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カラヴィスタワー 探索記

第二百七十五話 若者よ、育つべし

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 カラヴィスタワーに足を踏み入れた竜種は瑠禹とヴァジェ、クラウボルト、ウィンシャンテ、それにファイオラの娘であるフレアラの五名である。
 いずれも知恵ある竜ないしは古竜に属する個体である為、その戦闘能力はドライセンと愉快な仲間達以外の探索者では歯が立つまい。

 瑠禹とヴァジェを覗いた竜種の若者達は、ドライセンを始めクインらの正体を知っているわけではないが、自分達よりも遥かに高位の竜種の関係者であると弁えている為、愉快な仲間達を含めて接する態度には敬意が満ち溢れている。
 そんな彼らもドライセンに親しげに話しかけるジルグの存在には、少しだけ眉を動かすなりの反応を見せたが、声を荒立てる必要はないと静観の構えだ。

「ドラゴニアンの方達も探索者なんですか?」

「いや、彼女らはあくまでもこのタワーの見学というのが正しいな。本人達の希望次第では探索者になる道もあるだろうが、今回は見学が主目的だよ」

「それじゃあ、ドライセンさん達が案内役なんですね。豪華な案内役だなあ」

 ドライセンらは目下、探索者の中で最も知名度が高く、最強の一角に数えられる探索者達だ。その彼らが案内役をする、というのはジルグからすれば何とも宝の持ち腐れであるように感じられる。
 ドライセン程凄い探索者達であるのなら、とてつもない怪物を相手に英雄的な戦いをするだとか、何百、何千もの人命を救う偉業を成すだとか、あるいはジルグの想像力では思いもつかない行いに関わっていて欲しいと無意識に望んでいる為でもある。

「豪華も何も君も私も探索者としての位階は大して変わらないだろう。君は二つ星、私達は三つ星。星一つ分しか探索者としての位階は違わない」

 ドライセンの言う二つ星、三つ星というのは探索者としての位階を示すものであり、これまでの実績や戦闘能力、探索者としての経歴等を判断材料として、探索者管理所から付与される。
 ベルン男爵領の首脳陣はカラヴィスタワーの運営にあたり、既存の傭兵ギルドや冒険者ギルド等が有する等級や位階を示す制度を参考にし、星の数で位階を示す制度を導入している。

 『一つ星』は探索者になったばかりの本当の新人達に与えられるもので、ジルグの『二つ星』はそこから一定の基準を越えた成果を残し、かつ探索者として生活を維持できている者に与えられる。かろうじて一人前という評価になるだろうか。
 今のところ、探索者という制度自体が始まったばかりである為、最も実績を積み重ねていて、かつ実力を持つドライセン達であっても最大七つ星とされる中でも、三つ星という評価に落ちついている。

「何を言っているんですか、本当ならドライセンさん達は全員七つ星が正統な評価ですよ! もっと早く探索者の制度が出来あがっていたら、今みたいな手探り状態じゃなくて評価も早く下されたんのでしょうけれど」

「ははは、君の目には実際の私達よりも随分と美化されたものが映っているらしいな。まあ、若者に評価されるのは気分が良いものだ。せめて、君を失望させないように励んでみようかね」

「ドライセンさん達がそんな失敗をする姿なんて、ぼくには想像も出来ませんよ!」

「分からないぞ。この塔はまだまだ探索の手の及んでいないところが無数にある。その中に、私達の足を掬う『何か』があるかもしれないぞ。
 『安全な場所だった筈なのに』、『どうしてここにこんな奴が』と口にするような事態に陥る事もあるだろう。
 肝心なのは、そのような危難に出くわしても立て直せる準備を常に怠らない事だよ。私達もいざという事態を想定して、色々と手は打っている。ジルグも長く探索者として活動してゆくのなら、事前の準備を疎かにしないようにしなさい」

「はい!」

 我ながら説教臭くなってしまったな、と反省するドライセンだが、実際のところでは既にカラヴィスタワー内部は事前の神々との共同調査で済ませており、管理を任せたドラグサキュバス達の手に余るような存在や技術に関しては対処済みとなっている。
 現状、カラヴィスタワー内における最大勢力と最強の戦闘能力を兼ね備えているのが、リリエルティエルらなのである。

 その為、リリエルティエル達で対処できるカラヴィスタワー内部の障害なら、より上位の存在であるドライセン達に対処できない筈がない。 
 もっと言えば、カラヴィスタワーの内部構造とて、ドライセン達は把握しているのだから。
 そんな事は露とも知らぬジルグは、尊敬する探索者からの助言を受けて、顔を輝かせている。その輝きは、ドライセンには少なからず眩しく感じられ、同時に罪悪感を刺激するものだった。

「そうそう君の助っ人だが、上手くやれているのか?」

「ヴィテですか? あはは、ぼくが色々と未熟だからいつも文句を言われています。それだって、ぼくが一人前の探索者としてやってゆく為に、必要な事ばかりだって、頭では分かっているんです」

 そう言って少し気まずそうな顔を作るジルグに、ドライセンは年頃の少年にはキツイ相手だったか、と同情の念を寄せた。
 ヴィテとジルグは共に外見から年齢を判断するならば、思春期と反抗期の重なり合う繊細な年頃の少年少女だ。
 それが自分の力だけを頼りに生活する場所に放り込まれて、ほぼ一日中顔を合わせるとなれば、歯車が噛み合うまで衝突する事も多いだろうし、内心では思うところだって積み重なってゆくだろう。

「正論だからといって全てが受け入れられるものでもない。言い方やその時の雰囲気というのも、厄介な事に大いに影響があるものだ。
 ましてや君とあの子とでは、気難しい年頃の組み合わせになる。期間限定の相棒として過ごすだけなら本心を繕い続けても構うまいが、今後も共に肩を並べたいと考えるなら、貯め込み過ぎない内に本心をぶつけるのも良いぞ」

 人並みの助言ではあるが、ドライセンに心酔しているジルグからすれば他の誰かに言われるよりもよっぽど効果は大きかった。
 反論の『は』の一字を舌の上に乗せる事もせず、ただただ顔を輝かせて頷き返すばかり。
 ベルン男爵領も田舎だが、それ以上の田舎から出てきた純朴な少年は、まだまだ他人を疑うと言う事を知らない。

 インラエンのドラグサキュバス達がジルグを騙す事はあるまいが、他の探索者達や出入りしている探索者以外の者達までもが、純朴な少年に友好的かつ好意的な者達ばかりとは限らない。
 いつかこの子が痛い目に遭わないと良い、とドライセンはセリナと初めて出会った時と同じような感想を抱く。助っ人であるヴィテが隣に居る内なら安心できるが、ヴィテが傍を離れた後はどうにも不安だ。

「そうだ、ヴィテ、いつまで黙っているんだい? 物怖じしない君らしくないね」

 何時もならふてぶてしい態度で自己紹介くらいしているのに、その気配が一切ないヴィテに、ジルグが不思議そうな顔をして背後を振り返る。
 ジルグよりも幼いが遥かに優れた戦闘能力と知性を持つ少女は、先程からドライセンとその仲間達を見たまま固まっている。ジルグは初めて見るヴィテの姿に、疑問符で心中を満たした。

「ヴィテ、本当にどうしたんだい?」

 流石に訝しむジルグが肩を揺さぶると、ようやくヴィテは正気に返った様子で、傍目にも明らかに動揺した様子であたふたし始める。この姿だけを見れば年相応の女の子だ。

「い、いいえ、べべべ別にぃ!? ま、まあ? 流石のあたしもインラエンでも有名なドライセンさ――ん達を目の当たりにすれば、驚く位はするし?」

「そう? ヴィテなら気にしなそうだし、ドラグサキュバスならドライセンさん達を見た事くらいあってもおかしく、ああ、そっか、ヴィテはまだ生まれたばかりだもんね。それなら見た事が無くても仕方ないか」

「そうそうそう、そうなの! あはは、ジルグにしては冴えている。そう言うわけで、はしたなく慌ててしまったの! あっはっは、恥ずかしいところを見せちゃったなあ!」

 自ら怪しいと自白しているようなヴィテの態度だが、ジルグはヴィテの珍しい姿が見られたなぁ、と呑気な感想を抱くきりだ。ドライセンはといえば、ヴィテがそのような態度を取る理由が察せられて、真相を知らぬはジルグばかりだと苦笑い。

「私達も有名になったものだ。ふふ、ヴィテと言ったね」

「はは、はひ。ヴィテラエルでヴィテでしゅ」

 生まれた時からドラグサキュバスのヴィテからすれば、ドライセンならびにドライセンの大元は誕生の理由であり父親と呼んでもそう間違いではない存在だ。
 なまじヴィテ自身が神域に居るべき存在である為に、ドライセンの実物を前にして高次存在としての格の違いもはっきりと分かり、ヴィテは余計に緊張に凝り固まる他ない。

「このタワーそれ自体を構成しているものは、古いものばかりだが、その中にあって君のようなドラグサキュバスや探索者は歓迎すべき新しい変化だ。君達には是非ともタワーの中で頑張ってほしいと思っている」

「はい、はい! ぜん、全力を尽くします!!」

「気合を入れるのはよいが、無理をしない程度にな」

 ヴィテのやる気が炎となって全身から立ち昇りそうな様子に、ドライセンはどうもドラグサキュバスの新世代達には、レニーアやクロノメイズを相手にする時の心構えが必要らしいと悟る。
 レニーア達同様にドラグサキュバス達はドライセンならびにその大元に対して、いささか盲目的に過ぎる。

「まあ、今日はこの輸送隊を建設現場まで集団で護衛してゆく仕事だ。そう構えずに行こう」

 これ以上、自分と面と向き合わせてはヴィテの神経に毒だ、と判断したドライセンが会話を切り上げて、事前に指定された輸送隊の護衛位置に移動し始める。
 ジルグはしばらくの間、背を向けるドライセン達に手を振ってから、ヴィテを伴って輸送隊の真ん中、左側の位置に移動する。

「それにしてもヴィテがあんなに緊張するなんて、ふふ、珍しいものが見られたなあ」

「もう、そんなにいじらないでよ。あたしだって緊張する相手はいるの。リリ様とか一部のお姉様達とか」

「別に悪く言っているつもりはないよ。ヴィテにもそういうところはあるんだって分かって、ぼくは嬉しいよ?」

「別にジルグを喜ばせる為にあたふたしたわけじゃないし」

 ぷくっと頬を膨らませて拗ねるヴィテの姿がますます年相応に幼いものだから、ジルグは悪いと思いつつも笑うのを堪え切れなかった。
 それからの輸送隊の道中では、何人もの手で切り開かれ、踏み均され、経年劣化を防ぐ特殊な処理の施された黒曜石が敷き詰められた黒い道は、それを初めて見るジルグや他の探索者の一部を驚嘆させたが何かしらの異常事態が生じる事はなかった。

 以前から出没の確認されていたタワーの魔物達による襲撃こそあれ、死者を出す事もなく無事に建設現場へと辿りつけたのである。
 輸送隊の護衛中に遭遇した魔物に関しては、時間の許す限りにおいて倒した探索者が回収する事が許されているものの、建設現場へ輸送隊を送り届ける事が最優先の仕事である為、何割かはその場に残されて、ジルグ達に勿体ないという思わせる原因となった。

 幾度かの休憩を挟んだ後に、朝方にインラエンを出立した輸送隊は夕刻を迎える頃に建設現場に到着した。
 タワー内部の日照は第一層の天井それ自体が外部の日照と連動して発光を行う為、第一層に限ってはタワーの内外で時間の齟齬というものは生じない。

 建設現場で働いている者のほとんどは人間に酷似した魔法生物が行っているが、中には戦いを離れたがタワーには残った探索者達も混じっている。
 彼らが建設中の街は、水道管を地中に巡らせ、土を削るないしは盛って凹凸をなくす等の作業をおおむね終えていて、ドラグサキュバス達が用意した加工済みの石材や木材で家を建てる段階に入っていた。

 輸送物資の届け先である作業場の奥にある資材置き場で、帰りも輸送隊の護衛を行う者とここに残って周囲の探索を行う者とに分かれる。
 ジルグとドライセン達は後者に属し、ドライセン達はさらに遠方への探索に赴き、ジルグ達はこの周囲で観光を兼ねた腕試しを行う予定だ。

 探索者達に至れり尽くせりのインラエンの配慮で、今回の輸送隊の護衛に就いた探索者達は作業員の居住区画に無償で宿と食事が用意されており、ジルグとヴィテもこの恩恵にあずかった。
 用意された宿の一つである小屋の窓辺に腰かけたヴィテが、窓の外から見える建設現場に視線を向けて、ドラグサキュバスの伝手で知っている情報をジルグに語りかける。
 夕焼けの光を浴びて燃えるように橙色の包まれるヴィテの姿に、ジルグは黙っていればとんでもなく可愛いなあ、としか感想が思い浮かばず、ヴィテの話を半分程しか聞いていない。

「ここはゼクシスタという名前の街になる予定の場所ね。ラクイシ渓谷やオウトッツ丘陵地帯にズシム湿原と色々な場所へ続く中継地点だから、ここに安全地帯が用意される意義はとっても大きいわ」

「うん」

「気候も地形も出没する魔物もまるで別物の場所と迷宮に挑むのに、ここで事前に十分な用意が出来れば、探索者の人達も成果を上げやすくなる。
 そうなればますますこの塔に多くの人が名声や富を求めてやってきて、ドラグサキュバス的にもベルン男爵領的にも万々歳になるのよね。
 探索者は有事の際にベルン男爵領に協力する必要はないけれど、探索者の発見した神代の遺物や異界文明の品は役に立ちそうだし、探索者にはどんどん調べていって欲しいでしょうね」

 とは言うものの、ドライセンとベルン男爵領首脳陣との関係を知るヴィテからすれば、タワーの隅から隅まで掌握済みであるのだから、いざとなれば探索者の手を借りる必要はまったくないのは明白だ。
 ジルグに言って聞かせている内容は、ドラグサキュバス達による探索者向けの建前として考えられた定型文に相当する。

 ドライセン達がわざわざ探索者として登録し、派手に活躍しているのも、タワーを富を産む資源として有効活用する為の撒き餌兼広告等の役割を担っているからだ。
 彼らがドラグサキュバスやベルン男爵領から得た報酬は、全てドラグサキュバス達の貨幣であるドラスで受け取り、それを全てインラエンで消費している。

 ハンマはタワー内部のマイラール教関連施設の発掘や維持費用に全て寄付し、ドーベンは零細企業ならぬ零細宗教であるクロノメイズ教拡大の為に、インラエンに土地を買い、そこに神殿を建てる為の費用に充てている。
 ではドライセンやクインはどうかといえば、ドライセンには本来必要ないのだが敢えて外部からやってきた鍛冶工房等に高額の武具や探索用装備の発注をし、他の探索者達から羨望と嫉妬の視線を集めている。

 クインは特に考えて使ってはおらず、気まぐれに食べ物や美術品に糸目をつけずにお金をばら撒いており、その景気の良さはインラエンでも語り草となっている。
 こういった行いは、タワー内部でしか流通しない貨幣をほぼすべて使い切る事で、経済の流れの活性化を狙い、また高位の探索者になればあのような贅沢が出来ると言う指標となるべく行っている活動だ。

「ジルグが故郷の名前を後世にまで残したいって考えているなら、どんどん未知の遺跡を発掘するとか、難病の特効薬になる素材を発見するとか、それ位の事をしないとねえ~」

「うん」

「ちょっとジルグ、真面目に話を聞いている?」

 ヴィテもここまできて流石にジルグが真面目に話を聞いていない事に気付き、分かりやすく怒った顔になって詰め寄る。

「うん。あ、ご、ごめん!」

 ジルグからしてみれば夕焼けの化粧を施されたヴィテの横顔が余りに可愛いから見惚れていたのに、そのヴィテが鼻の着きそうな距離にまで顔を近づけてくるものだから、余計に慌ててしまう。

「ちょちょ、ちょっと考え事をね、考え事を」

 ヴィテってやっぱりものすごく可愛いなあ、という事を考えていたのだが、考え事の内容までは流石に口にはできないジルグだった。
 少年と少女が彼らなりに距離を縮めている頃、ドライセン達はゼクシスタから更に西方に足を伸ばした先に存在するある場所に到着していた。

 他の探索者達はただの一人も足を踏み入れておらず、ドライセン達かドラグサキュバスが居なければ足を踏み入れる事の叶わない、閉ざした空間の中に隠した特殊な施設だ。
 事前調査の折に役に立つと判断したドランの手によって今日に到るまで隠蔽され、今後も隠蔽され続ける施設である。

 施設を封じた空間の外は夕暮れ色に染まっているが、閉鎖空間の内部は星の瞬く藍色の空模様だ。
 施設といっても建物らしいものはほとんどなく、地平線が彼方に見える程広い空間の中心に大小無数の硝子玉が浮かんでおり、内部は黒や紫、赤、黄と様々な色に染まった煙とも水ともつかぬ何かで満たされている。

 数十個はある硝子玉の内のいくつかが明滅を始めると、煙のような水のようなモノが徐々に形を持ち始めて、それはひどく醜いが、竜と呼ぶべき何かとなった。
 ねじれて四方に伸びる手足には無数の瘤が隆起し、長さの異なる三本の尾には無数の棘が伸びている。黒と赤の斑模様の鱗を持った竜モドキだ。

 他にも様々な色と気持ちの悪い造作をした竜モドキが次々と培養器である硝子球の中で形を持ち、硝子球に亀裂が走って二つに割れる事で次々と生まれ落ちて行く。
 生まれ落ちた竜モドキ達が一斉に口を開き、聞く者の精神を砕き、狂気に陥らせる効果を持った咆哮を周囲へと放つ。

 大気をどよめかせる咆哮を浴びても顔色一つ変えず、生まれ落ちた竜モドキがなんなのかを語る者が居た。
 ドライセンである。傍らにはクイン、ハンマ、ドーベン、瑠禹、ヴァジェ、ウィンシャンテ、クラウボルト、フレアラ達の姿もある。

「昔も昔、大昔の話だ。どこぞの邪神の信奉者達が原初の混沌を模して世界の様々な因子を詰め込んだ混沌に、偽竜という形を与えて生み落とす偽竜の製造工場を作りだした。
 竜種への対抗策としては、よくある話だ。地上に建設された工場はほぼ全て機能を停止するか破壊されているのだが、このタワーに巻き込まれたこの施設はまだ生きていてな」

 竜モドキ、いや、人造偽竜達は硝子球の中に居た時から認識していた獲物を前に、いずれも戦闘態勢を整える。
 偽竜とは始祖竜から誕生した真なる竜種を滅ぼす為に生み出された存在だ。故に、真なる竜種を前にすれば己の存在意義を果たすべく全ての機能を費やすのが必定。
 同時に真なる竜種達にしても、自分達を滅ぼす為に存在する紛い者は、この上なく不愉快で醜悪極まりない存在となる。ともすれば、竜殺しの因子を有する者と対峙する以上の敵意を掻き立てられる。

「こうして目の前で製造の過程を見れば、否でも理解できます」

 滲み出る敵意を抑えきれぬ声で告げたのは瑠禹であった。瑠禹ばかりでなくヴァジェやフレアラ、ウィンシャンテ達はより分かりやすく戦意、いや敵意を高めており、彼らの周囲には昂った感情に呼応して膨大な魔力が発せられている。
 クインなどは殊更敵意を募らせそうなものだが、彼女の場合は偽竜達とあまりに格が違い過ぎて敵として認識する段階に達しておらず、汚いゴミでも見ているような目をしている。
 ドライセンも似たようなもので、この二人の態度を変えたいのならばレニーア級の偽竜を生み出す必要があるだろう。

「瑠禹は違うかもしれんが、ヴァジェやウィンシャンテ達は遠からず魔王軍の偽竜達と戦う事になる。君らが実戦経験を積むのにはちょうど良いと、敢えてこの施設をそのまま残しておいたわけだ。
 あちらはこちらを殺す気満々だ。いざとなれば私やクイン達が助勢に入るが、まずは君達だけでアレらを相手にしなさい」

 早ければ一年以内にも戦端を切る魔王軍の偽竜との戦いに備えて、モレス山脈の若き竜達を鍛え上げる為に、この施設を探索者達から秘匿し、利用する。これが、ドライセンがカラヴィスタワーに対して、観光資源以外にも見出した利用方法の一つだった。
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