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第1章 アースからの旅立ち
6.宇宙の放浪者ーその名は人工知能カラミティ
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バラクーダ達が捉えた微弱な電波の発信地に向かってみると、そこにはかなり旧式だが比較的大きな巨大貨物艇が停泊していた。
「だれもいね~な。乗組員は一体どこへ行ったんだ・・・。」
早速、接舷し艇内へと乗り込んだバラクーダ一行。しかし中には人影は無く、静まり返った艇内はかえって不気味な雰囲気を醸し出している。
「食糧庫らしき所も見たけど、食品はおろか何もかもスッカラカンだわ。」とベニステラが戻ってくる。
「こちらにも生活感のある様子はありません。」とスペルナ。
調べてみるとやはり貨物船らしく、倉庫や貨物庫と思しき空間は存在するのだが、荷物や食材は無く静寂な空間が続いているだけだった。それに何よりも人間や生命体の存在は、気配すら感じなかった。当然、生活感すら微塵も感じられない空間だった。
「それにしても・・・。」とバラクーダが訝しがる。そう、この艇にはおよそ人間がかつて生活していた痕跡がまるで見当たらないのだ。それでは、あの電波は一体どこの誰から送信されていたのだろうか。
すると突然、内部のスピーカーというスピーカーから、勇壮で躍動感溢れる旋律が奏でられてきた。
「!・・・。ドヴォルザーク交響曲第9番、新世界よりか。」
1890年代に作曲された、当時の地球の音楽家ドヴォルザークの手による有名なクラシック音楽である。しかし、この曲が奏でる勇壮かつ雄大な曲調とは裏腹に、この艇内の空間ではどこかもの悲し気な空気が漂っている。
「みんな、こっちへ来てくれ。」とビライが現れ、どこか指令室の様な部屋へと一行を案内する。そこはコックピットの様な部屋だったが、計器類はあるものの操縦桿が無い。人が座れる様なイス等もなくただのだだっ広い空間が大部分を占めている様な感じだ。しばらく部屋の計器類を眺めていたバラクーダだったが、やがて思い当たったように「そうか!」と叫んだ。
「全て自動操縦されているのか。道理で人の手を借りずに航行できるわけだ。すると電波の発信主は・・。」
すると音楽を奏でていた部屋のスピーカーから「ご名答。みなさん、お初にお目にかかります。私はこの長距離輸送貨物船プラトニック号管理ソフトAIのカラミティと申します。」と今度は明瞭な若い女性の音声が響き渡った。
「分かったわ。この艇はもともと人間が運用していたのではなく、人工知能がオペレーターだったのね。でもどうして私たちをここへ招き寄せたのかしら?。」とベニステラが疑問を口にした。
「お答えします。それはあなた方とともに確率支配都市国家サイコロッケへ行きたかったからなのです。」と人工知能が応じる。
「ええっ。どうして?。なぜ我々と行きたいんだ・・・。」
人工知能が語ったのは次の様な話だった。今から50年位前、ある惑星から一隻の自動操縦自律型貨物輸送船プラトニック号が飛び立った。行く先は辺境宇宙にある確率支配都市国家サイコロッケのあるアトランダム星である。しかし、旅の途中宇宙磁気嵐に遭遇してまきこまれてしまった。かろうじて嵐の渦中から抜け出せたものの、艇は破損し計器類も故障してしまう。長い時間をかけて修繕しないと航行不能となっていた。幸い、自律式の艇では人工知能が自動的に修復するので、乗組員不在のまま、50年の月日をかけて修繕し漸く長距離航行はできないまでも一定のスピードなら航行することが可能なまでには修復できた。しかし、宇宙磁気嵐のために本来、サイコロッケに運ぶはずであった積み荷は失われ、50年経った今でも見つけることができないでいたのである。
「しかし、今日あなた方のところから私が運ぶはずだった荷物の信号をキャッチしたのです。」とカラミティ。
「!。すると、アンタもあのキューブを運んでいたのか?。」バラクーダが尋ねる。
「そうです。あれは私がサイコロッケへ届けるはずの荷物の一つでした。その荷物の僅かに発する電気信号を受信したので、私はあなた方を招き入れたというわけです。」
人工知能カラミティによるとあのキューブはサイコロッケの科学者タオという博士が太陽系第3惑星地球で作り上げたものらしい。博士はそれをある知人に渡してサイコロッケへ先に帰還した。その後、その知人が亡くなったため遺品は博士の元に返還されることになった。こうしてあのキューブを輸送するためにプラトニック号は出発したというわけだった。
バラクーダは自分達がこの貨物艇に乗り込んだ時にあのドヴォルザーク交響曲第9番が流れたわけをなんとなく感じ取った。人工知能とはいえ長い間、艇の修復と失われた荷物を見つけるために50年もの間、たった一人で旅をし続け、様々な苦難を乗り越えながらも宇宙を彷徨っていた彼女にとっては故郷だった地球を離れ、見知らぬ宇宙空間での旅路こそまさに「新世界」をあてどもなく旅していた気分だったに相違ない。その気持ちは同じ運び屋としてバラクーダにも分からぬではなかった。
しかし、問題はそれだけではなかった。
「実は運んでいた積荷はアレだけではありません。他にも貴重な2つの物をサイコロッケへ運ぶ途中でした。」
カラミティによれば、あのキューブ以外にあと2つの物体をサイコロッケへ運ぶ予定だったらしい。それらも事故の時に同時に失われてしまったとのこと。
「一体、残りの品は何なんだ?。」
「それは、私にも判らないのです・・・。実はそれらを探すためにも、あなた方と同行したいのです。」
ただ、同じように何らかの電波信号を発信しているので、受信可能な所へ近づけば位置や方角は分かるという。
こうして、バラクーダ達は貨物輸送船プラトニック号とその操縦人工知能カラミティを新たに仲間に加え、サイコロッケへ向けて出発することになった。
「だれもいね~な。乗組員は一体どこへ行ったんだ・・・。」
早速、接舷し艇内へと乗り込んだバラクーダ一行。しかし中には人影は無く、静まり返った艇内はかえって不気味な雰囲気を醸し出している。
「食糧庫らしき所も見たけど、食品はおろか何もかもスッカラカンだわ。」とベニステラが戻ってくる。
「こちらにも生活感のある様子はありません。」とスペルナ。
調べてみるとやはり貨物船らしく、倉庫や貨物庫と思しき空間は存在するのだが、荷物や食材は無く静寂な空間が続いているだけだった。それに何よりも人間や生命体の存在は、気配すら感じなかった。当然、生活感すら微塵も感じられない空間だった。
「それにしても・・・。」とバラクーダが訝しがる。そう、この艇にはおよそ人間がかつて生活していた痕跡がまるで見当たらないのだ。それでは、あの電波は一体どこの誰から送信されていたのだろうか。
すると突然、内部のスピーカーというスピーカーから、勇壮で躍動感溢れる旋律が奏でられてきた。
「!・・・。ドヴォルザーク交響曲第9番、新世界よりか。」
1890年代に作曲された、当時の地球の音楽家ドヴォルザークの手による有名なクラシック音楽である。しかし、この曲が奏でる勇壮かつ雄大な曲調とは裏腹に、この艇内の空間ではどこかもの悲し気な空気が漂っている。
「みんな、こっちへ来てくれ。」とビライが現れ、どこか指令室の様な部屋へと一行を案内する。そこはコックピットの様な部屋だったが、計器類はあるものの操縦桿が無い。人が座れる様なイス等もなくただのだだっ広い空間が大部分を占めている様な感じだ。しばらく部屋の計器類を眺めていたバラクーダだったが、やがて思い当たったように「そうか!」と叫んだ。
「全て自動操縦されているのか。道理で人の手を借りずに航行できるわけだ。すると電波の発信主は・・。」
すると音楽を奏でていた部屋のスピーカーから「ご名答。みなさん、お初にお目にかかります。私はこの長距離輸送貨物船プラトニック号管理ソフトAIのカラミティと申します。」と今度は明瞭な若い女性の音声が響き渡った。
「分かったわ。この艇はもともと人間が運用していたのではなく、人工知能がオペレーターだったのね。でもどうして私たちをここへ招き寄せたのかしら?。」とベニステラが疑問を口にした。
「お答えします。それはあなた方とともに確率支配都市国家サイコロッケへ行きたかったからなのです。」と人工知能が応じる。
「ええっ。どうして?。なぜ我々と行きたいんだ・・・。」
人工知能が語ったのは次の様な話だった。今から50年位前、ある惑星から一隻の自動操縦自律型貨物輸送船プラトニック号が飛び立った。行く先は辺境宇宙にある確率支配都市国家サイコロッケのあるアトランダム星である。しかし、旅の途中宇宙磁気嵐に遭遇してまきこまれてしまった。かろうじて嵐の渦中から抜け出せたものの、艇は破損し計器類も故障してしまう。長い時間をかけて修繕しないと航行不能となっていた。幸い、自律式の艇では人工知能が自動的に修復するので、乗組員不在のまま、50年の月日をかけて修繕し漸く長距離航行はできないまでも一定のスピードなら航行することが可能なまでには修復できた。しかし、宇宙磁気嵐のために本来、サイコロッケに運ぶはずであった積み荷は失われ、50年経った今でも見つけることができないでいたのである。
「しかし、今日あなた方のところから私が運ぶはずだった荷物の信号をキャッチしたのです。」とカラミティ。
「!。すると、アンタもあのキューブを運んでいたのか?。」バラクーダが尋ねる。
「そうです。あれは私がサイコロッケへ届けるはずの荷物の一つでした。その荷物の僅かに発する電気信号を受信したので、私はあなた方を招き入れたというわけです。」
人工知能カラミティによるとあのキューブはサイコロッケの科学者タオという博士が太陽系第3惑星地球で作り上げたものらしい。博士はそれをある知人に渡してサイコロッケへ先に帰還した。その後、その知人が亡くなったため遺品は博士の元に返還されることになった。こうしてあのキューブを輸送するためにプラトニック号は出発したというわけだった。
バラクーダは自分達がこの貨物艇に乗り込んだ時にあのドヴォルザーク交響曲第9番が流れたわけをなんとなく感じ取った。人工知能とはいえ長い間、艇の修復と失われた荷物を見つけるために50年もの間、たった一人で旅をし続け、様々な苦難を乗り越えながらも宇宙を彷徨っていた彼女にとっては故郷だった地球を離れ、見知らぬ宇宙空間での旅路こそまさに「新世界」をあてどもなく旅していた気分だったに相違ない。その気持ちは同じ運び屋としてバラクーダにも分からぬではなかった。
しかし、問題はそれだけではなかった。
「実は運んでいた積荷はアレだけではありません。他にも貴重な2つの物をサイコロッケへ運ぶ途中でした。」
カラミティによれば、あのキューブ以外にあと2つの物体をサイコロッケへ運ぶ予定だったらしい。それらも事故の時に同時に失われてしまったとのこと。
「一体、残りの品は何なんだ?。」
「それは、私にも判らないのです・・・。実はそれらを探すためにも、あなた方と同行したいのです。」
ただ、同じように何らかの電波信号を発信しているので、受信可能な所へ近づけば位置や方角は分かるという。
こうして、バラクーダ達は貨物輸送船プラトニック号とその操縦人工知能カラミティを新たに仲間に加え、サイコロッケへ向けて出発することになった。
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