビルから飛び降りた事がある。
それを助けたのが、自分だった。
原因は簡単で単純で、明白で。
初恋だったらしい。学校の教師と生徒で、琳が卒業するまで待って付き合いだした。
結婚を反対されて、駆け落ちしようとして、飛行機事故にあって、相手が亡くなった。
葬式で茫然自失の琳に、相手の家族は怒りをぶつけた。
考えなくとも当然の反応で、でも、琳は自分を責めた。
愛していた分、自責の念は彼女を死に追い立てた。
何時も人の判断を狂わせるのは愛情なのかもしれない。
琳を助けた夜、俺は琳にそれは酷く責められた。
どうして助けたのか、何故死なせてくれなかったのか、どうしたらいいのかと。
俺は考えなく助けてしまい、答えを持ち合わせて居なかった。
せめてもの罪滅ぼしとして、俺は琳の家に足繁く通うことになった。
理由は他にも考えられた。
琳が能力者で、俺と翼を護ってくれたから、とか。
単純に助けた者の責任感や、ずっと暗い部屋に引き篭もってボーっとしてる彼女が心配と言う気持ちもあった。
でも、一番の理由は、簡単で単純で。
色素の薄い、ふんわりとウェーブのかかった長い髪、長いまつ毛に、硝子の様な瞳。
何よりも。
天涯孤独になった、と思っていた自分を孤独から救ってくれたのが彼女だった。
助けたつもりが、助けられてた。救ったつもりが、救われていて。
琳が笑うと、自分が癒される気がした。
いつの間にか、知り合い以上の感情を持っていた。
何時からか、自分の家よりも彼女の家に帰るようになって、今に至る。
「あなたの問題が解決に向かうと良いわね」
「ああ…」
琳が呟くように言って、俺は短く返事した。
土産に買ったショートケーキは、希望の味がするんだろう。
村主翼は、喫茶店を出て少し不満な顔をしていた。
折角家に送ってくれるなら、あの高校生のお兄さん鳳翼と言ったっけ?あっちの方が良かった。
彼の方が自分の好みだ。好みって言うか、好きって言うか。
お姫様抱っこもしてくれたし。と翼は呑気に考えていた。
隣を歩く翼が、そんな失礼な事を考えてるとは露知らず、翼は辺りを警戒しながら歩いていた。
翼を見付けてまだそんなに立ってない。
だから、急に猫族の人間が現れるなんてない、とは思うけど。
思うけど、女の子を護るのは、ちゃんとしなくてはいけない、と思っていた。
翼からみた、翼は可愛かった。
「でも、猫が敵なんて…私猫好きなんだけどな」
「ぼくも猫好きだよ、翼は苦手っぽいけど」
「へぇ…」
気になる彼の情報は貴重だった。今のところは。
敵って言われてもピンと来て居なかった。今の所。
だから、背後から子猫がついて来ている事に気が付いて居なかった。
翼の家まで彼女を無事に送って、満足気な笑顔を浮かべた翼が、家路につこうとUターンしたら、道に黒猫が、小さな子猫がポツンと街頭に照らされていた。
「可愛いね、おいで」
翼がしゃがんで子猫に目線を合わせる様にして、声をかける。と、黒猫はプルプルと身震いして、猫耳と尻尾がついたヒト型の少年に姿を変えた。
「お前、敵に可愛いねとか警戒心なさすぎでしょ」
「ずっと護りが効いてたから、普通の猫かと思った」
「なるほどね!普通の猫じゃなくて悪かったね」
「君、名前はなんて言うの?」
「は?敵に名前聞くか?」
猫耳の少年は吃驚した様子で、耳と尻尾をしまった。
「だって、君はいい人な気がするんだ」
翼が迷いない表情で言う。観念したような顔で、黒髪の少年は答える。
「おれは桜乃野道。一応猫族だけど、別に取って食おうとか思ってないよ。おれはね」
「他の君の仲間は?」
「正直わかんないね。本家の人間とおれはそんなに仲いい訳じゃないし」
「じゃあ何でつけてたの?」
「おれは昔みたいに普通に人間として会話できる位の状況にならないかな?と思ってただけ。で、お前が一番話せそうだったから、逃げなかった」
言われてみれば、普通の猫のふりをして、この場から去る事は可能で。
それをしなかったのは、意思疎通が出来る相手って事だ。
「ぼく達が欲しいのは、事件の原因、理由、動機、安心だけだよ」
「じゃあ其れは、こっちでも探れたら探るよ」
野道が手を差し出した、翼が其れに応えて握手した。
密かに同盟関係が、ここに誕生した。
スマホの向こう側から、榛琳紗の声がした。
「何か食べたい物はある?買って帰るよ」
「特にないけど、あえて言うなら苺のショートケーキかしら?」
「了解」
相変わらず欲が何も無いのかと思ったら、ショートケーキをご所望とは、いい傾向だ。と翼は思った。
うちの姫様は、希死念慮が強く、欲求が薄い。
いや、琳の場合は自殺願望だ。理由がはっきりしている、死への願望だ。
彼女の場合は願望どころか、実際に高層ビルから飛び降りた事がある。
それを助けたのが、自分だった。
原因は簡単で単純で、明白で。
初恋だったらしい。学校の教師と生徒で、琳が卒業するまで待って付き合いだした。
結婚を反対されて、駆け落ちしようとして、飛行機事故にあって、相手が亡くなった。
葬式で茫然自失の琳に、相手の家族は怒りをぶつけた。
考えなくとも当然の反応で、でも、琳は自分を責めた。
愛していた分、自責の念は彼女を死に追い立てた。
何時も人の判断を狂わせるのは愛情なのかもしれない。
琳を助けた夜、俺は琳にそれは酷く責められた。
どうして助けたのか、何故死なせてくれなかったのか、どうしたらいいのかと。
俺は考えなく助けてしまい、答えを持ち合わせて居なかった。
せめてもの罪滅ぼしとして、俺は琳の家に足繁く通うことになった。
理由は他にも考えられた。
琳が能力者で、俺と翼を護ってくれたから、とか。
単純に助けた者の責任感や、ずっと暗い部屋に引き篭もってボーっとしてる彼女が心配と言う気持ちもあった。
でも、一番の理由は、簡単で単純で。
色素の薄い、ふんわりとウェーブのかかった長い髪、長いまつ毛に、硝子の様な瞳。
何よりも。
天涯孤独になった、と思っていた自分を孤独から救ってくれたのが彼女だった。
助けたつもりが、助けられてた。救ったつもりが、救われていて。
琳が笑うと、自分が癒される気がした。
いつの間にか、知り合い以上の感情を持っていた。
何時からか、自分の家よりも彼女の家に帰るようになって、今に至る。
「あなたの問題が解決に向かうと良いわね」
「ああ…」
琳が呟くように言って、俺は短く返事した。
土産に買ったショートケーキは、希望の味がするんだろう。
村主翼は、喫茶店を出て少し不満な顔をしていた。
折角家に送ってくれるなら、あの高校生のお兄さん鳳翼と言ったっけ?あっちの方が良かった。
彼の方が自分の好みだ。好みって言うか、好きって言うか。
お姫様抱っこもしてくれたし。と翼は呑気に考えていた。
隣を歩く翼が、そんな失礼な事を考えてるとは露知らず、翼は辺りを警戒しながら歩いていた。
翼を見付けてまだそんなに立ってない。
だから、急に猫族の人間が現れるなんてない、とは思うけど。
思うけど、女の子を護るのは、ちゃんとしなくてはいけない、と思っていた。
翼からみた、翼は可愛かった。
「でも、猫が敵なんて…私猫好きなんだけどな」
「ぼくも猫好きだよ、翼は苦手っぽいけど」
「へぇ…」
気になる彼の情報は貴重だった。今のところは。
敵って言われてもピンと来て居なかった。今の所。
だから、背後から子猫がついて来ている事に気が付いて居なかった。
翼の家まで彼女を無事に送って、満足気な笑顔を浮かべた翼が、家路につこうとUターンしたら、道に黒猫が、小さな子猫がポツンと街頭に照らされていた。
「可愛いね、おいで」
翼がしゃがんで子猫に目線を合わせる様にして、声をかける。と、黒猫はプルプルと身震いして、猫耳と尻尾がついたヒト型の少年に姿を変えた。
「お前、敵に可愛いねとか警戒心なさすぎでしょ」
「ずっと護りが効いてたから、普通の猫かと思った」
「なるほどね!普通の猫じゃなくて悪かったね」
「君、名前はなんて言うの?」
「は?敵に名前聞くか?」
猫耳の少年は吃驚した様子で、耳と尻尾をしまった。
「だって、君はいい人な気がするんだ」
翼が迷いない表情で言う。観念したような顔で、黒髪の少年は答える。
「おれは桜乃野道。一応猫族だけど、別に取って食おうとか思ってないよ。おれはね」
「他の君の仲間は?」
「正直わかんないね。本家の人間とおれはそんなに仲いい訳じゃないし」
「じゃあ何でつけてたの?」
「おれは昔みたいに普通に人間として会話できる位の状況にならないかな?と思ってただけ。で、お前が一番話せそうだったから、逃げなかった」
言われてみれば、普通の猫のふりをして、この場から去る事は可能で。
それをしなかったのは、意思疎通が出来る相手って事だ。
「ぼく達が欲しいのは、事件の原因、理由、動機、安心だけだよ」
「じゃあ其れは、こっちでも探れたら探るよ」
野道が手を差し出した、翼が其れに応えて握手した。
密かに同盟関係が、ここに誕生した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
モナリザの君
michael
キャラ文芸
みなさんは、レオナルド・ダ・ヴィンチの名作の一つである『モナリザの微笑み』を知っているだろうか?
もちろん、知っているだろう。
まさか、知らない人はいないだろう。
まあ、別に知らなくても問題はない。
例え、知らなくても知っているふりをしてくれればいい。
だけど、知っていてくれると作者嬉しい。
それを前提でのあらすじです。
あるところに、モナリザそっくりに生まれてしまった最上理沙(もがみりさ)という少女がいた。
この物語は、その彼女がなんの因果かお嬢様学園の生徒会長を目指す話である。
それだけの話である。
ただキャラが濃いだけである。
なぜこんな話を書いてしまったのか、作者にも不明である。
そんな話でよければ、見て頂けると幸いです。
ついでに感想があるとなお幸いです。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
たなかいくん家のトナカさん
田中マーブル(まーぶる)
キャラ文芸
田中井くん家にはいとこの女の子、渡仲あんずが毎日やってきます。同じ学校に通う二人の日常を綴るお話です。
ショートショートの1話完結。
四コママンガみたいな感じで読めるように書いていきます♪
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる