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10巻
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しおりを挟む第一章―――― ドラミナの夢
魔導結社オーバージーンの総帥であるバストレルとの戦いを終えた私――ドランは、崩壊する浮遊城を後にして、皆と共にベルン村への帰路に就いた。
祖先から竜殺しの因子を受け継いだクリスティーナさんや、私の因子を用いて造られた神造魔獣の転生者であるレニーアにとって、ドラゴンスレイヤーを振るうバストレルとの戦いは、色々と思うところのあるものだっただろう。
私の使い魔を務めるラミアのセリナは、神馬の末裔であるスレイプニルの牽く馬車に揺られながら、同じく車内にいる二人を心配そうに見つめている。
急ぐ必要もなかったから、ややのんびりとした調子で進んだ結果、ベルン村に着いた頃には夕暮れ時になっていた。
さて、私達一行には、村を出た時にはいなかった新たな同行者が加わっている。バンパイアの元女王ドラミナである。
いくら私が安全を保障するとはいえ、村長の断りもなしにバンパイアを村の中に連れ込むのは不味い気もしたが、もう遅いので、報告は翌朝にする事とした。
村の皆や外からやってきた人々は、異様な巨躯に多くの足を持つスレイプニルの姿を見て、目をまん丸にして驚いている。しかし、生憎と彼らに構っている暇はない。
私達はそのままセリナの家に馬車を横付けし、一息吐く事にした。
クリスティーナさんは、竜殺しの因子の影響で体調を崩していたものの、ベルン村に来るまでの間にある程度落ち着いてきており、今は常よりも多少顔色が白い程度だ。
私達は渋るクリスティーナさんを宥めすかしてベッドに寝かせ、気分を落ち着かせるお茶と胃に優しい麦粥や果物を用意した。
失礼な話かもしれないが、こういう時、彼女によく効くのは食べ物である。
彼女の使い魔である不死鳥のニクスが、一体どうしたんだと忙しなく聞いてくるのを横目に、クリスティーナさんは黙々と粥を掻き込んだ。
彼女が十人前くらいの粥を全て胃の腑に収めた頃には、その秀麗の極みと言える美貌は元の顔色を取り戻していた。
とりあえず、これで一安心である。
さて、レニーアは終始クリスティーナさんの枕元に置かれているドラゴンスレイヤーに、仇を見るが如き目を向けていたが、この日の夜は黙して語らず、特に何をするという事もなかった。
傍目には不貞腐れているようにも見えるので、レニーアのお付きのメイドであるファウファウは戸惑っているが、今のところそれ以外の弊害はない。
そうこうしているうちにすっかり日が落ちて、クリスティーナさんとレニーアが早々に寝入り、戦闘でかつてないほど力を行使したセリナも、疲労に負けてクッションの山の中に潜り込んでしまった。
すぐにすやすやと可愛らしい寝息が聞こえてくる。
そうなると、私の他にまだ起きているのは、バンパイアという種としての本来の生の時間を迎えたドラミナである。
一旦馬車の中に設置した棺に入って、度重なる戦闘の疲労を癒やしていたドラミナは、簡素な白地のワンピースに着替えてそっと私を訪ねてきた。
これまで赤を主としたドレスを纏った姿をよく見ていたが、月と星の光を柔らかに跳ね返すワンピース姿のドラミナからは、いつもより一層清楚な美しさを感じた。
皆が眠りについているのを確認した私は、セリナの家を出てドラミナと連れだって夜の帳が下りた村の道を歩く。
月光の化身、あるいは夜の女神と言っても誰もが疑わぬ美貌の主と、農家の子にすぎない私が並んでも釣り合いが取れないと、万人――いや、億人が嘆くに違いない。
「ふふ」
私の傍らを歩くドラミナはとても嬉しそうで、童女のようにあどけなく笑う。
ドラミナがこうして笑ってくれるのならば、世の諸人からの嘆きも嘲笑も、どれほどの事があろうか。
ドラミナの笑みはそれだけ素晴らしいのだから。
「抜け駆けをしてしまい、セリナさん達には悪いかなと思っているのですが、それ以上に貴方を一人占め出来る事が嬉しくて、どうしても胸が弾んでしまいます」
「聞いているこちらが恥ずかしくなるな」
「あら、自分の心の内を素直に告げる事は美徳ではありませんか?」
月光を浴びながら夜風に頬を撫でられ、ただ散歩しているだけなのに、ドラミナは幸せそのものの笑みを浮かべて、私の少し先を歩く。
その表情からは今日の死闘の影などまるで見えない。
「そうだな。反論の余地はないし、恥ずかしいという以上に嬉しいよ。私もドラミナと一緒にいられる時間が好きだ。いや、大好きだな」
そっくりそのまま胸の内を正直に伝えると、ドラミナは足を止めて視線を伏せた。
ドラミナの頬が赤く染まり、白いワンピースと白い肌によく映える。
「こ、これは確かに恥ずかしいですね。でも、やっぱり、それ以上に嬉しいです。私もドランの傍らにいるこの時間が、何よりも大好きですから」
ふむ、いかんな。
これではいつまでも互いの羞恥心を煽って喜ばせ合うだけだ。いや、別に居心地が悪いという事はないのだが……
気恥ずかしい雰囲気が醸しだされ、少しの間、口を閉ざしたまま歩を進めた私達は、一本の大樹の下で足を止めて肩を寄せ合いながら腰を下ろした。
もちろん、ドラミナの座る場所に自分のハンカチを敷く事を忘れる私ではない。
「お互い様というわけか。この場合は大歓迎すべきだろうけれどね。恥ずかしさに任せて言葉を減らすか、あるいは恐れず言葉にするかは、ドラミナに任せるよ。私は……さてどうしようか。ところで、ドラミナはこれからどうするつもりなのだね。生まれ故郷でするべき事はもう済ませてきたようだが、何か将来の展望は? あるいは何か叶えたい夢はないのかい?」
私の右側に腰掛けたドラミナの冷たい体温が肩越しに伝わってくる。
「故郷で成すべき事は成しました。見届けるべき事も見届けました。始祖の血と神器によって成り立つバンパイアの歴史は、分岐点を迎えたのです。あの国において、私はもはや過去の遺物。ですから、これからの私はただのドラミナとして生きていこうと決めています。そして、ただのドラミナという女になった私には、一つ……たった一つだけ夢があります」
ドラミナは全てをやり終えた者に特有の清々しい表情を浮かべて答えた。
「そうか。今後何もする事がないと言われたらどうしようかと思っていたが、ドラミナに夢があるとは、この上ない朗報だ。夢があるのなら、前を向いて未来に進む事が出来るからな」
私に会いに来てくれたのは以前交わした再会の約束を果たす為だったろうから、この後彼女がどうするつもりなのか、気になっていたのだ。
ほっと胸の中で安堵の息を吐いた私は、ドラミナがじっと私の首筋を見つめている事に気付く。
私の視線から、ドラミナは自分が何をしていたのかを悟ると、先ほどよりもはるかに強く羞恥の念に駆られたらしく、目を背ける。
ドラミナの超人そのものの克己心なら、どれほど血に飢えようとそう簡単に牙を剥く事はあるまいが、今ドラミナの本能が求めているのは、かつてない美味と快楽を齎した古神竜の血と私そのもの。いつまでも自分を律していられないと思ったのか、ドラミナは風に浚われるように立ち上がった。
離れようとする彼女の肩に手を回し、抱き寄せる。
「ああ、ドラン、どうか手をお放しになって。貴方に欲望を覚えるなど、私はなんと恥知らずな……」
自分の卑しさが悲しくて憎いだろうが、私としてはドラミナにならいくらでも求められて良いと思っているのが、本音である。
「そこまで自分を責める事はないよ。昼間は随分力を使ったのだし、私の力を用いた反動で私を求める欲求も強まっているのだろう。それに、ドラミナほど美しい女性に求められるのなら、男としてこれ以上の誉れはないというものさ。遠慮せずにおいで」
ドラミナは小さく咽喉を鳴らし、許しを請うように潤んだ瞳でこちらを見つめた後、そっと私の首筋に唇を寄せた。
かすかな二つの痛みの後に、温もりと共に血が流れ出る感覚が伝わってくる。同時に、ドラミナの咽喉が小さく動きはじめる。
唇が触れる感触に少しくすぐったさを覚えていると、ドラミナが何かを求めるかの如く左手で私の服の裾を握ってきた。
その仕草にピンときた私は、指を一本一本絡め、その手を握り返してあげた。
嬉しそうに私に体を預けてきたドラミナの美躯から香る匂いが、私を一人占めするように包み込んだ。
どれくらいの間、血を飲んだだろうか。血と私への欲求を満たしたドラミナは、頬を紅潮させたまま私の首筋から唇を離す。
次の瞬間にはもう傷口は塞がっており、吸血の痕跡は微塵もない。
ほうっと満足の吐息がドラミナの唇から漏れて、私の首筋をくすぐった。
「ドラン、私の為に申し訳ありません」
「いいさ。ドラミナが喜んでくれるなら、これくらいどうという事はない」
私が笑ってそう告げた時、ドラミナは何かに堪えられなくなったのか切ない表情を浮かべ、私の唇に自分の唇を重ねてきた。
ドラミナは普段の彼女からは想像も出来ないほど情熱的に唇を動かし、潤んだ瞳で私を見つめたまま貪るように唇を重ね続ける。血の味はしなかった。
「ドラン、愛しい方。私の生涯でただ一人の君」
ようやく唇を離した時、ドラミナの唇から紡がれたのは火の点いた彼女の愛そのものだった。そして、彼女は告げる。
「ドラン、私の夢は、たった一つの夢、それは……」
とても……そう、とても緊張した様子で深く息を吸い、ドラミナは真っ直ぐに私を見つめながら自身の夢を語る。
「私をドランのお嫁さんにしてください」
実に簡潔で、しかし熱の籠もった言葉だった。だからこそドラミナの純粋な想いが、素直に私へと伝わってくる。
もちろん、私の答えは決まっている。
それから、太陽の光が東の空に顔を覗かせるまでの間、私とドラミナは片時も離れる事なく一緒に居続けた。
ドラミナは一旦馬車に戻って、私は寝静まっている皆が目を醒まさないよう静かにセリナの家に帰って朝を迎えた。
ベルン村の朝は早く、太陽が昇りはじめればもう起床時間である。
私がセリナの家に戻ったのも束の間、皆が目を醒ましはじめて、セリナを中心にすぐに朝食の準備に取りかかる。
ガロア魔法学院から戻ってくる時は、夏の間は自宅で一人で夜を明かすと思っていたが、いつの間にやら私、セリナ、クリスティーナさん、ニクス、レニーア、ファウファウ、ドラミナと、大所帯になっているのだから面白い。
朝食を済ませた頃に、改めてドラミナが訪ねてきた。
彼女は陽光を避けるのと素顔を晒して呆然自失する人が大量発生するのを防ぐ目的で、鍔からヴェールの垂れ下がる赤い帽子を目深に被っていた。
ドラミナは昨日セリナの家に入らなかったので、ニクスとファウファウとは初対面である。
「皆さん、おはようございます。そちらのお二方とは初対面ですね。ドラミナと申します」
ヴェール越しの声に聞き惚れて、人間種であるファウファウのみならず、異種であるニクスすらうっとりとした表情を浮かべる。
「クリスティーナの使い魔の……ニクス、だよ」
「れれれ、レニーアお嬢様のお付きの使用人をさせていただいております、ふぁふぁ、ファウファウと申します」
一羽と一人がようやくこれだけの言葉を絞り出せたのは、ドラミナが挨拶をしたのち、随分と間を置いてからの事であった。
緊張のあまり関節の錆びついた人形さながらの動きになったファウファウが全員分のお茶を淹れたところで、おもむろにレニーアが口を開いた。
「ファウファウ、お前はこれで適当に食料を買い込んでこい。そこの食い意地の張った奴が、この家の食料を食い尽くしかねんからな」
レニーアがファウファウを外に行かせたのは、これから私達がする話を聞かせたくなかったからであろう。
「は、はい」
「……何をしている。さっさと行け」
ファウファウは反射的に返事をしたが、心ここにあらずといった様子で立ち尽くしているばかり。レニーアに急かされてようやく駆け出していった。
ファウファウが外に出る一方で、クリスティーナさんの使い魔であり、それ以上に家族であるニクスはこの場に残っている。
彼は昨夜私達が戻って来た時に、使い魔としての精神的繋がりからクリスティーナさんの雰囲気と霊格の変化に敏感に気付いていた。
加えてクリスティーナさんの重病人のような有り様を見て、火の粉を撒き散らしながら、何があったのかとしきりに問い質してきたのだ。
しかし何よりも休息を必要としていたクリスティーナさんの体調を慮って、詳しい説明は今まで延期していた。
「さて、何から話すとしようか」
私の呟きに応じ、発言の許可を求めて挙手をしたのは意外と言うべきか、クリスティーナさんである。
「そう、だな。私の方の話をする為にも、レニーアと君との関係性を教えてもらえるか? バストレルとの戦いで断片的には聞かされたが、全体像はまだ把握出来ていないし、やはり本人の口から教えてほしい」
体調こそ元に戻っているが、あまりに膨大な情報に晒されて、心の方は未だ落ち着いていないといったところか。
一つ一つ話をしていって、納得してもらうのが最良の道だな。
「ふむ、ではそれからいこうか。昨日からレニーアが私を〝お父様〟と呼んでいる事と、バストレルの話で大方想像はついているだろうけれど、私とレニーアは前世で繋がりがある。もっとも、互いに最初から知っていたわけではなく、私が知ったのは天空遺跡スラニアに行った時の事だし、レニーアもその頃だったな?」
「はい。恥ずかしながら、初めてお会いした時、私はドラン様がお父様であるとは気付きませんでした。スラニアでの一件があるまで、確信を抱く事が出来なかったのです。今思い返せばただただ悔いるばかりでございます」
肩を落として心底無念そうな様子を見せるレニーアに、私以外の視線が集まる。
一呼吸おいて、クリスティーナさんが改めて私を見て問いを重ねた。
「では、レニーアは君をお父様と呼んでいるわけだから、二人は前世では親子だったという事で良いのかい?」
「厳密に言うと違うな。前世の私の霊魂の情報や因子を採取した邪神カラヴィスが、自身の霊魂や血肉と混ぜ合わせて、対私用に生み出した神造魔獣がレニーアなのだよ。カラヴィスの奴がそんな事をしていたと知ったのは、さっきも言った通りスラニアの事があってからだな」
「そうか、確かに親子とは言い難……んん? ドラン、ちょっと待ってくれ。今、カラヴィスと言ったか? あの大地母神マイラールと対になる大女神の?」
ああ……そういえば、私にとってカラヴィスはごく当たり前に話題に出てくる名前だが、クリスティーナさん達にとってはそうもいかんか。
惨事を起こす邪教徒共が崇める神として、神話などで語られる時くらいしか、その名を聞く機会はないのだ。
「ああ、偽りなく、破壊と忘却を司る大邪神カラヴィスがレニーアの生みの親と言っていい存在だ。本来、私とカラヴィスの因子を用いて生み出されたレニーアは、それこそ戦神アルデスやマイラールに準ずるほど強大で格の高い魂を持っている。しかし、今はカラヴィスに枷を嵌められた状態だから、この地上世界の枠に収まる範疇の力しかない。そうでなければ、バストレルを相手にあそこまで手古摺るような事はなかったろうな」
カラヴィスと私が友人関係にある事など、地上世界に伝わる神話で語られてはいないし、知っているのは天界魔界の知り合い達くらいか。
まさかここでカラヴィスの名前が出るとは予想していなかったらしく、クリスティーナさんばかりか、お茶を啜っていたセリナと、私の左隣に腰掛けているドラミナもヴェールの奥で驚きを露わにしている。
「いやいやいやいや、カラヴィスって……カラヴィスって! ドラン君、自分が何を口にしているか、分かってる!?」
特に分かりやすい反応を示したのは、クリスティーナさんの左肩に止まっているニクスだった。
神々への信仰心などわずかもなさそうな彼だが、カラヴィスは大物すぎたらしい。
流石にのんびりお茶を飲んでもいられなくなったのか、セリナも目をまん丸に見開き、私の右腕に腕を絡ませながら問い掛けてくる。
「邪神の代表みたいな女神が関わっているなんて、私も初耳です、ドランさん」
セリナの行動を見たドラミナが、少し躊躇う素振りを見せながら、同じように私の左腕に腕を絡めて、不安そうな目を向けてきた。
おやおや、嫉妬か羨望か。どちらにせよ、可愛い事をするものだ。
「カラヴィスは名前を口にするだけでも何が起きるか分からないところがあるし、少々問題がある相手だから、なるべく触れないようにしていたのだよ。まあ、前にアレと顔を合わせた時に直接言葉と力で釘を刺しておいたから、こうして私が生きている間は滅多な事はしないだろう。奴を信奉するカラヴィス教団も、活動を停止しているか解散しているかもしれん」
それを聞いて、セリナはますます目を丸くした。
「直接釘を刺しておいたって、会った事があるんですか!?」
セリナの驚きも無理はないか。普通なら神に会うどころか、声を聞く事ですら稀なのだから。神官や司祭達が独自の戒律を守り、厳しい修行を積み重ね、魂を磨いてようやく聞こえるかどうか。それを私は、あたかも近所の知人に会いに行ったような気軽さで口にしたのだ。私が古神竜ドラゴンだと知ってもなお、驚きもしよう。
「エンテの森の一件の後に私の事を見つけて、向こうから会いに来たのさ。前世からの付き合いがあったのでね。あえてカラヴィスと私の関係を言葉にするのなら、悪友といったところだ。得難い友であるのと同時に、互いにとって最大の敵でもあったよ。最後に会った時の様子からすれば、私やセリナ達に対して意図して悪企みする事はあるまい。実はエンテの森でニーズヘッグを始末した後に、あの悪魔の王子に囚われていた他の世界樹や妖精達を助けるのにも手を貸してくれたのだよ、彼女は」
「はあ……。ドランさんの事で何が起きてももう驚かないつもりでしたけれど、ドランさんは私の予想をいつも覆してくる凄い人ですねえ。レニーアさんがドランさんの事をお父様って呼んだ時も、実はとっても驚きましたけど……」
「ふふ、私もレニーアにお父様と呼ばれた時は、自分の耳がおかしくなったかと疑ったものさ。だが、レニーアの魂が私とカラヴィスの因子から出来ているのは間違いない。バストレルがあそこまで自信に満ち、嬉しそうにしていたのは、奴にも私とレニーアの因子が用いられていたからだ。その所為で私達が力を強めるのに呼応して自分の力を高められたのだからな」
そう語ったところで、私は視線を転じた。
「さて、残る問題……いや、謎と言うべきかな。クリスティーナさんの変化についてだが」
皆の視線も、クッションを敷いた樽椅子の上にお尻を乗せたクリスティーナさんと、彼女が左腕に纏めて抱えている二振りの剣――エルスパーダとドラゴンスレイヤーへと移る。
「そうだよそうだよ。昨日、突然クリスティーナが苦しみだしたと思ったら、とてつもない霊格が感じられるようになってさ、一体何があったっていうんだい!?」
私のカラヴィス発言ですっかり普段の調子を乱されていたニクスは、話題がクリスティーナさんにまつわる事に変わった事で、勢いを取り戻して嘴を忙しなく動かす。
これほどまでに心配するとは、ニクスにとってもクリスティーナさんは家族だという事か。
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