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神と魔と人と

第三百十六話 同窓会

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 競魔祭決勝戦は、多くの観客達の目には白熱した戦いであるように見えていた。
 実際にはまるで違うのを理解していたのは、ごく一部の力ある観客と実況席に座っている解説者メルル、それと実際に戦っている選手くらいのものだ。
 魔剣バルホースと霊刀キリシャナを携えるジエル魔法学院の大将ハルトは、この競魔祭の舞台でもっとも無力を感じている人間に違いなかった。
 去年の競魔祭でもガロア魔法学院のドランを相手に、絶望的な戦いを挑まざるを得なかったが、今、彼が相対しているレニーアもドランとはまた異なる絶望的な戦力の持ち主だ。

 二振りの刀剣を、翼を広げた鳥のごとく構えるハルトと対峙するレニーアは、強大な意思の力によって形作られた半透明の思念の竜の中で、傲岸不遜という言葉をこれ以上なく体現した態度でハルトを睥睨している。
 この地上において最も強大な思念魔法の使い手たるレニーアならば、視線一つだけで人体を四散させる念動を無制限に使い放題だが、それをしないのは試合形式の決勝戦の場であるのと、殺人など御法度もいいところだから自粛しているだけに過ぎない。
 レニーアがその気になれば試合開始と同時に負けていたと、肌で理解できていたハルトは実戦で敵対しなくて済んだと、安堵している自分を心底情けなく思う。

「ふん、去年、ドランさんと刃を交えた時よりも一割か二割は強くなったが、ふははははは、私の牙城を崩すにはまるで足りぬわ。蟻がいくら牙を立てようとも、私という名の城塞を崩壊させることは叶わぬと知れ!」

 無数の観客達の注目を集め、そしてこの世でもっとも尊敬する魂の父ドランの見ている場面とあって、母たる大邪神カラヴィスからお調子者の気質を受け継いでいるレニーアは、観客席にも響き渡る高笑いをする。
 レニーアと去年の競魔祭で当たったハルトの学友ユーキは、同じ思念魔法の使い手であった為か、レニーアに試合中にも関わらずとことんまでしごかれて試合終了と同時に気絶してしまったものだ。今のレニーアはその時の様子を思わせる不穏さがある。

「塵も積もれば山となる。まずは牙を立てるところから努力させてもらうさ」

「くくく、あきらめて降参するよりもよほど気骨のある返答だ。この晴れ舞台で精々足掻いて見せるがいい。そうら、そらそらそら、むははははは!」

 レニーアの口元に浮かび上がる、肉食獣ならば決して浮かべぬ悪意と愉悦の入り混じる邪悪な笑みよ。その笑みを真正面から目撃したハルトのみならず、彼の手に握られる意志あるバルホースもキリシャナも、魂を冷たい手で握られたような悪寒に襲われる。
 かつてキリシャナはレニーアを大悪魔かなにかの生まれ変わりではないか、と語ったことがあるが、今、ハルトの脳裏にはその時の会話が思い出されていた。
 レニーアの高笑いと共に思念竜の右腕が振るわれて、観客にもわかりやすいよう配慮された色付きの思念の砲弾が放たれる。夜の闇を凝縮したような黒い思念を、ハルトは春の風に舞う蝶のように軽やかに避けて、レニーアとの間に開いていた距離を詰めるべく駆ける。

流々放刃りゅうりゅうほうじん タイダルブレイド!」

 ハルトの得意とする魔法剣は水の属性を刃にまとわせ、ハルト自身は川の流れのように留まらず、流麗に舞台上を駆けてゆく。
 避けきれぬ思念の砲弾はバルホースの黒い刃とキリシャナの白い刃が斬り捨て、彼の通った後に黒い霧となって散ってゆく。
 その姿は人々に大魔王に勝機の薄い戦いを挑む勇敢にして無謀なる勇者を想起させた。ハルトと同じジエル魔法学院の生徒たちからすれば、悲痛もいいところの姿だったろう。
 波濤の勢いをもってレニーアとの距離を一挙手一投足にまで縮めたハルトは、さらに身を低くし、闘気と魔力を両足へと集中し、舞台の床を蹴る足裏でそれらを爆発させる。文字通り爆発的な推進力を得た加速したハルトは、思念竜の腹部へと振りかぶった二つの刃を渾身の力で叩きつける!

山斬刃さんざんじん イガリマガリ!」

 斬撃とその範囲の延長に重点を置いた魔法剣は、バルホースとキリシャナの刃長をはるかに上回る白銀の魔力の刃を形成し、思念竜の腹部に左右から斬り込まんとする。
 装甲めいた思念竜の体表に激突した魔法刃は、レニーアの破壊の意思と一進一退の攻防を演じ、わずかに斬り込んだかと思えば反発によって押し返されるのを繰り返す。
 思念竜の腹部から周囲へと、砕けた魔力と思念の破片が黒白の火花と散って、眩い光が舞台上を照らし出し、観客達の熱をさらに上げる。
 しかし、思念竜に斬り込むハルトと刀剣達は、この拮抗がレニーアの絶対的な余裕と自信によって演じられているものだと痛いほど理解できていた。

「手加減かっ」

 手を抜かれたとて怒りを見せることもできないほどの実力差に、ハルトはただ悔しさに歯噛みし、金と銀の瞳を細めてレニーアを見上げるしかできない。

「色々と事情を汲むも汲まぬも、それが競魔祭というものだろ? ふふん、私も少しは政治の機微というやつを理解してきたのでな。
 周囲を沸かせる練習を兼ねて、お前と戦っているのだ。不満も不服もあるだろうが、気概程度で私は動かぬ。私の意思を覆せるほどの力を見せねば、いくら吠え立てようが、舌を動かそうが無意味よ」

 自分よりも力の弱い者の意見など一顧だにせず、といっそ冷酷なまでに態度と言葉で示して見せるレニーアは、確かにそう口にするだけの強大な力の持ち主であり、その彼女が心酔するドランの異様さもまた浮き彫りになるというもの。

「去年と今年のガロアは本当に魔境だな!」

 ハルトはこれ以上斬り込めないと判断し、イガリマガリの魔力刃を消し、大きく引き戻した刃に再び練り上げた闘気と魔力を充填し、光り輝く刃を、夜空を切り裂く流星の如く突き込む。

彗星突すいせいとつ メテオテール!」

 巨大な金属の塊にハンマーを叩きつけたような衝突音が、思念竜の体表と二振りの切っ先の間で生じ、渾身の力を籠めるハルトは何とか体表を貫くか傷の一つも残さんと肉体と魂の奥底から闘気と魔力を絞り出す。
 思念竜の内部に留まるレニーアには痛痒も、辛苦の色もないが、昨年のドランとの戦いでも見せたハルトの気骨ある戦いぶりには少しばかり感心した様子を見せている。

「ふふん、諦めを知っていてなおそれだけの闘志を見せるのはよい。私やドランさんの域には大きく及ばぬとも、お前は十分に強者と言えるだろうよ。比べる相手を間違えなければな!」

 遊びはここまでだ、とレニーアの意思が思念竜と刃を通じてハルトの意識に叩き込まれた。強制的かつ一方的に叩き込まれる念話は、叩き込まれた側の意識をかき乱す効果を発揮する。たまらず闘気と魔力の捻出を乱し、眩暈を起こしたハルトの頭上から、大きく振り上げられた思念竜の右腕が振り落とされる。
 これが競魔祭でなかったなら、ハルトが原形を留めない赤い染みとなった一撃が、競魔祭決勝戦の勝敗を決める一撃となった。

「今年も、勝てなかったか……」

 視界を埋め尽くしながら迫りくる思念竜の右手を見上げながら、ハルトは悔しさをにじませた呟きを零す事しかできなかった。

「ふん、私とドランさんに勝てないのは当たり前だ。お前以外の誰であっても、この地上にはおらんわ」



 ガロア魔法学院の二年連続での競魔祭優勝を称える優勝旗などの授与式と閉会式を終えた後、参加校と生徒達の労をねぎらう祝宴が催されるのは去年と変わりはない。
 競魔祭の観戦に来たのはドランばかりでなく、試合中、ディアドラは長い付き合いのあるガロア魔法学院長オリヴィエのところへ顔を出し、セリナは親睦の深いガロア魔法学院の生徒達のところへ顔を出し、観覧席も同じくしていた。

 競魔祭が終わった後にドランのところへ集合した三人には祝宴の参加も打診されており、今回はラミアの姿のままでセリナも参加する運びとなっている。
 セリナが去年と違い、ベルン男爵領にて正式に雇用され、騎士の身分を与えられている事、そしてなによりアグラリア戦役における、セリナの率いるラミア達の活躍が広く伝わっていたのも大きい。
 くしくも戦役に参戦した諸侯らから魔王軍の脅威が克明に伝えられるに比例して、魔王軍を相手に果敢に戦い、勝利の大要因となったベルン男爵領の面々の対外的な評価が高まる事となったのである。

 さて祝宴への参加にあたって、セリナはラミアの体用に仕立てられた、ゆったりとしたラインを描く、セリナの瞳と同じ色のドレスを着こみ、元から豪奢な黄金の髪は、金糸による春の花々の刺繍が施されたリボンで二つに纏められている。
 ディアドラは元々、パーティーに出席してもおかしくないドレス姿が常だが、今回は珍しく絹の光沢が美しいベージュのストールを重ね、黒のダイヤをあしらったイヤリングも着けていた。ベルン男爵領の重要人物として、こういった場面での衣装に気を遣うようになったのかもしれない。
 去年は制服で構わなかったドランだが、彼もまたクリスティーナの補佐官としておかしくないよう、王家の人間も臨席する祝宴に出席するのに相応しい基準に達した服装に袖を通している。

 祝宴が始まり、競魔祭に出場した各魔法学院の生徒達がフラウと瑠禹に挨拶をし、それに答えた二人が労う言葉をかけるやり取りを済ませ、祝宴の始まりが告げられる。
 あくまで主役は魔法学院の生徒であるため、それなりに着飾った貴族や生徒の親族らも話題の中心は生徒達となるように配慮している。
 ただ、今回ばかりは国交を結んだとはいえ姿を見るのが稀な龍宮国の皇女がこの場にいる事と、久しく絶えてなかった戦争に大きく関わったドランがいる事で、常の競魔祭後の祝宴とは異なり、彼らに注目が集まりがちだったのは仕方のないことだったろう。

 ドランは祝宴前に合流したセリナとディアドラを連れて、魔王軍との戦争について尋ねたがる雰囲気を出す貴族達に、それとなく視線や仕草で断りを入れながら、後輩達のもとへと足を向けた。
 三年連続で競魔祭に出場して活躍したネルネシアと去年、今年の二年でドランを除いて他の追随を許さぬ暴虐とさえいえる力を示したレニーアへ向けられる関心は大きい。彼女らと関係を持ちたいと考える貴族は多くいるだろう。

 もっとも、当の二人は何よりも食い気に走っていて、テーブルの上の銀の大皿に並べられた王国各地、またあるいは異国の珍味妙味を手当たり次第に食べる事に熱中している。
 有望な貴族のもとへの仕官を願っているアズナルとクシュリは、そんな二人の行いに呆れ気味だが、かといってこの場を離れて自分達を売り込みに行く気にもなれないようで、めったに味わえない豪勢な料理が冷めないうちに、とネルネシア達に比べれば随分とつつましく料理に手を付けている。

 マノスはといえば同じ場にこそいるものの、競魔祭での自作ゴーレムの反省点や改良点を思い浮かべては検討するので忙しいらしく、椅子に腰掛けて時折果汁水で喉を潤す以外にはこれといって動きを見せていない。
 彼自身の去年からの努力とドラン、リネットからの技術や資材の供与もあり、マノスのゴーレムは最新鋭の軍用ゴーレムを上回る性能を発揮したが、まだまだ彼は満足しきってはいないのだった。その向上心をこそ、ドランは大いに気に入っていて、肩入れしているわけだ。
 そんな五名の過ごし方を見て、大蛇の下半身を持ちながらも、その美麗さに賞賛の視線を集めているセリナが困ったようにドランに告げた。

「なんと言ったらいいのか、皆さん、思い思いの過ごし方をしていますね。ガロアらしいといえばらしいのですけれど、他の生徒さん達も皆さんがああなのだと勘違いされてしまいそう。去年もあんな感じだったのでしょう?」

「ふむ、クリスとレニーアはああして食べ物に集中していたね。ネルはエクスに話しかけられて途中退席したが、まあ、去年とそう変わらんか」

 そんな優勝校とは思えない気の抜けているというか、場の空気を読まない行いに耽っているガロア魔法学院の面々に苦笑しつつ、ドラン達は後輩達へ祝いの言葉を伝えるべく声をかけた。
 最初に近づいてくるドラン達に気づいたのは、ファティマとその傍らに影のように控えているシエラだった。ファティマの使い魔扱いとはいえ半バンパイアであるシエラが祝祭の会場にいるのも、去年との何気ない違いの一つだろう。

「あ、ドランだぁ~。セリーにディアドラさんも一緒だね~」

 ドランは、ふむ、こののほほんとした学友の喋り方を聞くと、途端に学生生活が思い起こされて懐かしくなっていかん、と口元を綻ばせた。
 もう学生気分ではいられない立場なのだが、ファティマ達と過ごした、たった一年間の学生生活がそれだけ輝かしいものであったのは疑いようもない事実だった。
 ファティマの言葉に応えて、片手をあげるドラン達にレニーアを始め、彼女の世話をしていたイリナに思考の海に潜っていたマノス、重ねられた皿の塔にあきれていたアズナルとクシュリも偉大なる先達に意識を向ける。
 競魔祭で多大なる活躍を見せ、魔王軍との戦いでも輝かしい戦果を上げた功労者となったドランと彼に続くかもしれない後輩達との会話は、周囲の貴族や魔法学院関係者にとって、聞き耳を立てるに値する。

「皆、月並みな言葉だが優勝おめでとう。今年も晴れてガロア魔法学院が優勝の栄誉を得られる瞬間に立ち会えてうれしく思う。クリスティーナ閣下とドラミナもこの場にいたなら、君たちの勝利と栄誉を大いに褒めちぎっただろう」

 対外向けに愛しい婚約者を上司として呼ぶドランの賞賛に続き、ニコニコと純真な笑みを浮かべるセリナと安堵したような微笑を浮かべているディアドラも短いながら、祝福の言葉を口にする。

「優勝できたことも何よりですが、皆さんが怪我をすることなく競魔祭が終わって安心しました」

「まあ、競魔祭が学生生活のすべてというわけではないし、しばらくは優勝の美酒に酔いしれてもいいのでしょうけれど、学生の本分を忘れないようにね」

 ディアドラの台詞がどことなく教師じみているのは、実際に彼女が数ヶ月という短い期間ではあるが、ガロア魔法学院で教鞭を執った影響かもしれない。
 ディアドラの言葉にファティマがのんびりと手を上げて、楽しそうに笑って答える。

「は~い、競魔祭優先だった分、疎かになっていた勉強もたくさんしないとね~」

 マノスとレニーアは競魔祭向けの特訓も学業も両立させていたが――特に昨年の失態を肝に刻んでいるレニーアは――、ネルネシア、アズナル、クシュリらはどうしても特訓の方に大きく注力したため、勉学に若干の支障が出ている。
 その自覚があるからだろう、アズナルとクシュリは互いの顔を見合わせて苦く笑う。ネルネシアだけは表情を変えず、下品にならぬ程度に口の中に詰め込んだ食べ物を咀嚼中だ。
 ネルネシアに先んじて口内の飲食物を飲み込み終えたレニーアは、イリナに汚れた口元を拭ってもらってからファティマの発言に彼女らしい意見を述べた。
 レニーアがイリナに甲斐甲斐しく世話されることには、少なくともガロア魔法学院の面々からは何も意見が出てこないところからして、ドラン達が卒業した後でもこの二人は常日頃からこのようにして日々を過ごしているに違いない。

「勉学のこととなればそれは個人の責任だな。自分の不始末は自分でどうにかするべきだろう。ファティマ、あまりネルネシアを甘やかすなよ」

「あははは、頑張って厳しくするよ~」

「お前の言葉遣いだけで考えると今一つ信用できんが、優しいのと甘いを混同してはおらんからな。本当にネルネシアの為になる行動をするか。ま、私がどうこう口にする問題でもないか」

 ネルネシアは、ちぇ、というよく見知ったものでなければわからないくらいささやか表情の変化を見せたが、レニーアの方が正論であるのは自覚があるようで抗議する様子はない。そこまで厚かましい少女ではないということだ。

「そしてドランさん、それとセリナ、ディアドラ、北の魔族共との戦いに備えご多忙の最中にも関わらず、後輩である私共の為にご足労いただき、感謝の念に堪えません。幸いにして競魔祭の優勝を捧げることが叶い、私としてはまず安心いたしました」

「ああ、見事な結果だったよ。先達として誇りに思う。ただ、こういっては君の機嫌を損ねるかもしれないが、決勝に至るまで何度か敗北したのを烈火のごとく怒るのではないかと危惧していたが、君達の様子と雰囲気を見るに杞憂で終わったようでなによりだ」

 ドランからの指摘に、レニーアはこれまでの自分を鑑みればさもありなん、と小さく笑って受け流す。ドランと出会ったばかりの頃、いや、もうしばらく経った頃でもドランの危惧した対応をしただろうが、今の彼女は精神的に大きく成長していた。それこそドランの想像を超えてと言っていいほどに。

「むろん、望ましいのは全試合全勝利の上での優勝ですが、だからといって敗北を交えた今回の優勝の価値が下がるわけではありません。
 意図的に手を抜いて敗北したというのならば、このレニーア、地獄の悪鬼も青ざめる所業に及びもしましょうが、誰もがその時、その時で、己にできる全力を出した結果です。ならば力の足りなかったことに悔しさはあろうとも、堂々と胸を張るべきでしょう」

 ほう、とドランの口からは正直な感嘆の気持ちが短い言葉となって零れ出た。セリナとディアドラは我が子の活躍を実感する母親のように、うれしげにうんうんと頷いている。
 将来的には内々の話ではあるが、義理の娘となるレニーアが相手であるから、まあ、おかしくはないが、事情を知らない者からしたら不思議な光景だったかもしれない。
 レニーアの意見にはネルネシアはもちろん、アズナルやクシュリ達も同意見のようで、全力を尽くしたという一点において、彼らに引け目は微塵もない。
 そんな彼らを賞賛する声が、周囲を取り巻いていた貴族達の向こう側から盛大にあげられた。大ホールに響き渡る声は、ドランやレニーアにとっては実に聞き慣れたものだった。

「そおの通りですわ! このフェニアの目から見ても、負けた試合であれ本気で挑んでいたのは明らか。本気と全力とでは意味合いが異なりますが、真摯に競魔祭に取り組まれていた事に異を挟む方がいようはずもありません。ふんふん!」

 まるで人型の炎であるかのような輝きと活力を周囲へこれでもかと発しながら、赤い鳥の羽を思わせる飾りがあしらわれたドレス姿のフェニアである。実家に戻っている為に、ネルネシアやレニーア以上にドランやセリナらと顔を合わせる機会の減っていた女傑の相も変わらぬ壮健さと華のある姿に、自然とドラン達の口元には笑みが浮かび上がる。

「おほほほほ、こうして皆さんとこのようなめでたき場にて顔を合わせることができるとは、このフェッニーア、この秋一番の喜びですわ!」

 自然と貴族達が分かれてフェニアの通り道を作り、満面の笑みを浮かべたフェニアがガロア魔法学院の面々の輪に加わる。彼女もまた昨年の競魔祭で大活躍した生徒であり、名家フェニックス家の令嬢とあって、行動を妨げる者はいない。
 この場にフェニアが加わり、クリスティーナがいれば昨年の競魔祭出場者が揃ったのに、とドランはわずかに惜しんだ。

「ふふ、レニーア達の優勝を祝う為の場だが、これではまるで私達の同窓会のようになってしまったな」

 少しだけ一人かけている事への寂しさを交えて微笑むドランに、フェニアとレニーア、ネルネシアも心から同意した。それでもドランが新たな戦場へ赴く前に、心残りだった後輩達の活躍をこの目で確かめることができたのに変わりはない。
 そして、ドラン、ディアドラ、セリナ達を次の戦場が待っているのだ。
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